Report13:チーム結成3/お礼
山河、矢田、天野の3人は正門付近にいる。時刻は20時55分、ジャンヌのアップデート完了まであと5分。HPは全快の状態だったが、20時53分に突然の砲撃を受け、残りHPが6500、8000、4200となっている。現場では3人とも沈黙し、気を張り詰めて周囲を警戒している。やがて、その沈黙は寿の話によって終わることになる。
「2分位の時間がたったけど、何もしてこないね・・・。」
「そうですわね。これだけ静かだとかえって不気味な感じがしますわ。花川、サーチの結果は?」
「申し訳ありません、プリマ。砲撃のあった方向を含め、周囲に探索をかけましたが・・・。」
「仕方ありませんわ。さて、お2人は何か考えがありますか?わたくしたちの取るべき行動について。」
「今、思いつくのは・・・。」
天野の問いかけに山河が答えようとした瞬間、現場の3人に砲撃が再び浴びせられる。残りHPが4000の山河は周りを見回し、動きながら敵を探す。HPが7000と3000の矢田と天野は同じく周りを見回している。ただ、山河と違うのは動かないということである。
「何ですの、この状況は。」
「DYとプリマちゃん、2人ともダメージの影響は大丈夫?」
「動けないな。」
「『動けないな。』って何言ってるの?」
「DYのいうことは事実ですの。動けないというか、何かに捕らわれている感覚がいたしますわ。」
「しかし、私が再度、サーチしても周りに敵はいないという結果でございます。」
「彩ちゃんはジャンヌの調整に集中しているから、私と花川さんでもう一度、敵の探索をしましょう!」
「かしこまりました。」
「ヴァン、アブソープで急速回復を頼む。」
「DYの気持ちは分かりますけど、小澤さんの補助無しでは出来ないです。」
「DY、ヴァン、この状況はどういたしますの?」
天野の問いかけに矢田は落ち着いて手段を考えはじめる。何もしゃべらずに集中して、攻撃を仕掛けた相手の特性やねらい、次にどう動くのかをイメージしていく。自分自身は動けない状況だが、何ができるのかを考える。
「・・・チッ、めんどくせぇ。」
「ん?ヴァン、何か、おっしゃいました?」
「い、いえ。」
考える矢田の一方で山河は無表情のまま、苛立っていた。無意識に愚痴を零してしまうほど、自分を取り巻く状況に対してストレスを感じている。独り言が天野に聞こえてしまい、思わず慌ててしまったが、それでも苛立ちは静まらない。
(スイレンの調子が変?・・・いや、鈍いんだ)
スイレンを少しだけ操作して動作が遅いと予想する山河。モードの切り替えは異常なし、切り札の3つも異常なし。この事実から考えられることは、スイレンのシステムが異常を起こしている訳ではないということ。そして、システム外の影響を受けているために動作が鈍いのだと判断した。
「ヴァン、恐らく砲撃があった位置なんですが・・・」
花川が突然、彼の推測を話す。その推測を聞いた山河は、一言だけ【お礼】を言った。その後、深呼吸をして気持ちを整える。自分のとる行動を考えた彼は、敵の居場所を睨み付け、1人で動きはじめた。
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20時53分、校舎の4階で山河と矢田と天野のチーム、ハイブリッドを見ていた3人組がいる。それはTKOブロックから参加している、コードネーム【リン】の罍ともみ。FKOブロックから参加している、コードネーム【チヂ】の千々和大地。CHBブロックから参加している、コードネーム【ムネオ】の鈴木宗博だった。
「そーいえば、ムネオは矢田さんって人を知ってるみたいだけど、何で?」
「大輔とは高校が一緒なんだよ。まぁ、色々あってさー。」
「ふ~ん、別にかんけーないから、いいけど。」
「ちょっと、リンちゃ~ん。って、それよりも、チヂの攻撃は当たったの?」
「当たったけど・・・」
