Report26:若葉原地区5/異常
15時20分、千々和の活躍により、同時に現実化していた情報体のほとんどが消えていた。他のエグザが一般人の注目を浴びている一方で、彼らは気づかれないように静かに対処していた。情報体の対処が終わり、人の通りが少ない場所で休みを数分とる。その時間を使い、出現したエリアのデータを見ているのは千々和のサポートをするナビゲーターの神林。彼女はデータをじっくり見ていた。
「神林さん、あと何体?」
「3体。」
「じゃあ、移動しましょう。トレーニングは19時までだから3時間位しか参加できないけど、ちゃんと参加して経験を積まないとブロック長に怒られる。それは嫌だから・・・。怒られない為には残りの3体を早く倒さないと。」
「・・・。」
「神林さん、ゲームは歩いてでも出来るから、移動しよう。」
「違う。」
「違うって、いつも移動しながらゲームしてるよね。」
「違う。」
「ん?ゲームの話だよね?」
「違う。」
「アイツ、違う。」
「誰のこと言ってるの?」
「ヴァン。」
千々和は自身のデバイス【アルス】に神林が見ているデータを転送してもらった。そのデータには千々和がターゲットを複数、倒していた時にヴァン、つまり、山河が1体倒していた記録があった。
「2人組で倒したのか?やるなぁ~。でも、2人のエグザで1体に時間かけすぎかな。」
「違う。」
「えっ、何が?ちゃんと説明してくれないと分からないんだ。」
「全部。いや、ほとんど。」
そう言った神林は端末に文字を入力する。一般人が入力するスピードよりも入力速度は明らかに速く、数十秒で入力を終える。そのデータが再び、アルスに送信されていく。千々和は受信したデータを開くと、黙ってしまう。
「これ・・・。」
「間違っていないのは2人組だけ。」
「ヴァンのやつ1人で?デバイスは2人分だから、もう1人いるんじゃ。」
「ナビゲーターはいる。でも、デバイスにある個別番号が違う。」
「違う?」
「彼女のじゃない。」
「カモフラージュしているとか。アイツのチームにいたナビゲーターの誰かは上級のプログラミング力があるでしょ。それが彼女で、自分のデバイスを誤魔化したとか。」
「彼女は戦えない。」
「もう1人がいつの間にかどこかに行ったとか。」
「見て。」
神林が千々和に見せたデータは映像データ。エグザが身につけているゴーグルはエグザが見ている光景を常にアークバスターズの管理部門へ送信している。千々和は神林から送られた1つのゴーグル映像を見ようとしたが
「これ見ちゃいけないやつでしょ。ハッキングしてると、また怒られる。というか、一緒に怒られるこっちの身になってよ。」
「違い。」
「ん?」
「報告書だけじゃ現場のことは分からない、ゴーグル映像でしかわからないことがある。」
「そうだけど・・・。まぁ、怒られるのは決定しているから1つや2つ増えてもいいか。」
「データ再生。」
神林の一言でデータが再生される。再生される直前、怒られることをこれ以上増やしたくないと思った千々和だが、彼の願いは叶わず、動画データは開かれる。
「デバイスの同時使用なんて聞いたことないぞ。」
「チヂ、稀にある。」
「へ?」
「エヴォリューション出来ないエグザが使う。」
(神林さん、今日はよく喋るなぁ~)
映像を見て呟いた千々和の一言に神林が答える。いつもは寡黙でゲームにしか熱くなれない彼女だが、今は普段の何倍も喋っている。神林が興味のないものには干渉しない性格だと千々和は理解している。その彼女が饒舌になる。それほどに山河の行動は珍しいものだと、映像を見ながら千々和は思っていた。
「なるほど、エミリア。フラガが攻略対象としているヒロインズの中で戦闘に及ぼす影響が少なめのキャラ。再現クオリティはそこそこだけど、服のディテールはもっとこだわるべき。身長や髪の毛の色、目の色とかは許容範囲だけど、許せないのは腕の長さ。本物はもう少し短い。あと、胸が大きすぎ。もっと小さめじゃないとだめ。このエミリアを作ったヤツHENTAIだ。エロ思考だから胸を大きくしがちになる。」
「そんなことよりもちょっと映像止めて。」
「何?チヂは動画をフリーズとズームして細部までキャラの身体を見る人か。それはそれでHENTAIだ。」
「違う、変態じゃない!!それよりも、小澤さんが言っていた『現実化している端末が不明です。』っていうのはホント?」
「本当。」
「僕が倒していったものも同じ状態だったってことか。それにしてはターゲットの強さが違うように見える。同じくらいの強さなら、ヴァンは素早く倒せてもいいはず。」
