Report17:トレーニング最終日2/再会
9時30分、サークル棟付近に逃げ込んだ山河。トレーニング最後の実戦である個人サバイバルは9時から始まった。開始時には108人のエグザがいたが、この時点で既に半分以下まで人数が減っている。前日に行ったサバイバルと違うのは有効な攻撃を2回受けたらアウトということ、エヴォリューションが使用可能であること。これらの条件だとルーキーは不利で、経験豊富なエグザが有利になると誰もがサバイバル開始前から考えていた。その予想通りに40人もいたルーキーはわずか8人にまで減ってしまった。
「ヴァンさん、20m以内にエグザが2人います。物陰に隠れています。」
「ルーキー、じゃなさそうですね。」
「はい・・・。」
「了解。ところで小澤さん、残りのルーキー、8人は誰?」
「はい。残りはヴァンさん、クナウさん、デッドさん、セイジさん、キョウさん、タマキさん、ケイさん、アーサーさんです。」
「ありがとうございます。今、アイツはどこにいますか?」
「校舎の5階です。ここからだとちょっと距離があります。」
「スイレン、ビームモード!」
山河は自らのデバイスが生み出す武装形態を変えた。ビームモードであれば狙った敵に砲撃をすれば追尾できる。威力よりも確実性を選択したのはこの悪い状況を変えるため。山河はタイミングをはかってから砲撃を開始する。
「当たってもクリーンヒットではないから無駄だね。」
「あれは誘っているのがバレバレ。」
経験豊富なエグザ2人はお互いの動向を気にしつつも、目の前の弱者である山河からの攻撃に対応する。避けたり、弾いたりする。2人はそれぞれエヴォリューション状態のため、全身武装の状態。エヴォリューションの効果によって、初期段階から展開している武器の力は上がる。また、彼らの攻撃は山河が防御をしても押し負ける可能性がある。それを知っているから、彼らには余裕があり、攻撃のチャンスを狙っていた。
(今はここから逃げることを優先しないといけない。エヴォリューション2人はキツイな。)
「ヴァンさん、あの・・・。」
「あっ、すみません。何でしょう?」
「メッセージなんですけど、『体育館入口に向かう』と。」
「ふぅー。すぅーー。小澤さん、切り札3つ目使います!!」
「でも、あれはリスクが・・・。」
「わかっています。躊躇うのも分かりますけど、お願いします!」
「・・・そこまで強く言われると何も言えないですね。この状況を打開できる名案があるわけではないので、ヴァンさんの言う通りにやります。」
「ありがとうございます。」
「では、システム・イグニッション!加速弾は5秒後にレディです!」
「了解!」
銃形態の武装が光りだす。その状態で山河はターゲットに向けて銃を連射していく。銃を撃ちながら走っていく山河はただ、彼らの反撃だけを警戒して自分の攻撃が当たったのかどうかは気にしていない。いや、気にする必要が無いのだ。
「なんだ、この弾は?威力がさっきの攻撃よりも弱い。」
「数が増えて対応が面倒だと思ったけど、何回当たっても有効判定にならないような弾だ。意味無いただの牽制か。」
2人のエグザは加速弾を弾いたり、避けたりしていて、さらに、分析をするほどに余裕がある。そんな彼らが思ったことは牽制や時間稼ぎの攻撃ということ。加速弾を初めて見る人が彼らと同じような感想を持つのは普通である。だが、山河の切り札3つ目は着弾した後にその力を発揮していく。そうとは知らずにエグザの1人である【ライト】は矢を多数に同時展開して攻撃をしようとする。
「僕の矢からは逃げられないよ!」
「ヴァンさん、ライトさんが加速弾を無視して攻撃をしかけています。」
「了解。仕掛けには当たっていますか?」
「はい、しっかりと当たっています。」
「1発でヴァンに当てられなかったか~。もう1人のエグザ、ジョニーは様子見で動かないなら、僕が倒してやるぜ!そして、目立って有名になるんだ!」
ライトはカラーコードfcc800のクロムイエローに染まった多くの矢を準備する。彼は防御を無視して、矢の準備に専念している。当たっても有効攻撃にならない弾なら受け続けても大丈夫だとライトは判断したのだ。ただ、無防備に見えるが周囲への警戒はしっかりとしている。
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ライトが矢の準備をはじめる頃、ジョニーは刀1本と全身武装に頼った回避をしていた。回避しつつ、彼の意識は山河に向けられている。
「斬撃に踏み込む隙が無い。あと、この弾を受け続けているのも嫌な感じがする。」
「ジョニー聞いて、ライトが準備する矢の数が結構ありそう。逃げた方がいいよ。」
「ポン、それは厳しいかも。」
「どゆこと?」
「今の状況は動かないのが一番。剣道の経験からなんだけど、この感覚は信用できる。」
「ジョニーがそういうなら・・・。」
ナビゲーターのポンと通信を終えたジョニーはエヴォリューションを解除して、初期段階で展開している武装の刀だけを残した。構えは解いたが、刀はカラーコード333132の墨色に染まっている。戦える状態にはしてあるが、ジョニーは「山河とライトが戦ってどうなるのか」という結末を見届けることにした。
『なっ!』
ジョニーとポンは同時にリアクションをした。ライトが攻撃を始めた直後に彼と山河の間に大きな光が発せられたのだ。
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100本ほどの矢を準備したライトは狙いを定めている。射程範囲の推定は500m。その矢は逃げている山河を捉えるのに十分な射程を持っている。
「くらえぇぇぇぇっ!!」
「ヴァンさん、ライトさんが攻撃を放ちました。」
