Report30:桜の開花01
世界共通の暦がCEMO:91年の2月下旬になり、日本では立体映像を使った花吹雪が全国各所で見られる時期になる。CEMO暦になってから約50年後、電子革命の影響により開発された「立体映像を見ることが出来るサングラス」を世界中の子供や大人が携帯するようになった。革命の影響は人々の習慣にも変化をもたらした。その1つが日本では花吹雪の季節になると、人々は突然に出現する桜並木を見ようと街の中を歩くということである。そんな光景は都会だけでなく、佐々木地区のような田舎でも見かけるようになったのはまだ、6年前のことである。
「こんな時期に桜まつりをしても、他の地区から来る人の数は年々減っていくようになってしまったなぁ。そう思わないかい、大海君さ~。」
「そうですねぇ、局長。」
「立体映像で見るよりも、やっぱり生じゃないといけないと思うんだ。いくら技術がよくても、風情がないよね。」
「ええ、おっしゃる通りです。」
「国にさ、許可をもらって、立体映像の桜を意図した場所に咲かせる。それと、五浦の桜をコラボレーションするのは綺麗かもしれない。でも、佐々木地区や五浦地区の方々から協賛してもらってでもやることかなぁ。まぁ、地区の代表が命じたことだからやるけどさ…。」
「(今日はよく喋るなぁ、局長)」
佐々木地区観光協会の事務所では桜まつりの準備に追われていた。桜まつりは佐々木地区と近隣の五浦地区が一緒に行う行事で、桜の木がたくさんある場所で観光客向けのイベントを行う。イベントに向けて山河や仲村渠など若い職員が男女関係なく慌ただしく動くだけで、大海のような中堅社員や下山のような役員は、まったりと通常通りの仕事をして、のほほんと過ごしている。
(ふぅーー。そろそろ、いつもの打ち合わせか。…、あれを無かったことにしたい。)
山河が思い出すのは1か月前の話。山河は仲村渠と共に桜まつり当日の記録担当をすることとなった。彼らは通常業務が終わる30分前ごろから、毎日少しずつ、当日の打ち合わせをする。もともと山河には映像撮影から編集までの経験があった。しかし、今回はカメラで写真撮影をするということで動画に関する知識しかない彼は無力に等しい。少しばかり悩んでいた彼の様子を見ていた仲村渠。すると、彼女から提案があった。
「山河さんに教えますよ、本格的なカメラの使い方」
1か月前にした彼女との会話を溜息するたびに思い出す山河。また、カメラの打ち合わせが始まるのだと、どうしても考えてしまう。打ち合わせのことで疲れているのは周りの同僚にバレていないのだが、逆にそれが状況を悪化させていた。彼の近くには最新式の立体映像撮影機を手に持ち、楽しそうに調整を入念にしている仲村渠がいた。
(彼女を落ち込ませたら、まずいだろうな…。)
「山河さん、打ち合わせしますよ~♪」
「わかりました。(…ふぅー、めんどくせぇな。)」
「桜まつりまで、あと2週間後ですからね。万全の状態で仕事をしましょうね。」
「そうですね。」
「今までは打ち合わせだけでしたが、桜まつりの開催が近いということで実践しましょう。」
「…、はい?」
「山河さん、早く来てください!」
「は、はい…。」
山河は今日も彼女に連れていかれる。会議室で打ち合わせした後、いつもなら本来の業務に戻るはずだが、今回は違う。やる気に満ち溢れた仲村渠が実践することを提案してきたのだ。佐々木地区観光協会の周辺で様々なものを撮影することになり、彼が解放されたのは撮影することに、のめり込み過ぎた仲村渠が我に返える時だった。
翌日、15時過ぎ。仕事をしている佐々木地区観光協会の事務所に連絡が入った。その場にいなかったのは山河と仲村渠の2人だけ。山河は佐々木地区ご当地キャラクター【ぶりタイがー】の関係で地区内を回っている最中。一方、仲村渠は協力金集めの関係で様々なお店を巡っている。彼らが事務所に戻ってきたのは偶然にも同じタイミング、そのタイミングで下山が2人を呼び止める。
「何でしょうか、局長?」
「山河君、仲村渠さんも呼び止めてごめんね。実は今年の桜まつり、開催延期をしようという話が出ているんだ。」
「えっ、そうなんですか?」
「桜の立体映像を投影している間、映像にノイズがはしってしまうみたいでね。それが全国、いや、世界中に同じ現象が起きているんだ。酷い場所だと映像だけじゃなくて通信障害も起きている。このままだと、開催による影響が出かねない。」
「それって延期でいいんですよね?開催しませんということにはなりませんよね?」
「そればかりは地区の代表から返事をもらわないとねぇー。」
「そ、そうですよね。すみませんでした、局長。」
思わず聞き返した仲村渠。話が終わっても彼女は開催について、しつこく下山に聞いている。一方、山河は表情を変えないまま、業務を再開した。
「めんどくせぇことになったな…。」
彼は無意識で一言、小声で呟く。そして、誰にも気づかれないように目の前の資料を読み始めた。それは彼が持つデバイスに表示されているものであり、彼は周りに見つからないように注意しつつ、資料を読み進めながら一人で考えをめぐらす。
「桜があるからといって、通信電波に障害が必ず起きているとは限らないっぽいな。むしろ、別の現象も起きている。俺としてはその現象がどうやって起きているのかという方が気になる。つまり、立体映像ノイズや通信障害が起きていて、それを業者が修正しているのになぜ問題は起きるのか。まぁ、訳がわからないような問題が起きていることだけは確かか。」
