Report12:チーム結成2/ハイブリッド
20時29分、兼沢大学正門前。山河と矢田のもとに天野が落ち着いた足取りでやってくる。彼女は焦ることなく、一歩一歩を力強く、堂々と歩いている。そして、彼らと合流をして一言。
「よろしくお願い致しますわ。」
「はい、俺はヴァンです。一応、本名は山河総司です。よろしくお願いします。」
「DYだ。」
「わたくしはプリマと申しますの。」
山河達は彼女の説得、勧誘に成功した。それは10分程の時間がかかってしまったが、色々な説明を聞いた天野が納得をしたことでチーム結成に繋がった。合流した彼らは自己紹介を済ませ、これから作戦を立てようとしたのだが、20時30分になり、デバイスがメールを受信。それがサバイバル開始の合図となる。そして、そのメールには追記で全36チーム参加と書かれていた。
「さて、ナビゲーターの方は私、寿真紀がまとめるから、大輔はエグザをまとめてね!」
「了解。真紀、今は任務中だ。」
「はい、はい、DYでしょ!」
「わかっているのならそれでいい。」
「お嬢のジャンヌはもう少しで調整が完了いたします。完了次第、データの転送をいたします。データのアップロード中は戦闘を避けてください。」
「一応、プリマさんが移動している間に皆さんが使う武装の情報は共有しましたけど、作戦はどうしましょう?」
「俺はプリマの武装調整が仕上がるまで、逃げた方がいいと思います。」
「ヴァン、わたくしは逃げる気などありません。なぜ、逃げなければいけないのでしょうか?正々堂々と立ち向かうのは祖父からの教えですの。」
「DYはエヴォリューションがあるし、俺にはイクシードとかありますけど、プリマは不完全なままだからまともに戦えないですよ。」
「不完全ではありません!わたくしはいつでも完全ですの!」
「ヴァン、プリマ、悩む必要は無い。50m以内に敵が3グループいる。戦うぞ。」
「俺たちを含めたら4グループですね。」
「みんな聞いて、どのグループもルーキーが1、それ以外はみんなエヴォリューションまで使える。」
「動かない俺たちを狙いに来たっていうことですね、それにこっちはルーキーが2人いるから倒しやすいと思っているんでしょう。どうします、DY?」
「このまま待機だ。1か所に集めれば、混戦に持ち込める。俺のメガロアームで仕留めることが出来る。」
「了解です。プリマはそれでいいですか?」
「ええ。わたくしは逃げるのが嫌いなのでむしろ立ち向かうほうがいいですわ。」
「そうだ、山河君。彩ちゃんがジャンヌの調整をしているから、終わるまで切り札禁止ね。」
「・・・了解。」
切り札が禁止というのは予想外で驚いてしまったが、山河はそれを顔に出さず、短く返事をした。そして、その返事の直後、山河達は3チームとエンカウントし、四つ巴の混戦になる。すでに、3チームともエヴォリューションを使っていて、互いのチームから放たれる強い攻撃が戦場でぶつかり合っている。3チームとも、準備が出来ていない山河達に気がつき、狙いを定めた。
「出番のようですわ。」
「スイレン、モードバレット。さて、どうします?」
「真紀、ランカーはいるのか?花川、アップロードになったら教えてくれ。小澤、ヴァンのことは現場に任せろ。」
「DY、ランカー1人いる。ランカー名は【ジオ】、足場を崩す戦術を好んで使うタイプで、地面からの攻撃バリエーションが豊富。攻撃範囲は・・・半径30mだよ。」
寿の通信が終わった次の瞬間、地面から複数の槍が突き出て、山河達にダメージを与える。矢田、天野、山河の残りHPがそれぞれ8500、9200、8200となった。
「な、何ですの!?」
「下からって、これは。」
「ああ、真紀の言っているジオだな。全員、散れ、回避だ。だが、他へは向かうな。」
矢田の指示通りに山河と天野は動き、攻撃を出来るだけ回避している。混戦状態から逃れようとしても、気付かれて攻撃をされる状態に苛立ちを見せたのは天野だった。
