Report29:トレーニング会場のエグザ3/DY
17時15分、トレーニング会場の扉は閉じていた。その扉の前には数分前に脱出することができた渕上と千々和がいる。疲労困憊の2人は息を整えてから、状況確認をしていく。
「チヂさん、左腕が出血しているけど。」
「出血よりも叩かれた背中が痛いから、僕としては早く、病院行きたいんだけど。それよりも、残ったアイツ1人で・・・。アイツに任せてよかったのかどうかが不安。」
「いや、『それよりも』じゃなくて、怪我しているんだろ。レベル6で受けるダメージはリアルなんだぞ、辛くないはずないだろ!!」
渕上の声に周囲のエグザが反応する。それによって、ざわつくエグザたち。渕上の言う通りにした方がいいと思った千々和は無数の話し声から逃げるようにトレーニング会場のフロアを出ていく。17時20分、ビルから出た千々和は病院へと向かうためにタクシーを捕まえる。彼の姿を見たタクシーの運転手は驚いていた。彼は運転手に事情を説明して、病院へと向かってもらう。千々和は移動の車中で神林に病院へ行くことの報告と現状の確認をする。
「神林さん、状況は?」
「チート」
「チ、チート?」
「カバ3体をまとめて相手にしている。」
「それは戦えるメンツからして、1対3なのは当然じゃ・・・。」
「圧倒されている。」
「まずいでしょ。いくら敵、味方構わずにデータを収集できるからって言っても、レベル6はさすがに。」
「カバがあの子に。」
「え・・・。えっ?」
「遊んでいる。試している。」
神林の通信を聞いた千々和は黙ってしまい、そのまま通信を切る。タクシーが病院に着くまでは黙ったままでいた。タクシーから降りる時に少しだけ、考えをめぐらす。
(何が起きているんだ。)
千々和にとって想像したことのない出来事が1度にたくさん起きた。考えなければいけないことがたくさんあり、どうしようかと悩みはじめた。しかし、すぐには考えをまとめることができず、とりあえず、治療に専念しようと彼は考えた。
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17時05分、若葉原の歩行者天国を歩く山河と小澤。彼らが歩く少し先に知り合いが1人で歩いている。歩く速度は山河と小澤の方が速いので、だんだん近づいていく。そして、追い越しそうになる時に小澤が声をかける。
「矢田さん!何しているんですか?」
「小澤か。俺はプライベートだ。」
「こんにちは。プライベートってことは遊びにきたんですか、矢田さ」
「DYだ。」
「へっ?任務じゃないからコードネームじゃなくてもいいんじゃ?」
「2人は任務か、デートか?」
「デ、デ、デートォ!?ま、まぁ、ヴァンさんと2人ですし・・・。」
「いや、任務ですけど。(ネームの話題を変えたいのか。)」
「そうか。任務の邪魔をしてすまない。」
「矢田さんはマンガやアニメが好きなんですか?それとも、今日の歩行者天国の特別イベントが目的ですか?」
「違う。」
「じゃあ、何が目当て・・・。」
「嗜み程度だ。」
「え?」
「じゃあ、私みたいに現実化の技術に興味があるとかじゃないなら今日は?」
「無線や基盤を見にきただけだ。」
「あー、そうなんですね。」
「なるほど(小澤さん、コミュニケーション力が高い)。」
しばらくの間、一緒に歩く3人。喋り続ける小澤の話に山河と矢田が相づちをうっていく。そして、駅前のビル付近を通り過ぎようとした時、突然、矢田が立ち止まる。地図を見るわけでも、デバイスを見るわけでも、私物の通信端末を見るわけでもない。
「DY、どうしたんですか?」
「・・・だ。」
「へ?」
「今は17時09分ですよ。」
「了解。」
「へ?小澤さん、今のわかったんですか?」
矢田は立ち止まり、ビルを見上げている。彼が立ち止まったので2人も立ち止まる。時刻が17時09分だと確認した矢田は目線を下げた。次に彼はデバイス【ダービー】を取り出して、スケジュール帳を見ていく。その後は、別のデータをサラッと見ていった。彼の行動を見ていた山河と小澤は不思議に思うが、何も言わずに引き続き矢田の行動を見ていると
「気にするな。」
彼は一言、山河と小澤に対して言い、デバイスをケースの中に入れた。そして、再びビルを見上げる。しばらく見上げているままの矢田。山河は彼が動かないことに飽きたのか、デバイス【スイレン】で時刻を確認する。時刻は17時12分。山河は早く任務が終わってほしいという気持ちでため息を小さくつく。そのため息と同じタイミングで矢田は、急に左手をビルの最上階にむけてかざした。それは数秒ではなく、30秒位経過しても手をあげ続けている。矢田の謎の行動について、気になって仕方が無い山河が尋ねた。
「あのー、何しているんですか?」
「気にするな。」
「いや、気になりますから。手をあげてる方向を見続けていますし、何しているのかなと思いまして。」
「気にするな。」
「ヴァンさんと同じで私も気になっているんですけど、何をされているんですか?」
「・・・イメージトレーニングだ。」
『トレーニング?』
「定期的にやっている。」
「それって、DYが技として使っているメガロアームに関係するんですか?」
