Report27:トレーニング会場のエグザ1
16時10分、山河が1体、千々和が2体のターゲットを倒して具現警報が止む。任務を終えて駅前から大通りに移動している山河と小澤。その2人を見つけたのは道路を挟んで反対側にいる千々和と神林。
「あ、あいつら。」
「ん?」
「ヴァンと・・・ナビゲーターの女の子か。」
「ん。」
「色々と聞きたいことはあるけど、関わり持つのは避けようか。」
「ん。」
「よし、行こう。」
「ん、あっ!」
「信号渡るよ。そのままトレーニング会場行くからね。」
「あー、忘れそうだった。」
「ん?えっ?」
「このステージ攻略前に体力回復しないといけない。」
「ゲームの話ね・・・。」
千々和と神林が信号待ちをしていることに山河と小澤は気づくことなく、巡回を続けている。2人は巡回しながらデバイスの調整をしつつ、観光をしていた。そして、小澤が突然に話題をふった。
「私、タイムを調整していて思ったことがあるんです。」
「何ですか、小澤さん?」
「タイムのシステムが普通のデバイスとちょっと違っているんです。」
「処理の速度、能力は通常の5倍だからじゃないんですか?」
「その通りです。でも、システムの細部まで検査や調整をしていくと変な所があるというか、何と言えばいいのかわからないんですけど。」
「つまり?」
「あ、えっと、つまりですね。つまり、ハードウェアに余裕があるんです。フリーズしにくいというか。必要以上に高性能な感じというか。普通のデバイスよりも多くのことを同時にできるんです、多分ですけど。」
「それは5倍だからじゃないんですか。」
「い、いえ、恐らく。もしかしてかもしれないですけど、ハードウェア自体に細工されているかもしれません。細工しているとすれば納得はいくんです。ソフトウェアなら多少は探れますけど、ハードウェアは私でも触るのは不安なので、探ることが出来ないんです。すみません。」
山河と小澤は話をしながら、千々和と神林から離れていく。2人に気づかれることなく、ほっとした千々和は神林を連れてトレーニング会場のある建物へと入った。16時25分を過ぎたあたりでトレーニング会場のあるフロアに到着した千々和と神林はこっそりと会場に入る。
「1人しかいない?」
「チヂ、あれ。」
千々和の疑問。その答えは神林が指をさして示した場所にあった。
「うわっ!」
フロアの片隅にあるもの。それはびっしょりと濡れていて、湯気が出ている。
「か、神林さん。あれって、人だよね。」
「そう。」
「そうって、うわぁ~。マジでかよ・・・。」
千々和が見たのはトレーニングに参加しているエグザたち。彼らの様子を見た千々和は完全にひいていた。それはエグザたちが男女関係なく汗だくで、床に伏していたり、肩で息をするくらいに疲れきっていたからである。
「僕等って遅刻してよかったのかも、いやサボった方がよかった。絶対に。」
「でも、無理。もう、参加している。」
「そうだよな~、はぁ・・・。」
「私、行くから。」
「お、おう。」
「16時30分になりました。これより30分の休憩に入ります。各自、デバイスを調整。17時から次のトレーニングを始めます。」
突然、アナウンスが流れる。それは休憩時間の案内なのだが、ほとんどのエグザ達は動いていない。動いているエグザの内、1人が千々和の存在に気づく。
「あ、あんた。遅刻?」
「すみません、ちょっとトラブルが。」
「今すぐ逃げろ。」
「はい?」
「動ける奴はみんな狙われる。いや、巻き込まれる。」
「だ、大丈夫ですか?吐きそうですよ。喋らないで呼吸整えて!」
「うっ。」
吐きそうになるのをこらえたのはエグザのアーサー、渕上総だった。データを見て、入団1年未満のルーキーであることを確認した千々和。特別に参加している内の1人である。再び、彼に話を聞こうとした千々和だったが、「ドンッ!」という音と共に会場の扉が勢いよく開く。
「アキラ君!!」
「み、三上ちゃ、うぇっ。」
「喋らないで!これ、水。口に含んで。はい、これに吐いて。」
「わりぃ。ぜっんぜんダメだ。」
「いいから!」
そのやりとりを見て、茫然とする千々和。所属するFKOブロックのトレーニングではありえない光景を見て、何も言えない。だが、この状況の原因を聞かなければ自分も同じ結果になると思ったのか、千々和は介抱している女性、三上潤に話かける。
「何があった?」
「あ、遅刻1名の人ですか?来ない方が良かったですよ。みんなボロボロなんです。エグザはもちろん、ナビゲーターも。私は何とか脱出できたからよかったけど。」
「脱出!?いったい何が。」
「すみません、アキラ君を休ませたいんで。」
「お、俺はいいから。その人に状況説明してあげて。三上ちゃんも休んで。」
「う、うん。わかった。」
「申し訳ないけど、いいかな?」
「はい。」
「FKOブロックのチヂです。今日のトレーニングでやったことを簡単に教えてください。」