千々和の一言を聞いた罍と鈴木は先ほどから続けている小型ゲーム機での協力プレイを再開する。ゲーマーの2人は意気投合して出来たこのチーム。なぜ、千々和がいるのかというと、彼のナビゲーター神林理沙がゲーマーだからである。協力プレイは罍、鈴木、神林の3人でやっている。ゲーマーでは無いエグザの千々和、罍のナビゲーター和久井、鈴木のナビゲーター尾原アキヨの3人は真面目に警戒を続けている。
「まぁ、ともちゃんは平常運転だから安心して。戦闘になればちゃんとやるからさ。」
「和久井さんがそういうならいいんですけど、私のエグザのムネオは実際の現場でも、任務よりもゲームを優先しちゃうので大変なんです。」
「何故か神林さんはいつの間にかゲームして、いつの間にか僕の任務のフォローをしているから不思議なんだよなー。」
この6人が集まった結果、癖のあるチームになった。
「チヂさん、矢田さん達は動いていますか?」
「いや、移動していないよ。移動はしていないけど、警戒している。あと、俺たちのことには気がついていないみたいだ。」
「どうします、和久井さん?このままムネオ達がゲームを続けているというのもちょっとダメな気がしますけど。大輔君、こっちに気がついたら攻撃してくるはずですから。」
「矢田さんだっけ、DYの人。彼がどんなエグザなのかはわからない。この状況で俺がわかっていることは少ない。けど、一番はっきりしているのはヴァンが面倒くさいやつということ。早いうちに手を打たないとマズイ気がする。」
「なら、その場に縛り付けましょう!」
千々和の案を聞いた和久井と尾原は彼の言っていることの意味がわからなかった。だが、千々和から話を詳しく聞き、その結果、2人は彼の提案に賛同した。そして、千々和は再び砲撃を放つ。放った砲撃はチームハイブリッドに直撃。ダメージを与えたことを目視で確認し、千々和はすぐに物陰に隠れる。
「和久井さん、尾原さん、敵の様子はどうでしょうか?」
「えっと、ですね。大輔君とプリマは動けないままです。でも、ヴァンは動いています」
「え?」
「尾原さんの言う通りだ。ヴァンだけが動けているんだ・・・」
「俺の砲撃は攻撃を受ければ受けるほど影響を強くうけます。一種の麻痺状態になるんです。でも、ヴァンはその効果を受けていない?なぜ?」
「ともちゃん、ムネオ、ゲームは終了。チヂと一緒に敵を倒すこと!」
『えーーーっ!!』
「なんで神林さんまで、一緒に・・・」
「ゴメン、俺のナビゲーターはそういう子なんです。ほんとに。」
テンション低い声、不満が明らかにわかる声色で文句をいう罍、鈴木、神林の3人。彼らの文句に付き合う余裕が最初はあった和久井達だが、尾原の一言で余裕が緊張に変わる。
「ヴァンが完全にこちらの位置を把握したみたいです!!」
「和久井さん、どうします?現場の俺たちはどう動くべきでしょうか?」
「とにかく、3人とも移動してくれ。移動しないのはよくない。」
「わっくん、面倒だから3人で一気に攻撃しちゃおーよ!」
「大輔以外はザコでしょ、早く終わらせてゲームの続きしようよ。」
ゲーマーの罍と鈴木は、山河を3人で倒すという案をだした。動機はともかく、他のチームメイトもその案が良いと思っている。動き出すエグザの3人だが、待つように声がかかる。立ち止まる3人。そして、3人が立ち止まったのを確認した後に、ただ1人、ナビゲーターが静かに違う意見を出す。
「ヴァンから逃げるべき。」
『は?』
「バリちゃん、何言ってんの~。アイツから逃げるとか。」
「俺のナビゲーターは冗談を言わないんだ。シルクが疑う気持ちもわからなくはない。でも、神林さんが逃げるべきと言ったら逃げる方がいい。」
「すごい信頼だね、気持ちが通じ合ってるじゃん(笑)」
「ムネオ、バカにしないほうがいいよ、神林さん機嫌悪くなっているから・・・。」
「神林さん、理由を教えてくれないかい?」
不機嫌な神林が話をはじめるまで少し時間がかかる。そして、話を静かにはじめた。
「DYはエヴォリューションとセルフカラー深緑色。プリマは剣の雨、巨大な剣による一撃と7色のセルフカラー。」