「わかりました。・・・バースト。」
「んっ?なっ!?」
山河の「バースト」という音声をスイレンが認識した瞬間、ライトの周りに無数の光が現れた。それぞれの光が弾となり、ライトに向かっていく。光とライトの距離は30cmほど。ライトは矢を放った直後ということ、さらに光が現れた場所が近距離のため避ける時間は無く、被弾する。
「小澤さん、結果は?」
「加速弾は全弾、ライトさんに当たりました。ライトさんは有効な攻撃を2回以上受けたと判定されて脱落しました。」
「ぼ、僕が・・・脱落。」
山河は加速弾が成功しても安心はしていない。合流地点の体育館に辿り着くまでは、山河にとって厳しい状況が続く。切り札を解除して、今は武装をビームモードの銃形態で展開している彼は、走り続けている。
「ヴァンさん、もうすぐで体育館に到着しますね。現在、残りは31人。その内、ルーキーは4人で、ヴァンさん、クナウさん、タマキさん、アーサーさんです。」
「お疲れ。これで約束通りに戦えるな、ヴァン。」
「そうですね。アーサーさんが共闘してくれるのはすごく心強いです。」
「アーサーさん、通信にいきなり割り込まないでください。」
「みんな、雑談はいいから。アキラ君は体育館の外でヴァンと合流してね。」
「おう!って、うわっ!」
「どうしたんですか?」
山河が渕上に尋ねる。そして、渕上からは
「脱落した。狙われた。わりぃ、みんな。」
「ちょっと、アキラ君?」
「すみません、俺も死角からやられました。」
『えー。』
狙撃されて脱落した渕上に続いて山河も脱落ということで、ナビゲーター陣はがっかりしていた。合流して一緒に戦うはずだったが、合流の直前でお互いがダメなってしまった。それまでの苦労が実らない結果となった。
「2人とも、何か言うことは!?」
『すみませんでした。』
(三上さんって怖いです・・・。)
サバイバルが終わって、帰宅準備をする時間。ナビゲーターの三上は山河と渕上に軽い説教をしている。その様子を見ている小澤は近くで何も言わずに立っていた。彼女の中では三上ウルウという女性のイメージが優しいから怖いに変わったのはこの時だった。
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時刻は13時。合同トレーニングが終わり、最後の挨拶が行われた体育館から、それぞれが帰宅していく。帰る前に山河と小澤は矢田、寿、朝霧、加曾利、渕上、三上と連絡先を交換した。また会おう、そんな約束を全員とした。その後に小澤が声をかけたのは天野と花川。正門にいた天野と花川は帰る直前で声をかけることができたのは、小澤の運が良かったからである。
「プリマさん、花川さん!」
「小澤さん、なんですの?」
「あっ、あの。これ、私のアドレスなんです。登録して下さい!あと、よければお二人のアドレスを教えて頂けないでしょうか?」
「プリマの情報は教えられない。わたくしのだけならお伝えしますよ。」
「そういうことですの。では。」
小澤の呼びかけに答えた天野と花川。しかし、彼女らの応対は極めて落ち着いて、言葉に冷たさを感じるほどだった。冷たい対応をされた小澤は自身の優しさ故に、それ以上は2人に話すことができなかった。その様子を遠巻きに見ていたのは、山河。天野と花川が去った後、1人になっている小澤のもとへ行き、話しかける。
「小澤さん、どうでしたか?」
「あの、山河さん・・・。その、ダメでした。アドレス交換できませんでした。」
「そうですか。小澤さんのアドレスは受け取ってもらえたんですか?」
「花川さんが受け取ってくれました。でも、多分・・・。」
「登録はしてもらえないんじゃないかと。」
「はい・・・。」
話すほどに小澤の声は小さくなり、トーンは落ち込んでいるようなものになっていく。その落ち込みは表情を見れば、はっきりとわかった。そんな彼女を無表情で山河は見ている。顔には出さないが、彼は考えている。いつもの彼女を取り戻すための言葉を考えた山河は小澤に話をする。
「小澤さん、帰りましょう。」
「はい、でも・・・。」
「会えます!会いに行きましょう!!」
「えっ!?」
「俺たちが任務をこなして、経験を積む。KNGブロックや日本支部で有名になる。そうすれば、彼女たちに名前が知れ渡ることになる。」
「はい・・・。」
「上のステージにあがれば、必ず彼女たちと再会できると思うんです。」
「でも・・・。」
「それでも、もどかしいなら、調べましょう。調べて会いに行くんです。でも、今の俺の実力では会いに行っても見向きされないです。だから、もっと経験を積むんです、それからです。」
「会っても面倒事に巻き込まれるかもしれないです。それでもですか?」
「・・・、面倒くさいのは、正直嫌です。でも、いつも元気で優しいパートナーがそうじゃないのはもっと嫌なんです。」
「ごめんないさ・・・。」
「だからっ!」
「えっ!」
「だから、いつも通りの小澤さんでいて欲しいから。そのためなら、俺はどんな面倒くさいことでも立ち向かいます。それで、必ず一緒に会いましょう、あの2人に。」
「・・・はい。」
山河は表情を隠すことすら忘れて、言葉に気持ちをのせて話す。彼らしからぬ行動に驚く小澤。そして、山河の本心を感じ取った彼女は頷いた。その様子を見た山河は「やってしまった」と自らの言動に対して後悔をしているが、仕方がないと諦めた。
「小澤さん、帰りましょう。任務をしっかりとやっていけばいいんですから。」
「はい。」
曇り空の下、山河と小澤は大学を出て、帰宅していく。新しい目標、目指すべき事、様々なことを抱えた彼らだが、まずは休息を取らなければならない。小澤のモチベーション低下を何とか防いだ山河。これから面倒くさいことになりそうだとこの時の彼は予感だけしていた。