「情報量の違い。」
「駅前と街の繁華街とでは違うの?」
「今日だと4倍~5倍。」
「ヴァンが対処したフラガだっけ?あれが駅前じゃなくて繁華街に現実化していたら任務が少しは早く終わったっていうことか。」
「そう。」
千々和と神林がゴーグル映像の続きを見ていると突然、神林が映像を一時停止する。千々和は不思議に思い、神林に話しかける。神林は考えることに没頭していたためか、彼の呼びかけに対してすぐには気づかない。千々和が何度か呼びかけたあとに神林は気がつき、彼の質問である、映像を止めた理由を答える。
「常識外れなことがあるから。」
「僕は見ていないから分からないんだよ。見れば分かること?」
「わかる。でも、理解できない。」
「どういうこと?って聞くよりも見る方が早いか。とにかく、再生するよ。」
流れた映像は山河が走り出す瞬間から、小澤と作戦を立てた後の場面。山河がターゲットのフラガに接近して、間合いギリギリの6mに入る。
『コナプログラム、スタート』
「コナプログラム?」
「それは見れば分かる。」
「あ、あぁ・・・。」
『おおおぉぉぉっ!!』
『マジック。』
『なっ!!』
「魔法攻撃って、本当にゲームっぽい。」
「黙って。」
『リフレムっ!!』
「防いだ!バリア展開しているのは流石だな。」
「違う。」
『アシスレット!』
「やけに簡単にヴァンの攻撃が当たる。今のだけは何かあると僕も思う。」
「ここ。」
『続いていきます。デューム!デュレット!アシスム!』
『リフレット!』
『デュスタード!リスタード!アシスタード!!』
山河の動きを映像で見ている千々和は黙ったまま、山河が繰り出す連続攻撃を見ていた。
神林はこの連撃を何度か見ているが、それでも飽きることなく見入っている。そして、連続攻撃が終わった後、ターゲットのフラガが回復をしている場面で神林は映像を止めた。
「ここまでは大丈夫。」
「いや、大丈夫って。神林さんはこの動きがどういう仕組みなのか分かったの?」
「些細なこと。」
「些細って、ちょっと工夫すれば出来るようになるってこと?僕でもわかるように説明をしてくれない?」
「違う。」
「へ?違うって何が。」
「連撃じゃない。この後の一撃。」
「この後の映像を見ればいいの?」
「再生。」
神林はゴーグル映像を再生する。場面はフラガが詠唱により、雷攻撃をする直前の所。小澤が大声で必死に山河へ呼びかけるタイミング。
『逃げてください!あれを受けたら、死んじゃいます!!』
『へ?』
「神林さん、一撃はもうちょっと先の場面なの?早送りしても・・・。」
「早送りはダメ。」
『準備完了。発動10秒前。』
「この攻撃、アイツはどうやって凌ぐんだ?」
「それが異常。」
『サンダーダブルクロス。』
『いやああああああーーー!』
「おいっ、アイツ、雷をまともに受けたのか。僕等は現実化しているんだ。タダじゃすまないぞ、あれ。」
「ここからが分からない。異常。」
『や、山河さん・・・。』
「どういう意味で。」
『フラッシュ・チェイサー!!』
山河が突然、動き出して放った一撃がフラガに当たり、任務が終わる。ゴーグル映像の再生が終わったのを確認した千々和と神林は僅かな沈黙の後に話をはじめる。
「あの・・・、色々と聞きたいんだけど、聞いても・・・。」
「知らない。」
「アイツ、人間か?」
「人間。」
「じゃあ、雷のあれは何?」
「知らない。」
「まぁ、あの戦い方については会う機会があれば聞くか。さて、休憩は終わりにしてそろそろ行こう。」
千々和と神林は残りのターゲットを倒すために移動する。15時30分、残りターゲット3体のまま。2人が移動している一方で、駅前にいる山河と小澤はデバイスのメンテナンスをしていた。
「ヴァンさん、しばらくはスイレンだけで対処してください。タイムの異常検査と調整に時間がかかります。」
「了解。ありがとう。」
「どういたしまして。タイムは調整しがいのある面白いデバイスですから、楽しいですよ。」
駅前が再び、賑わいを取り戻す頃、小澤は楽しそうにデバイスを調整する。デバイスの調整完了を待っている山河は街と人の様子を見ている。彼の表情は硬いままだが、フラガとの戦いで自分が成長したことを自覚しているような雰囲気を出していた。小澤はそんな彼を作業の合間に時折、見ていた。
(私が戦えるように頑張らないと・・・。)
フラガとの戦いがもたらしたのは山河の変化だけではない。それは、今までナビゲーターとして補助のことだけを考えていた小澤が、自分のために、他人のために変わろうと強く決めさせるきっかけとなった。