「はい、KNGブロック、アーサーのナビゲーター三上です。10時~12時までは座学でした。お昼を食べてからは実技をしました。仮想ターゲットのレベルは1から徐々に上げていって14時50分にはレベル4まで上がりました。それぞれが倒すとかではなくて、複数出てくるターゲットを全員で協力して倒す形のトレーニングだったので、疲労は無いと思っていました。ですけど、レベル4を倒した後にレベル5が出てきて、みんなやられたんです。」
「じゃあ、あっちにいるやつは?」
「彼にやられたんです。」
「は?あのエグザ1人でレベル5を倒したってことですか?」
「そうです。でも、彼が倒したのはレベル5だけじゃなくて、他のエグザもなんです。」
「はあ~!?」
千々和がとったリアクション。1回目の驚きよりも2回目の驚きが大きな声だったので、三上は少し怯えた。だが、話を止めることなく、限られた時間で伝えられることを話そうと彼女は急いだ。
「17時からのトレーニングはスケジュール通りだとレベル6なんです。いくらトレーニングでも、レベル6が出るとなると実際にダメージがでますよね?危険なんです。」
「それは確かに。」
「チヂ、これ見て。」
千々和と三上の会話に通信が介入する。それは千々和のナビゲーター神林で、彼女は手に入れた情報を千々和に見せようと彼のデバイスにデータを転送した。千々和がデータを受信したことを確認すると彼女はデータを再生する。
「この姿はエヴォリューション状態だよね。」
「少し後の映像。」
「ほぉー。レベル4、練習用に再現されたものとはいえ短時間で10体を1人で倒すとか、僕にはとてもできないよ。」
「ここ。」
「倒したターゲットの情報を吸収、蒐集している?」
「他のエグザはこの時点だとまだ無事なんです。トレーニング用のターゲットに攻撃されて倒れているエグザは何人かいますけど。でも、次のレベル5になってから・・・」
『よし、みんなで連携していくぞ。』
『しゃがめ!!』
『え?』
『きゃあああああああ』
『うわぁぁぁ!』
『おい、おまえ何してんだ!トレーニング中とはいえ仲間を巻き込むとか。』
『あと6体』
『ちょっと、聞いているんですか!?』
「止めて!!」
「映像止めた。」
三上は再生されていたデバイスから目を背ける。この先の映像を見たくないという意思表示なのは間違いないと千々和は思った。だが、神林は映像を再生して、次の場面を見る。
「神林さん、何で再生。」
「黙って。見て。」
『残りの数を確認するとかじゃないだろ、仲間をだな!』
『・・・りょう。』
『あれ?倒れているみんなって武装を解除してた?』
『エヴォリューション状態の強制解除ならともかく、武装解除はしないですよね。』
『ちょっと、喋っていないで戦えよ!レベル5が攻撃してくるのを回避するのだって精一杯なのに、サポートがないと倒せないのは分かっているだろ!』
『・・・ない。』
『ちょっと!何?攻撃?味方に?』
『ぐわぁ』
『くっ』
『え?エヴォリューションが解除されてる・・・』
『何もないままなのに、目の前にレベル5とか。無理!!』
『うわああああああああ!!』
「映像止めようか。」
「続きがある。」
「止めろ!!」
千々和の声と共に映像を止めた神林。通信状態なので神林は彼の表情が見えていない。しかし、想像はできる。彼女がゲームをしながら、ナビゲートすることを許してくれるほど寛大な彼が大声を出した。それは彼が珍しく本気で怒っているということ。だから、彼女は素直に映像を止めたのである。
「帰ろう。僕はブロック長に怒られてもいい。いる意味が無いよ。」
「わかった。」
「それはダメなの!」
「宝住さん、どういうことですか?」
「あなた達が遅刻しなければよかったのに、まぁ、それは後で話すとして。」
「遅刻の件は申し訳ありません。」
「トレーニングに参加しなさい。これはブロック長としての命令です!」
「ちゃんと、僕と神林さんに説明してください!納得できないです。」
「納得できない任務だってあったでしょう。それと同じです。」
「あと5分後にレベル6のターゲットと戦うんですよ。トレーニング用で被害が無いとはいえ、そんなのをアイツと2人で倒せと言うんですか!」
「・・・大地君、お願い。堪えて。」
「ほ、宝住さん?」
「お願いなの・・・。」
「やる。あのチートが味方なのか敵なのか関係ない。貴子のお願いだから。」
「神林さん・・・。わかった、やろう。」
「理沙ちゃん、大地君、ごめんない。」
「アイツの情報ください。無くても、分析してください。出来るだけ持ちこたえます。」
「わかった。チートキャラ攻略は面倒だけど、負けない。」
16時58分、会話を終えてから戦う準備をしている千々和に渕上が近づく。
「俺も、やるよ。」
「いやいや、君、ボロボロでしょ。」
「じゃあ、勝手にチヂ先輩を手伝います。エヴォリューションできなくても戦いたいんです。」
「アーサー、無理はしないこと。それが条件だ。」
「OK。よろしく、先輩。」
トレーニング会場には3人。時刻は17時となり、鐘が鳴る。それと同時に練習用のターゲットが現れる。レベルは予定通りの6なので、リアリゼイションしている状態。不安なままの渕上と千々和はターゲットと距離をとる。そんな彼らをよそに謎のエグザは1人、レベル6に対して行動をとっていく。




