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ブルーアイデンティティー  作者: 三笠聖
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Report14:私情1

ジャンヌのアップデートが完了した彼女は千々和の砲撃による拘束をほどき、山河の後を追いかけた。花川のサーチでは敵の反応が出ないことを知っている天野は山河の位置情報を頼りに校舎ごと攻撃したのである。その攻撃はタイミングよく発生し、結果として山河を逃がすための時間稼ぎになった。そして、21時01分、天野は校舎の外で剣を構えている。


「花川、礼はこれぐらいでよろしくて?」

「はい、プリマ。どのようなものにも礼をする、礼を忘れてはいけないという教え通りでございます。」

「プリマさん、花川さん、聞いてください。ジャンヌの改良ポイントなんですが・・・。」


△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△


天野は大声を出した後、花川と小澤の2人と通信をしている。そのことを逃げながら罍と千々和は確認した。しかし、通信をしているだけで何もしてこない。このことに対して罍は呆れていて、千々和は安心していた。


「何もしてこないじゃん。」

「まぁ、そうだね・・・。」

「ねぇ~、わっくん。あたし、あんなのにHP4000も削られたの?」

「うん、ともちゃんとチヂの残りHPは両方とも6000だから、間違いないよ。」

「やる気なくすんだけど~。」

「今のうちに回復しておかないと。」


千々和は情報体を集めて、HPの回復をはじめる。だが、罍はやる気を無くし、飽きたのか武装を解除してゲームを取り出した。和久井が罍の説得をしている間、千々和は気にせず回復に集中している。


「この校舎にいるヴァンをサーチできればいいんですけど。」

「ん?尾原さん、もしかして、サーチができないの?」

「尾原さんの言う通り、ナビゲーター側でサーチができないんだ。そっちで何とかサーチできそう?」

「和久井さん、こちらでは無理です。ヴァンが同じフロアにいる可能性があるからサーチに集中できない。それよりも神林さんならできるんじゃ・・・。」

「チヂ。サーチ出来なくなった。邪魔されている。」

『えっ?』

「さらにこちらの位置がバレてる。ちょっとマズいかも。」

「シルク、ムネオ、とにかく隠れるんだ。窓付近は目視で確認されやすいから、窓付近以外なら場所はどこでもいい!!神林さんは俺たち3人のデバイスを調整。尾原さんと和久井さんは敵にサーチされないように校舎全体に妨害工作をしてください!」


攻撃を受けてから千々和のHPが全快したのはおよそ3分後。その間に状況は変化していた。目に見えるエグザ達の戦場ではなく、彼らの目には見えないデバイスのシステム関係の状況が急激に変化していった。それは山河達の現在地が探索出来なくなったということである。危機的状況を何度もくぐり抜けた千々和だけが緊急性を理解し、即座に指示を出していく。


△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△


「連撃禁止ですの!?」

「はい、すみません・・・。今のジャンヌの情報処理能力だと、先ほどの大技を1分間に5回も使えばシステムがフリーズします。」

「今までは、あれをお嬢様は短い時間で何十回も連続で使っていました。なぜなのでしょうか?」

「セルフカラーを7色にしました。その関係で連撃に関係する処理能力をかなり下げました。そのかわりですが、ストライクフェイバリットに色を最大で7つ付与できるようにしました。それが最大の理由です。」

「お、お嬢様のデバイスをそこまで改良してメリットはあるのでしょうか?」

「そ、その・・・。色を7色登録できるようにすることを優先したので、メリットはとくに考えていないですけど、貫通しやすいと思います。」


小澤が改良ポイントを天野と花川に伝える。花川は不審に思っているが、天野は黙って小澤の言葉を聞いていた。しばらくして、天野は突然、喋りだした。


「全て貫通できますの?」

「えっ、あ、はい。でも、全てではないです。貫通する壁が厚いと、威力は落ちますが、少なくともこのトレーニングに参加しているエグザ全員の防御は貫通できると思います。防御する相手は一度に7色の情報を処理しきれないですから。」

「小澤さん、推測で話をされても。お嬢に何かあったらどうしてくれるんですか!」

「・・・、どんな道具でも使う人次第ですわ。」

「プリマさん?」

「彼女はわたくしが望むものを与えてくれた。ならば、それを使いこなすのがわたくしに課せられた使命ですの。」

「で、ですが、不確定なものを」

「静かになさい!!」

「っ、失礼いたしました。」

「しばらく、考え事をいたします。わたくしが声をかけるまで何も話しかけないでほしいですわ。」


天野の最後の一言を聞いた小澤は自分のすべきサポート活動に集中していく。天野や花川と話をしながら進めていたが、喋らないことによって彼女の作業効率が上がる。その結果、敵からサーチされないようにするサポートを予想より早くできた。21時05分には敵である罍、千々和、鈴木の居場所が探索できるように補助システムを組み上げが完了していた。同時に山河、矢田、天野の位置をサーチされないようにする妨害工作もしていた。