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山河がデバイスを通して、資料を見ている同時刻。アークバスターズKNGブロックの副ブロック長である梅田は最新の問題に直面している。
「桜の花びらに触れてケガをするか。立体映像が現実世界に物理的影響を与えるのは限られた条件のもと。その条件に今回の場合は当てはまらないとなると、ややこしい事態になるな。」
モニターを見ながら、対策を考えている梅田。モニターには日本全国、世界各地で起きている立体映像のトラブルが表示されている。
「各ブロック長の指示で日本のエグザとナビゲーター全員に連絡は流した。でも、いつ事件が起きるのかわからない以上、動くことは難しい。何よりも具現警報が出せない。それは全国各ブロック同じ、とにかく、どうやってシステムに介入した実行犯を見つけ出すかを考えなければ…。」
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翌週の金曜日、五浦地区の桜が少し咲き始めた。その様子を駅前で夕方18時頃に確認をした山河と仲村渠。彼らは仕事終わりで撮影のリハーサルを兼ねて、桜まつりの会場へ実際に撮影をしにきていた。そして、桜の木は花を咲かせているのを見て、仲村渠はホッとした。
「これなら、問題なく開催できそうですよね。」
「ええ、そうですね。」
「山河さん、撮影、頑張りましょうね。…あっ!ちょうど、今この地区で立体映像の桜が出てきたみたいです。せっかくですから、サングラスして見ましょうよ。」
「桜か…。」
「あっ、触れる。すごいですよね!山河さんもサングラスで見てください!!」
「まぁ、サングラスをつけているからですし。」
「わぁ~。…、っ!!イタッ」
「えっ?」
「何で出血してるの、私?何も擦れていないんだけど。」
「(ちっ、よりによって、今か…。)ちょっと、他の場所見てきます。仲村渠さんは帰宅していただいて構いませんから。では、お疲れ様でした。」
「え?お、お疲れ様でした。」
桜に触れたことでわずかな出血を確認した仲村渠はサングラスを外し、改めて傷があることを確認した。山河は驚いている彼女に挨拶をして駅前から離れていく。そして彼は人目を忍んで、KNGブロックへ報告を入れる。報告を入れた直後、彼はナビゲーターの小澤へ連絡して、彼女と2人で桜への対応策を考えはじめる。
「ヴァンさん、現実化舞台の展開はまだ出来ません。」
「どうしてですか?報告はしていますよね?」
「それが『現時点では脅威として考えられていないから』という理由で展開ができないんです。承認はできないと言われてしまいました。」
「でも、現場では実際に被害出てます。ブロック長だってわかっていますよね?」
「う~ん、そうですよね~。私、タクシーで現場に向かっていますけど、そちらはどんな状況ですか?」
「サングラスを着けている人は立体映像で映し出されている桜の花びらを認識しています。周りの人々を見ていると、花びらに触れた場合、切り傷や擦り傷になることが稀にあります。問題を解決するとしたらシステムを終了させるしか…。」
「サングラスを着けていない人はどうですか?」
「無傷だ。」
「あと10分でヴァンさんがいる所へ到着しますから、行動するのは待ってもらえますか?」
「小澤さん、それは無理です。」
「えっ?」
「騒ぎになってきた。周りの様子を見て、自分だけじゃないっていう認識が生まれたから、おおごとになりはじめた。」
「ええっ!あ、運転手さん、大声出してゴメンナサイっ。」
「これだけ騒ぎになってるなら、具現警報が出てもいいはず。…っ!!電波障害か…。」
「でも、私たちは通信出来ています。私から五浦地区のエグザとナビゲーターに連絡をしています。その通信もつながりました。」
「来ますか?」
「いえ、本業の仕事が今日は夜勤で抜けられないから行けないと…。」
「こちらの状況ですけど今、警察が駆け付けました。けど、サングラスを外すよう注意喚起しているだけです。」
「け、警察ですか?具現警報が発令されていないですし、下手に動けないですよ、私たち。ど、どっ、どうしましょうか?」
会話の途中で山河は通信を切った。そして、周りの様子を見て溜息をつく。目立つ動きはしたくないが、この桜騒動を終わらせるチャンスと割り切り、行動をする。
「デバイス【スイレン】、現実化起動…、って現実化舞台の範囲内でなければ起動しないよな。だけど、【タイム】との同時起動なら。」
彼は自身で所有しているデバイス、スイレンとタイムの2つを同時に使用する。その直後、デバイスの液晶に変化が起きた。
「これでいい。」
2つの液晶に表示されたのは、違反の2文字。これはデバイスを使用する際、重大な使用規則違反を犯した際にしか表示されない。これが表示された場合、犯した違反の状態は維持されているが、使用者であるエグザの思い通りに使えない。さらに、自らの意思で違反の状態を解除することが出来ない。解除するには所属しているブロックの権限でデバイスを操作しなければならない。
「ふぅーー。すぅーー。ふぅーー。…、あとはどこまでやれるかだ。」
人目がある中で、山河はナビゲーターの小澤を待たずに動き始めた。