「え、えーっと神林さん?」
「尾原さんが驚くのもすごくわかるよ。ペアを組んだ時、俺も驚いたから、この情報収集力には本当に。・・・あっ、ゴメン、神林さん続けていいよ。」
「ヴァンは銃と剣だけど、セルフカラーが理解不能。あと、デバイスのセキュリティーが異常なまでに厳重。全部見るには時間が必要。」
『理解不能?』
「ちょ、ちょっと!バリちゃん、あたしたちのデバイスは全部見たの?」
「うん、すぐ終わった。」
「すぐ!って、ホントに?」
「ホント。」
「またまたぁ~、ともちゃんも驚きすぎじゃない?(笑)」
「ムネオ、ちょっと静かにっ!あ、神林さん続けていいよ。」
「未知数なエグザだけが動けている。だから危険。校舎からは出るべき。」
20時58分、罍たちは神林の提案通りに動こうとした。だが、次の瞬間。山河が校舎の4階に着く。走ってきた山河の息は切れかかっているが、目は敵を睨み付けて、発した言葉は。
「見つけたぁ!!!」
彼らしからぬ怒鳴り声、鋭い眼差し。それは罍、鈴木、千々和を一瞬だけ怯ませた。山河は怯んだ隙を見逃さず、突撃を仕掛ける。突撃しながらスイレンのモードをビームからバレットに変えていき、銃弾を撃ち続ける。だが、山河が撃ち続ける銃弾は弾道が反れていく。
「ヴァンには悪いけど、ここで倒すよ。」
「チヂってすごいなぁー。もちろん、ともちゃんもすごいよ。でも、ヴァンの砲撃をチヂが俺たちの目の前で塞いでいるのを見るとチヂが本当に味方でよかったと思える。ほんと、すごいわ。」
「ねぇ~、わっくん。あたし、アイツとやりあうの嫌なんだけどー。」
「アキヨちゃん、俺も攻撃に参加した方がいいかな?」
「ムネオは攻撃準備してて。」
「わかったー。」
千々和のデバイスが起動していることで、防御壁が出来上がる。山河は防御壁で弾を反らされても撃ち続けるしかなかった。山河は解っている。攻撃をやめた瞬間、3人からの一斉攻撃でHP4000が一瞬でゼロになることを状況から理解していた。
「ヴァンの解析完了。挟み撃ちが一番良い。」
「パーティーメンバーの言っていることだ!やろうよ、ともちゃん。」
「ムネオはノリノリだねぇ・・・。まぁ、バリちゃんのいうことだし・・・、やる。」
罍と鈴木はストライクフェイバリットの準備をはじめた。鈴木は反対側から山河を攻撃するために別の階を経由して移動をする。そして、回り込んだ鈴木が山河に攻撃をする。
「っ!反応が遅れた!」
「よっしゃ、残りHP1200だ!」
攻撃を当てた鈴木はすぐに隠れる。卑怯かもしれないがそれも戦術である。イライラが溜まっている山河は更に苛立つ。危機的状況だが、それが逆に冷静さを取り戻すきっかけになる。冷静になった山河は攻撃を仕掛けようと考えたが、あえてそれをやめた。数十秒、何もせずに立っているままである。
「え?アイツ何もしてこないけど?」
「シルク、今のうちに攻撃を!何かあったら俺が防ぐから!」
「おっけー♪いっくよーぉ!あっ、許してほしいって言われても、ぶちのめすからね~。」
「くそっ、いきなりかよ!!」
「ん、アイツ逃げるけど・・・」
罍が2本の刀を構えた瞬間、山河が焦りの表情を見せながら逃げる。予想外の行動にあっけにとられた罍と千々和。罍からすれば攻撃のタイミングが少し遅れた、それでも攻撃しようとした時に逃げたのである。そのことに対して苛立ちを見せた罍と落ち着いている千々和。イライラしたままの罍が攻撃を仕掛けようとした瞬間、広範囲に及ぶ攻撃が2人を襲った。
「なっ、なにが起きた!?」
「どこから?ムカつくんだけど~。」
「2人とも、校舎の外を見て!」
廊下に山河はいないので罍と千々和が窓を開けて、確認する。そして2人の視線の先、和久井が話した校舎の外には1人のエグザがいた。罍と千々和と目があった直後、彼らに対して話をはじめる。
「わたくし、あなた方にお礼をしなければなりませんの。こんなにも早く、新しい力を使う機会を与えてくださったのですから。」
言葉を発し、笑ってみせた彼女は、すでに剣を構えていた。