「すみません、小澤です!えっと、皆さんを敵からサーチされないようにしたのと、敵の位置をサーチ出来るようにしました。」

「それから、山河君のゴーグルに映った映像を私が解析した結果、確認できたのは3人。【シルク】【チヂ】と・・・。」

「先輩?」

「あっ、(つや)ちゃん、ゴメンね・・・。【ムネオ】の3人です、大輔、あのムネオだよ。」

「マジか。」

「知り合いなんですか?」

「う、うん。同じ高校だった。」

「ヤツは俺がやる。」

「動けないのにですか?」

「ああ。」

「大輔の個人的な理由なんだけど、みんなはそれでいい?」

「文句ありませんの。」

「はい。そういえば、DYはもう動けるんですか?」

「ああ。」

「じゃあ、大輔はムネオ狙いで。山河君とプリマちゃんの2人は残りを。」

『了解』


チームハイブリッドはそれぞれがターゲットを倒すために行動を始める。矢田は鈴木を追うため、校舎に駆け足で山河達がいる校舎へ向かった。その間、校舎の外に出た山河は天野と合流。山河と天野は罍と千々和を追いかけるが、山河の回復が終わってから校舎へいくことを話し合って決めた。話し合っている山河と天野の横を通り抜けて、矢田は校舎へ入り、幸か不幸か、1階ですぐにターゲットを見つけた。


「だ、大輔。久しぶりー。」

「・・・。」

「ちょっと~、相変わらず反応が薄いね~。今は何の仕事をしているの?」

「・・・。」

「睨まないでよ~。っていうか、KNGブロック所属なのかー。ちなみに俺は・・・。」

CHB(シーエイチビー)ブロックだろ。」

「真紀~、大輔君、久しぶり~。元気~?」

「あー、アキヨちゃん!元気、元気!っていうか、ムネオのナビゲーターやっているんだね~。」


21時08分、講義が行われる1階の教室で遭遇した矢田と鈴木。教壇側には矢田がいて、教壇から一番遠い席に鈴木が立ちながらゲームをしていた。鈴木は矢田の存在に気付くとゲームを止めて、会話を始める。寿と尾原も会話に加わり、話は進んでいく。ただ、その最中でも矢田と鈴木は攻撃の体制を整えていた。そして、話すことが無くなり、一瞬の間が生まれる。この時点で鈴木はカラーコードがcc0000、赤色系統の色を使い、エヴォリューションをして全身武装状態で準備をしているが、矢田はデバイスの【ダービー】が作り上げる武装、深緑色のメガロアームを両腕に展開しているだけだった。


「あれ~?大輔、エヴォリューションしないの?」

「・・・い。」

『え!?』

「必要ない。」

「アキヨちゃん、勝負は勝負だからお互いに手加減なしで!」

「うん。真紀も本気でね。」


尾原の言葉をきっかけとして、鈴木は矢田に向けて左手の手の平を向ける。その手からは無数の光弾が矢田に向かって放たれる。だが、矢田は両手のメガロアームで防ぐ。防いではいるが、矢田が攻撃に行動を移せない位に多数の弾を鈴木は放つ。


「ムネオ、笑うな。」

「ごめんごめん。でも、いやぁ~、大輔に攻撃するのが面白くてね~。」

「何?」

「大輔は防ぐだけだから、攻撃してこないし。こっちは自由に攻撃できるから面白いよー。」

「・・・、ストライクフェイバリット!」


矢田は防戦一方の展開を打破するため、ストライクフェイバリットを発動する。両腕で攻撃する連続パンチは鈴木の光弾を打ち消している。そして、鈴木に攻撃が届く!


「ん、何だ?」

「どうしたの、DY?」

「手ごたえが無いんだ。真紀、どうなっている。」

「えっ?ちょっと待って・・・、ってダメージゼロ?」


ストライクフェイバリットによる攻撃が終わり、再び矢田は防ぐだけになる。矢田のHPは残り5000になった。矢田のHPは減り続けるが、鈴木はHP9300のままで減ることは無く、余裕を見せている。HPが減らない理由は鈴木のエヴォリューション状態にあり、鈴木のデータを調べれば攻略方法がわかる。しかし、矢田のダメージ軽減だけで手がいっぱいの寿にその余裕はない。


「ちょっと、ムネオ!DYに攻撃しすぎっ!回復のサポートが間に合わないんだけど!」

「それも戦法だよ、ねぇ~、アキヨちゃん♪」

「うん、そうだね!」

(ちょっと、素でムネオがキモイんだけど・・・)


寿は鈴木に対して気持ち悪さを感じ、集中が途切れたのか、矢田に対する回復サポートが徐々に遅れる。結果、矢田が受けるダメージ量が増えていく。この状況で防御をしていても進展が無いと判断した矢田は防御を左手だけにする。そして、彼は右手を振り上げてから、勢いよく鈴木に向けて振り下ろした。


