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ブルーアイデンティティー  作者: 三笠聖
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Report24:若葉原地区3/2つのデバイス

15時4分、山河はスイレンで生み出す武装を剣状態のバスタードモードにしたまま、倒すべきターゲットのフラガと交戦している。彼はダメージを受け続けながらもフラガとの間合いは詰めたまま、ギリギリのタイミングで反撃をしている。一方、フラガは山河の僅かな反撃など気にすることなく、剣を振り続けている。


「やばい・・・。くっ!」

「ヴァンさん、距離をとってください!ダメージ受けすぎです!」

「注意してないと、うわっ、危なかったぁ。」

「ヴァンさんが先に倒れてしまいますよ、遠距離戦に切り替えたほうがいいです。」

「それは、もうちょっと時間、稼がないと。」

「え?」

「それから、アシストモードが予想以上に良い。今までだったら、一撃を狙う戦略しか立てられなかったですけど、これなら長期戦もなんとかできそうです。」

「お、落ち着いていますね。」

「俺のことよりも周りの避難状況は?」

「ヴァンさんがもう少し持ちこたえてくれるのなら、半径100m以内で建物の外に出ている人はいなくなります。」

「100mか・・・。小澤さん、フラガが使う魔法の効果範囲は最大と最低でどれ位ですか?」

「あの、ごめんなさい。ゲームのキャラクターですから、わかりません。」

「はぁ、はぁ。あの攻撃は受け続けるのがきっついな。」

「だ、大丈夫ですか?」

「ふぅ、間合い5m程か・・・。」


攻撃を回避する割合よりも剣で受け止める割合が多くなりはじめたタイミングで山河は接近戦でとれる最大の間合いを推測する。5mは山河にとって微妙な距離である。相手の攻撃を避け、カウンター攻撃できる間隔だが、剣で攻撃するためには踏み込まなければ当たらない。


「ヴァンさん、2分もすれば100m以内には出歩いている人がいなくなります。」

「2分ですか。厳しいですね。」

「えっ、えっ?」

「小澤さん、何でもいいんで、コイツにぶつけてください。まぁ、一瞬でいいんで気を反らせてください。モード切り替える隙が欲しいんです。」

「何かって、何を・・・。」

「急いでくれると助かりますっ。」

「ん・・・、あっ!あれなら。」


小澤はフラガの気を反らせるためのものを思い付き、データを入力していく。現実化(リアライズ)で生み出されるものの質感は詳細な情報が多ければ多いほど本物に近くなり、見分けがつきにくくなる。その事を知っている小澤は細かな沢山の情報を入力していく。小澤のデータ入力が終わるまで、山河はフラガの攻撃を凌がなければいけないが、スタミナが切れ始めていた。


「あれは多分、この数値・・・。効果は確かあと1つあるけど・・・。色と外見は見た目判断だけどほぼ合っているよね。」

「小澤さん、そろそろ限界。」

「ヴァンさん、合図いただければいけます!」

「了解、おれが【GO】って言ったらお願いします。」

「はいっ。」


攻撃、回避のスピードが衰えないフラガに対して回避と判断のスピードが極端に落ちている山河。攻撃を受ける時間が避けたり、攻撃を仕掛ける時間よりも多くなる。痛みが増していく中、彼は落ち着いていた。そして、小澤の言っていた2分が経過しようとするその時に彼は叫ぶ。


「GO!!」

「いきます!」


小澤が端末を使って現実化(リアライズ)をしたのは修道士の女性だった。攻撃する意思はもちろん、他に動こうとする様子もない。ただ、その場に立ち、フラガを見ている。


「あれ?動かないけど、何で?私、情報は入力したんですけど。」


小澤が1人で慌てている中、フラガは攻撃を止めて、突然目の前に現れた修道士を見ている。山河はここぞとばかりに間合いをフラガからとって物陰に隠れ、待機をする。


「ふぅーーー。倒せる条件が分からないのがキツイ。」

「ヴァンさん、大丈夫ですか?」

「何とか退避できましたけど、フラガの状態は?」

「静止しています。これは予想通りの展開です。フラガは彼女に攻撃できないみたいですから、立ち止まることか、移動することしかできません。」

「残りどれだけの攻撃をすればいいのか分からない。」

「圧倒的なレベル差があれば倒せるのでいいんですけど、ヴァンさんとフラガの差がどれほどなのかが分かりません。一撃必殺の技はこのゲームに無いので、地道にダメージを与えていくか、ゲームは関係なく大威力攻撃をするかだと思います。」

現実化(リアライズ)させている端末を直接、破壊するか停止させるか、もしくはコントロール権を俺たちが握ればいいんですけど。小澤さん、どうにかなりませんか?」

「そうですね・・・、私のデバイスでフラガを生み出している端末を探ります。」

「その探索中って、あの修道士は消えるんですか?」

「私が現実化(リアライズ)に使っている端末はアークバスターズから支給されたデバイスではなく、私の私物です。だからプログラムを終了させない限り、エミリアは消えません。このままフラガの足止めは続くと思います。ただ・・・」

