Report28:トレーニング会場のエグザ2/カバ
17時00分、トレーニング会場の様子をモニター越しに見ているのは、アークバスターズTKOブロックの重役が数名。彼らのほかには日本支部の隊員数名と他のブロックから様子を見にきた隊員が数名。FKOブロックのブロック長である宝住貴子もその数名に含まれている。
「大地君、理沙ちゃん。無事でいて・・・。」
彼女が管轄しているブロックの隊員たちが、危険だとわかっているのに今、トレーニングを受けようとしている。宝住は事前に事情を知っていれば特別に参加させることはなかったと後悔をしている。この数時間で何度も後悔をしている。だから、今、彼女が考えているのはトレーニング会場にいる隊員の無事だけ。一方、宝住が心配している千々和と神林は宝住がどんな様子なのかを想像して話している。
「宝住さん、心配しているだろうなー。」
「いつも通り。」
「まぁ、そうだけど。正直、このトレーニングは逃げたいかな。僕が無事なまま終わる訳ないっていうのが、わかっているのに、あえてやるとか、ホント勘弁。ちなみに、神林さん。トレーニングだからってゲームは。」
「しない。」
「おっ?」
「というか出来ない。」
「いつもと違う反応でちょっとびっくりした。」
「この・・・クソゲーを終わらせる。」
「あはは、オーケー。さて、レベル6が完全にリアリゼイションしたみたいだ。」
会場内に現れたのは体長3m程の機械。それはカバをモデルにしたものだと見た目で判断できた。渕上と千々和は3体しかいないのを確認してから、作戦を練る。ただ、もう1人のエグザはその話に混ざることなく会場内をゆっくりと歩いていた。
「チヂさん、俺はエヴォリューション出来ないけど、剣と盾はあるから。接近戦なら多少はやれる。」
「オーケーです。僕は遠距離タイプで防御、妨害を重視しています。」
「で、俺たちがどうするかって話だけど。」
「アーサーに確認したいことなんですけど、アイツは何で動かないですか?」
「カウンター型。」
「神林さん、よく短時間で分析したね。」
「あのさ、何でナビゲーターが通信出来るの?さっきまでは1人も通信出来ていなかった。」
「え?」
「セキュリティー突破した。」
「は?マジ?チヂさんのナビゲーター・・・。」
「気にしないでください。それより、アイツだけじゃなくてレベル6も動かないのは?」
「動かないならチャンスでしょ。とは言え、レベル6か。俺たちも迂闊に動けない。」
神林との通信を終えてから待機している2人。渕上のナビゲーターである三上は他のエグザの看病、手当てをしている。やがて、トレーニング開始から5分が経過する。この時にターゲットのカバがゆっくりと前進を始めた。カバが進む先には渕上と千々和がいる。
「どうする、チヂさん?カバが来るけど。」
「お互いに最大出力の攻撃をカバにぶつける。出来ますよね、ストライクフェイバリットは。」
「当然。その案、乗った!」
「よし、準備しましょう。【アルス】セルフカラー国防色起動。パーティクル・マグ集束開始。」
「じゃあ俺も【カラドボルグ】セルフカラー黄金色起動。エネルギー充填開始。」
「アーサーは回避しながら攻撃準備出来ますか?」
「出来るぜ。攻撃タイミングは、狙う場所は?」
「チヂとアーサーの2人で1体を同時攻撃。可能性があるのはこれ。」
「じゃあ、2人で一緒に逃げるの?」
「アーサー、多分違います。どうしたらいいかな、神林さん?」
「正面でチヂが牽制。カバが動いたら、アーサーはカバの背後をとる。アーサー準備完了後に同時攻撃。」
「それで倒せる・・・、訳ないか。」
「で、チヂさんのナビゲーターさん、その後は?」
「フルボッコ。」
『へ?』
ナビゲーターがアドバイスする攻撃方法でフルボッコという指示は予想外。緊迫した状況だが、2人は気の抜けた返事をした。沈黙の後に千々和が会話を続ける。
「僕たちは出たとこ勝負をするしかないということ?」
「それが嫌なら逃げる。」
『はぁ?』
「神林さん、ゲームじゃないんですから、冗談は」
「ゲームじゃないから逃げる。部屋から出られないのは異常。戦うよりも部屋を壊して逃げる方が安全性は高い。」
「ちょっと!チヂさん、あんたのナビゲーターどうかしていますよ!こんな時に言うのは失礼だけど!」