「もう、我慢できませんわ。ジャンヌを使います。」
「ちょっと!いつアップロード開始してもいいように攻撃はしないはずじゃ!」
「ヴァン。彼女の好きにさせろ。」
「はぁ?何を言って」
「目の前の敵に集中しろということだ。それと、10秒間、俺を守れ。」
「え?何でですか?」
「エヴォリューションだ。」
「ふふっ、それだけピンチなの?珍しいね、あまり人のいる前では見せないのに。」
「真紀、警戒を頼む。」
「OK!山河君、ガードよろしくね!」
山河の返事を待たずに、矢田は行動範囲の境目ギリギリまで移動する。そして、山河は納得のいかないままだが、矢田に向かってくる攻撃に対処をはじめた。移動の終わった矢田が一言。
「ダービー、エヴォリューション、起動!」
エヴォリューションを発動させた矢田の全身が光でつつまれた。光が収まるまでおよそ10秒、なんとか攻撃を防ぎ続けた山河が後ろを振り返る。すると、全身に武装を展開させている矢田がいた。顔まで武装に覆われているので、表情までは見えないが、矢田が緊張しているのは雰囲気で伝わった。
「真紀、ランカーは本当にジオだけだな?」
「うん。」
「ランカーを仕留めたらエヴォリューションを解除する。」
「了解。2人とも気をつけて、DYの攻撃の余波でダメージ受けるかもしれないから。」
『了解!』
寿が山河と天野に指示を出している間に矢田はジオに向かって走る。エヴォリューションによる全身武装は攻撃も防御もアップしている。それを知っている矢田は他からの攻撃を防御せずに突撃していく。そして、走りながら右腕から攻撃を放つ。
「ふっ!」
「くっ!あの走りこんでくるやつ、慣れている。俺と違ってランカーでもないのに何なんだ!」
「黙れ。」
「ふざけんな!くらえっ!!」
ジオが攻撃を仕掛ける。下から突き出る無数の槍が矢田を襲う。矢田の残りHPが5200であるにも関わらず、攻撃を受けてもなお、突撃する。そして、接近して無数の打撃を、ジオに打ち込む。止むことのない打撃を受け続けたジオはHPがやがてゼロとなった。
「そ、そんな・・・。」
「ふーっ。終わりだ。エヴォリューション、解除。」
「あんた、なんで!」
「DYだ。」
「そうじゃない、俺が聞きたいのはどうして」
「話はあとだ。加勢しないといけないんだ。」
(どうして、本気を出さなかったんだ、DYは・・・)
エグザのコードネームは【ガーディアン】で、ランカー名はジオ。そんな彼が戦って思った疑問。本気ではなかったという理由。DYが本気を出さなかったのではなく、本気を出せなかったということは矢田と寿以外、その理由を知らないままだった。
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(強い・・・。)
(何者ですの?ほんのわずかな時間で仕留めるなんて。)
戦いながらDYの様子を見ていた山河と天野が感じたことは矢田が強いということ。だが、その感想に思考をめぐらせる暇は無く、目の前の敵に応戦しなければいけない。ジオがいるチームは残り1人、その他2チームの残り人数は2人。HPがゼロになったエグザは回復を受けるまで攻撃が禁止されている。他のチームはチームメイトを回復させたい所だが混戦状態なので、その時間が無い。山河と天野はこの好機を逃すことなく、ダメージを与えて、確実に敵を消耗させている。
「あと2チームですの。それぞれ1人ずつだけしかいませんわ。」
「はい。って!ジオが復活しています!」
「何!?」
「くそっ、スイレンの砲撃が防がれる。モードを切り替える時間があれば。」
「真紀!」
「だめ、大輔!まだ、だめだよ!」
山河、矢田、天野が戸惑っているのを見逃さず、他のチームが攻撃をしかけていく。HPは7100、5500、3700と安心できるわけではない。少しずつHPが削られていく中、天野が混戦地帯から距離をとる。そして、両手持ちの大剣になっているジャンヌを構え直している。
「ヴァン、DY、いきますわっ!!」