「攻撃した腕がすり抜けた?」

「大輔~、無駄だよ~。俺がエヴォリューションしたら、受ける攻撃は無効化されるからね~。」

「ちょっと、ムネオ、言っちゃっていいの?」

「大丈夫だよ~、攻撃無効化されるんだから、無敵だよ~。」

(相変わらずムカつくんだけど・・・)


寿は鈴木に対して苛立ちを感じながらも、何とか矢田のサポートをしていく。そして、矢田は再び両腕で防御をする。21時10分の時点で矢田のHPは残り3200となっていて、大ダメージを受ければHPゼロになりかねない状況である。故にその状況を知っている鈴木と尾原は会話の1つ1つに余裕の気持ちが出ていた。矢田と寿は防戦一方なのだが、この状況で2人はチャンスを狙っている。


「真紀、あとどれ位だ?」

「あと30秒切った。カウントダウンはゴーグルに表示されているから、ゼロになったら動いて。」

「了解。」


矢田と寿は小声で短く、作戦のための通信を済ませる。鈴木からの攻撃を受け続けている矢田の残りHPは2000をきり、危機的状況である。耐え続けている矢田のHPが1000になった瞬間、ゴーグルのカウントダウンは2秒となった。それを確認した矢田は今いる位置から教室の外に向けて走り出した。矢田がとった教室から出ていくという意外な行動に鈴木と尾原は唖然としているが、次の瞬間、光に包まれる鈴木。


「わっ、ムネオ、大丈夫?」

「何?いきなり攻撃を受けたんだけど、どーなってるの?」

「う、うそっ。ムネオのHPがゼロになっているよ!」

「えーーっ?」


21時11分、矢田のHPは1000、鈴木のHPはゼロ。HPゼロの鈴木は味方に回復してもらえるまで攻撃が不可能となった。


△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△


21時07分、校舎の外で合流している山河はHPを回復させながら、天野と作戦を考えている。山河のデバイス【スイレン】のアブソープを使えば急速に回復できるのだが、彼の周囲にある情報量が少ないためアブソープによる急速回復はあまり意味が無い。


吸収(アブソープション)と聞いていましたが、不便ですわね。」

「まぁ、使いやすいシチュエーションになれば便利ですよ。俺のせいで攻撃が遅れてすみません。」

「構いませんわ。」

「さすがです。プリマは寛大な心を持っておられるのだ、喜ぶべきことです。」

「は、はい・・・。」

「皆さん、私のサポートはあまり期待しないでください。ヴァンさんの切り札使用のタイミング以外はシステム面に集中しないといけないみたいです。敵のナビゲーターの誰かはものすごいプログラマーみたいで、油断しているとこちらのシステムをハッキングされそうになります。」

「了解、俺は大丈夫ですから。頼みます、小澤さん!」

「はいっ!!!」

「さて、プリマと花川さん。これからどうしましょう?」

「今、DYが戦っているのは1階です。寿さんからの連絡によると苦戦中だと。」

「わたくしを動けなくさせたエグザをいち早く倒したい一心ですの。」

「すぅーー。はぁーーーー。すぅーー。はぁーーーー。」


山河は深呼吸をしてから目を閉じ、考えをまとめる。天野はすぐにでも校舎へ突入しそうだったが、山河のその様子を見て立ち止まる。


「どういたしましたの?」

「ふぅ。・・・、全員聞いてください。今からムネオを倒します。」

「え、ちょ、山河君どーいうこと?」

「これはチーム戦なんです。DYの個人的な理由、私情を持ち込んでいいものじゃないと思います。文句があるならあとで言ってください。」

「私情っていっても・・・」

「真紀、いい。ヴァン、了解だ。」

「はい。作戦ですが、DYはムネオとそのまま交戦。タイミングに合わせてDYは退避。そのタイミングでプリマは最大威力で広範囲斬撃をムネオにぶつける。」

「わかりましたの。今はヴァンを信じますわ。」

「ありがとうございます。じゃ、タイミングは21時10分50秒にします。」

「了解。」


各自のゴーグルにカウントダウンが表示される。そして、天野は一撃のために力を溜めていき、山河は回復と周囲警戒に集中し、矢田は鈴木とギリギリまで交戦。やがて、カウントダウンはゼロになり、矢田が教室から出たことを確認。


「ストライクフェイバリット!!!」


山河の作戦通り、最大威力の攻撃を天野は放つ。七色に染まった大剣は教室全体ほどの大きさになる。それをためらうことなく、振り下ろした。そして、鈴木のHPはゼロになる。


「さすが、お嬢!お見事でございます!」

「やりましたわ!」

「2人とも次の作戦なんですけど・・・。」


山河は油断することなく次の作戦を考えていて、それを天野と花川に伝えていく。

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