「すみません、アーサー。数秒だけ考える時間をください。」
あまりにも変な通信、指示だったため、渕上は苛立つ。そんな様子の渕上をなだめつつ、千々和は短時間で最善策を考える。
(神林さんはゲーマーだけど、任務は真剣に遂行する。今までの任務でも、彼女から隠れるとか逃げるというアドバイスはあった。でも、それは面倒だからとかじゃない。僕の安全を考えてくれた上での判断。)
数秒経過し、考えをまとめた千々和は神林に話をする。
「宝住さんのお願いだけど、いいの?」
「貴子のお願いは叶えたい。でも、命を落とすのは違う。ゲームじゃない。」
「それはそうだろ、俺たちは任務でやってるんだから。」
「復活の呪文もリセットボタンもセーブポイントもない。」
「でも、俺らがやらないと。逃げて後悔するのは嫌だぞ、俺は!」
渕上の大声に反応したカバは3体とも歩みを早める。人が走る速度よりもスピードが出ているので直線では追いつかれる。渕上と千々和は本能的に蛇行しながら逃げていく。
「はぁ、はぁ。くそっ。倒れている奴らいるし、俺たちがひきつけるしかないか。チヂさん、作戦通りでいいんだよな?」
「ちょ、ちょっと待って、はぁ、落ち着いて考えたい。」
「悠長に構えている場合じゃ」
「死んだら意味無い!!!」
神林の大声。それは通信している音声が音割れするほどの大きさ。それに反応した渕上と千々和は一瞬、動きが止まる。渕上はカバの動きを見てから、背後をとろうと再び動き出す。千々和は動かずに立ったままで数秒、考えをめぐらす。
「アーサー、僕の方に来てください。」
「どうした?」
「この部屋から出ます!異論は無しで、キャリアは僕が上です。だから、不満かもしれないですけど、協力してください。」
「はぁ?逃げる選択はないでしょ、ここまで来て。」
千々和が次に喋ろうとしたその時、会場内に爆発音と悲鳴に似た音が鳴り響く。それは歩き回っていたエグザがカバに攻撃をして、ダメージを与えた結果だった。
「あ、あいつ。攻撃した!!通じているなら、俺たちもいけるんじゃないか?」
「いや、逃げましょう。1対3の状況の今がチャンス。退路確保が最優先です。」
「でも、チヂさん。」
「三上さん、心配させるんですか?」
「ちょ・・・。あー、わかったよ。逃げるから!」
「僕がストライクフェイバリットで扉を使えるようにします。その間に扉を開けてください。扉さえ開けばこの会場の現実化舞台から脱出できます。脱出する時に武装の展開は解除してください。影響受けて動けなくなるからです。」
「俺らが武装解除ってことは無防備になるけど。」
「ゴーグルとデバイスの電源を落とせば、ターゲットやエグザがとる行動の影響は受けない。」
「な、なるほど。」
「はず、多分。」
「多分かよ!このナビゲーターは・・・。まー、いいや。チヂさん、合流したぞ!」
「よし。全力で扉を開けるから少し離れて!」
合流した渕上と千々和は会場の出口に辿り着く。千々和は自身のストライクフェイバリットによる特殊砲撃を出口の扉に当てる。数十秒当て続けた後に神林が通信をする。
「開錠。」
「よっし!」
「どんなエグザでも実際にダメージを受けるのはマズイ。アイツがいつまで足止めできるのかも分からない。だから、他のエグザの脱出誘導とヘルプ要請をしてください!」
「チヂさんは?」
「これ、ストライクフェイバリットの砲撃を続けていないと鍵が閉まるんです。僕は何とかするから早く!」
「わかった!動ける人は脱出してくれっ!」
渕上の声で他のエグザたちと三上が会場から脱出する。何とか脱出を確認した渕上と千々和。渕上は扉の所に立ち、手を広げる。
「チヂさん、急いで!俺が扉を開けておくから早く!」
「ありがとっ!」
千々和と扉の距離はおよそ10m。ほんの数秒走れば脱出できるのだが、カバが口を開けてビームを放ち、全身からミサイルを打ち出していた。それが不運にも千々和にめがけて打たれたものだというのは渕上も千々和も直感で気づいた。だが、千々和は既に走り出していたので、対応が少し遅れる。
「ドゴォォォォォォーーーーー!!」
大きな爆発音と共に煙が辺りを包む。煙が晴れて、状況を視認出来たのは爆発から20秒程経過した後のことだった。