「了解。」
「はぁ!?ちょっと、ま。」
山河が戸惑っていることに構わず、天野は大剣を上方へ放り投げる。そして、高く放り投げられた剣は分解され、小さな無数のナイフになり、雨のように混戦地帯に降り注ぐ。その攻撃に気がつく他のチームだが、対応が間に合わず大ダメージを受けてしまう。
「み、味方まで巻き込まないでください!」
「申し訳ありません。コントロールがまだ上手くいきませんの。」
「ヴァン、回避できないお前が悪い。」
「っ!すみません・・・。」
混戦地帯に残ったのは復活したジオと山河、矢田、天野の4人。HPが600、4000、4700、3700という現状で山河達が有利な状態である。お互いに動きだそうとした瞬間、通信が入る。
「プリマ、ジャンヌのアップデートをお願い致します。」
「待っていましたわ、花川。データを送りなさい。」
「ヴァンさん、お待たせしましたっ!」
「小澤さん、アブソープを!」
「はい!吸収準備、吸収起動!!停止タイミングはお任せします!」
「っし、大きいの撃ちます!」
7秒のチャージ後、山河が凌駕攻撃を撃つ。しかし、ジオに防がれてしまう。だが、その防ぐ時にできた隙を逃さず、矢田が攻撃を仕掛ける。ジオのHPはゼロとなり、正門での混戦は落ち着いた。
「ふぅ。終わったんですね。」
「ああ。」
「お2人共、ジャンヌのアップデートに20分はかかりますの。それまでは戦闘を避けたいのですが。」
「ふぅ、(めんどくせぇな。このお嬢様)、了解です。DY、次はどうします?」
「ヴァン、回復だ。」
「わかりました。」
山河は吸収を応用して、散り散りになった情報体を集めていく。それを吸収して山河自身のHPを回復。その後に他の2人へHPを分け与えて回復する。そして、時間をかけて回復していった結果、5分程でHPは全快した。
「みんな、お疲れ様~!」
「ヴァンさんのナビゲート、間に合ってよかったです。」
「ええ、俺も小澤さんのアシストが無ければ危なかったです。」
「そ、そんなぁ~、照れますよ。」
「プリマもお疲れ様!大輔も何とか問題なく起動できてよかった。」
「ああ、だが・・・」
「わかってるよ。今、メンテナンスするから。」
「プリマ、遅れてしまい申し訳ございませんでした。」
「花川、大丈夫ですわ。このアップデートが終われば思う存分に戦えます。」
「そういえば、チーム名を決めない?」
『え?』
突然、寿が話をふった。急造のメンバーとはいえ、一緒に戦うのだから名前は必要だと考えたのである。いきなりの話で戸惑いはあったがチーム名を決めることに同意した5人。だが、名前が思いつかない。しばらくの間の沈黙を破ったのは小澤の小さく自信が無い声だった。
「ハイブリッド」
『えっ』
「あの、ハイブリッドはどうでしょうか。私たちは6人全員が違う性格で、そんな私たちが1つになっています。だから、ハイブリッドです。」
「・・・、俺は良いと思います。」
「私はもちろん賛成だよ、彩ちゃんが決めたんだからOK!」
「問題ない。」
「わたくしもそれでいいですわ。」
「私はプリマがよければそれで構いません。」
この時、チーム【ハイブリッド】が誕生した瞬間である。天野のデバイスがアップロード完了するまで正門で待機している間、寿と小澤を中心に世間話をする。山河と矢田はそっけない反応をしているが、天野と花川は驚く話があった訳か、興味深々に話を聞いていた。そんな彼らを校舎から見つめる視線が3つ。
「見つけたぞ、矢田大輔。」
「ふ~ん、あれが矢田さんなんですね~。ん?カワイイ女の子と一緒にいるのって、アイツじゃん。最悪~。」
「2人とも因縁があるようだな。それにしてもあの女、どこかで見たような気がする・・・。まぁ、いい。様子を見て、仕掛けるぞ。」
ジャンヌのアップデート、完了まで、あと7分。偶然にもこのタイミングで彼らはチーム【ハイブリッド】に奇襲をかける。攻撃が直撃した音は再び、正門前が戦場になる合図となった。