「ただ?」

「フラガが自らの意思で動いているなら、フラガを強化させてしまう可能性があります。」


小澤はデバイスを使い、目的の端末を探しつつ、山河に説明をする。それは修道士エミリアがフラガと同じゲームにいるキャラクターで複数いるヒロインの内の1人ということだった。ヒロインとフラガの信頼値が高くなるとパラメータが一時的に急上昇するという追加の効果があると知った山河はそれを踏まえた上で動くべきだと考えていた。集中が高まっている山河は自覚しないまま独り言を言っている。


「モードをどうするか・・・。スイレンのモードは実質、銃か剣の2択。だけど、タイムに登録している3つのモードとの組み合わせで選択肢は増える。タイムのアシストモードはスイレンの武装を最大4倍まで強化をするためのモード。この状況だとスイレンがバレットなら大きめのダメージを与えることができるはず。2つ目のリフレクトモードはゴーグルとの連携によって、俺の目の焦点があう場所での防御。周りへの被害拡散を避けるためにはリフレクトを使うべきかもしれない。でも、完全に流れ弾を打ち消すことは今の俺では厳しい。それに目の前のフラガを倒す決定打にはならない。3つ目のデュプリモード・・・。」

「ヴァンさん、デュプリは不完全でハイリスクハイリターンのモードですよ。これの搭載だって梅田さんに私たちが何度もお願いを続けたから許されたものです。年明けに搭載したばかりで十分なテストもしていないんですよ。それを使うつもりなんですか?」

「俺はデュプリを使うべきかと思います。もともと、タイムはいざという時の補助を目的としているんです。普段の任務で使わないのはそれが理由ですよね。小澤さんだってわかっているでしょ。」

「そうですけど、デュプリは難しいです。私のデバイスはターゲットの端末を探索するのに使っていますからサポートできません。ヴァンさんが動きながらデュプリを動かすんですか?マニュアル操作で動かすんですか?」

「・・・。」

「・・・、だめです。フラガを現実化(リアライズ)している端末が不明です。」

「・・・。」


無表情でただ何も言わずに考える山河。状況が良くならないことに慌て始める小澤。フラガは修道士に向き合い、立ち止まったままだが手をつなごうと動作をしている。それは状況が動きはじめる兆候。それを見た小澤はさらに慌てていく。そんな彼女の様子を通信で感じた山河は落ち着いたままである。彼は今まで体験してきたこと、話をしてきたことを思い出していく。そして、彼は考えをまとめた。ナビゲーターが慌てているからこそ、落ち着くことができ、練り上げた作戦。その作戦を実行するためのプログラムをその場でデバイスに入力し、小澤に伝える。


「スイレンとタイム。2つのデバイスを活かす。それぞれの持ち味を使って、俺たちであいつを倒す。それはできます。」

「えっ?」

「デバイスのコンビネーションと俺たちのコンビネーション。梅田さんが俺たちに話したこと。蔦野さんが俺たちに託したこと。全部使えばアイツを、いや、この若葉原地区にいる全てのターゲットを倒せる!!」

「山河さん?」


突然、山河が小澤に言ったことは彼女を唖然とさせた。小澤は訳が分からないままだったが、山河は言葉を続ける。


「すぅーーー、ふぅーー。力を貸して、いや、一緒に戦ってください。(つや)さんの力が必要なんです!!」

「はい!!!」


勢いよく返事をした小澤。だが、山河は彼女にアイデアを伝えていない。それでも、頼ってもらえることが嬉しい彼女は不安を抱きつつも返事をする。彼女の返事を聞いた山河は彼女のもとへと移動して、声をかける。そして、作戦の内容を伝えて、僅かな準備をしていく中で突然、山河が話をする。


「こんなこと言うのは柄じゃないですけど。」

「はい?」

「テンションを上げていきましょう。アイツを倒して、そして他のペアのフォローに行きましょう。」

「はい、がんばります!プログラムも終わりました!」

「よし。20秒後に行きます!」


準備を終えた2人。小澤が興奮している様子は他の人から見ても明らかである。山河は落ち着いた表情のままだが、実際は違う。彼の内側の何かが熱くなりはじめている。これに似た感覚を幾度も経験している山河。最初は受け入れたくなかったが、今となってはこの言葉にしにくい感覚を受け入れている。


「どこまで通用するか・・・。」


その言葉を誰にも聞こえないほどの大きさで発した山河。彼自身も知らぬ間に表情は変わっている。山河は倒すターゲットを目の前にして笑っていた。そして、作戦実行のために走り出す。

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