「そうだ、だから気にするな・・・。ハッ!!!」
山河と小澤は矢田の行動を再び見ていた。矢田は声を発しながら左手をさげて、勢いよく右手をあげる。その右手は左手があった位置とほぼ同じ所にある。そして、あげた右手を数秒後にさげた矢田。右手があった場所を少し眺めた後、彼は移動する。彼がとった行動で1番重要なのは、左手があった位置と同じ所に右手をあげたということ。これがどれほど重要なことなのかを山河と小澤は知らない。質問をされないので、矢田は何も喋ることなく2人から離れていく。
「あ、あの、矢田さん。どちらに行くんですか?」
「基盤を見に行く。」
「で、でも、矢田さん・・・。」
「小澤さん。俺たちも任務ありますし、DYもプライベートだから。」
「ヴァンの言う通りだ。」
「わ、わかりました。すみません、引き留めてしまいました。」
「では。」
「はい!矢田さん、今度、寿先輩と山河さんと私の4人でご飯食べましょう!」
「それから、ヴァン。」
「はい。」
「俺はDYだ。」
(ちっ、めんどくせぇ人だな、毎回。)
山河は矢田の指摘を面倒なことだと思った。顔に出すことは無いが、会う度に言われるのはしつこいと感じている。今日に関しては、最初に注意された後はDYと呼んでいたのに、最後になって、指摘される。それに対して、山河は少し苛立ちも覚えた。一方で指摘をした矢田は山河がどんな気持ちなのかを気にかけることなく、静かにその場を去っていった。
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17時20分、アークバスターズ日本支部。若葉原地区トレーニング会場の内部映像を見ていたのは日本支部の役員3名。彼らは少しざわついていた。
「一部、計画と異なるが、やっと1対3の演習を観ることができる。」
「しかし、参加している全エグザのデータを吸収しきれなかった。それはどうするんだ。」
「まあ、またの機会でいいと思います。それよりも、脱出したチヂですが、変な動き方でした。」
「どうでもいい者のことは、またの機会に話せばいい。今は貴重な7人目の実験を成功させることが優先。」
「3人目のようなことは流石に隠し切れないから、これ以上の失敗は。」
「ふふっ。大丈夫です。アレを手に入れていますから、失敗という形は無いです。その証拠に6人目はこれまでにない成果を出しています。」
彼らは笑っていた。モニターに映る彼女の実力を知っている彼らはこの演習を実験の余興としか思っていない。彼らはこの演習データを支部のサーバーに残すことはせず、個人の端末に残していた。
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18時45分、トレーニング会場だったビルから参加していたエグザ、ナビゲーターが出てくる。ナビゲーターの阿部から連絡を受けていた山河と小澤はビルの入口近くで仁頃澄海と阿部蘭を待っていた。小澤が彼女に連絡をとろうとすると、阿部が1人で山河と小澤に声をかけた。
「お疲れ様。任務を変わってもらって助かったわ。」
「こちらこそ。多少はターゲットが出現して大変でしたけど、楽しかったですよ!」
「じゃあ、俺たちはこれで帰ります。」
「え、もうちょっと居ませんか?」
「小澤さん、帰りましょう。」
「でも、まだ、時間もありますから、もう少しだけでもいましょうよ。」
「・・・、すぅー、ふぅー、すぅ。」
「えっと、山河さん?」
「俺たちは帰った方がいい。早く帰ろう。」
「は、はい、わかりました・・・。」
(ビルから出てきたやつらの様子に違和感があるのは気のせいではないな。)
時間は少し遡り、阿部を待っていた頃。小澤はデバイスを弄っていたが、山河は周りの様子を見ていた。ビルから出てくる一般人に混ざりながら出てくるアークバスターズのメンバー。誰がメンバーなのかはわかっていないが、疲れ切った様子と怪我をしている様子で彼はおおまかな区別をしていた。そして、様子を見ている内に彼はトレーニング参加者の様子が違っているのはレベル6が原因では無く、別の原因があるとなんとなく察していた。
「また、今度遊びに行けばいいと思います。」
「はい!是非、行きましょう。」
小澤はもう少し歩行者天国を楽しみたかったのか、物足りなそうな感じだった。そんな様子の小澤を山河は強引に連れていく。彼女を元気づけるために山河が声をかける。すると、小澤は元気を取り戻していく。一方、山河は疲れを感じながらも、任務を通して新しい発見があったことに満足していた。そんな2人は一緒に若葉原地区を出ていき、KNGブロックへと帰っていった。
「そういえば、寿先輩に矢田さんと会ったこととかトレーニングのことを伝えたんです。」
「小澤さん、いつの間に連絡をしていたんですか?」
「阿部さんを待っている間に少しだけなんですけど。そうしたら、トレーニングは人目のつかないところでしかやらないっていうことを言っていました。結構、不思議がっていましたよ。」
「まぁ、寿さんが不思議に思うっていうことは、DYの行動は誰にも意図がわからないってことですね。」
「はい。」
帰る道中の何気ない話。山河にとってモヤモヤする謎が1つ増えた瞬間だった。




