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ブルーアイデンティティー  作者: 三笠聖
16/38

Report15:私情2/雨

天野のストライクフェイバリットで鈴木のHPをゼロにした後、山河が天野と花川に伝えた作戦は矢田を回復に専念させて、数的優位な状況で戦うことだった。


「これで勝てる相手なのでしょうか?プリマとヴァンよりも相手の方が経験は豊富です。あっ、お嬢たちが負けるという話ではないですが・・・。」

「勝ち負けというよりも、相手の攻撃を想定した結果です。」


山河は不安になっている花川に対して、無表情で淡々と説明をしていく。天野は周りを警戒しつつも、相槌を打つことなく山河の話を聞いている。


「寿さんからの情報だと、残りのエグザは【チヂ】と【シルク】です。シルクは1度だけですが俺は直接戦う機会がありました。彼女は二刀流の使い手です。彼女のバトルスタイルからすると相手の動きを鈍らせるとか、トラップを仕掛けるような攻撃はしないと思います。だから、俺たちを最初に襲撃してしばらく動きを鈍らせたのは間違いなくチヂの攻撃です。プリマと花川さんは俺のゴーグルが記録したデータを確認されました?」

「いいえ、していませんの。」

「俺が1対3の状況で戦った時、俺の攻撃はチヂ1人で防がれました。直接戦って感じたことですがチヂは攻防共に優れたエグザだと思います。チームのリーダーっていう感じもありますし、マルチなタイプだと思うんです。だから、チームメイトのサポートもする。あのタイプに対して1対1で戦うのは危険です。でも2対1で戦い、さらにシルクのフォローもしなければいけない状況なら何とかなりそうな気がします。シルクは1対1で戦える相手だと思うのですが、連撃の速さと調子が良い時のセンスはあなどれないです。つまり、チヂに対しても、シルクに対しても2対1で戦うべきっていうことです。」

「な、なるほど・・・。そういうことならば。」

「花川!あなたはわかっていませんのね。わたくし個人の力だけでは相手と正々堂々、戦っても勝てないとヴァンは言っているのです。正直、屈辱ですわ。」

「お前、プリマに失礼なことを!!」


花川に怒鳴られて、黙っているままの山河。彼の顔は無表情だが、内心は苛立っていた。現状を考えた最善に近い提案をしたのに怒られる。作戦をすぐに立案できない彼らに文句を言われたくないと山河は思っている。そして、嫌な空気が現場にいる2人の間に流れ、少しの沈黙がうまれた。やがて、天野が口を開く。


「屈辱ですが、今は生き残ることを優先しなければなりませんの。わたくしのプライドを捨てでも、ジャンヌは更なるパワーアップをさせなければなりません。だから、今はヴァンの言う通りに動きますわ。」

「了解。俺たち2人に余力があるうちにシルクを倒す。」


山河達は罍のいる場所に向かう。その途中、山河は更なる提案をした。それはチームハイブリッドのメンバー全員を驚かせるものだったが、全員がその提案に納得。説明が終わるのと同じタイミングで、罍のサーチが成功。ゴーグルに表示されたデータを見た後に校舎の外に出て移動。その場所に罍がいることを確認。山河と天野で罍に戦いを挑むという最善の状況に出来ると山河は確信していた。そんな山河と天野が、罍にどう攻撃しようかと考えていると


「なんで?」

「ここにいるのが2人なんですの?」

「驚くのも無理はない。こちらも同じようなことを君たちのナビゲーターにされたんだ。お返しってことで。ヴァン、第2ラウンドだ。」

「ごめんなさい、チヂのサーチだけ偽物でした。本人の位置は探られないようにカモフラージュしていたみたいです。いつの間にか細工されていました。」

「でたぁ~、メンドクサイなぁ~。チヂに任せていいよね?」

「ともちゃん、ダメだよ。」

「えー。」

「ヴァンだけじゃないから。プリマもいるから。甘くみちゃダメ。」

「えーーー。」

(チヂとシルクはいつでも攻撃可能なのか。俺たちが下手に動くと大ダメージを受けるかもしれない。)


山河達が見たのは20m程前方にいる2人のエグザ。文句を言うエグザの罍と落ち着いているエグザのチヂ。嫌そうにしている罍の言葉に偽りはないが、そんな彼女はいつでも必殺を使えるように構えていて隙がない。その様子を見た山河は、想定している中で最も悪い状況に近いと思った。


「ふぅーー、やるか。」

「そうですわね。仕掛けなければ動きが生まれませんわ。」

「スイレン!モード、バスタード!」

『えっ?』


天野が先行して動きだした後、山河が武装を変更する。千々和と罍は山河がとった予想外の行動に驚いてしまう。校舎内で戦った時は銃での攻撃だけだった山河が、距離が離れているのに剣を構えたからである。罍と千々和が驚いたことで隙が生まれたことに気がついた天野。彼女は走り込み大剣を振るう。


「はぁぁぁぁぁ!」

「シルク!何でもいいから斬撃を連続で!何かあったら俺の【アルス】でフォローする。」

「いよぉ~し!まっ、かせてぇ~!!」

「わたくしの剣が防がれた。予想以上の堅さですわ。ビクともしません。」

「っ、離脱しろ!!いそげ、プリマ!」

「正々堂々と戦うのも家の教えですわ。」

「やられても・・・。」


山河が言葉を発するのと同時にシルバーホワイトに染まった数多の斬撃が天野を襲う。罍の連撃が終わった21時20分、山河・天野・罍・千々和の残りHPは6000・2500・6500・10000となった。大ダメージを受けた天野を連れて、山河は罍と千々和から距離をとる。


「さっすが、あたしだぁー。」

「と、ともちゃん容赦ないね。あの2人、ルーキーなんだからね。」

「さて、神林さん。ムネオがいる場所まで誘導よろしく。俺たちのどちらかが行けばHPを分け与えてムネオが復活できるから、今のうちに復活させよう。」

「すぅーー。ふぅー、・・・こっからだ。」


他のエグザに聞こえないほどの小さい声で一言呟き、無表情になる山河。山河と敵2人の距離はおよそ50m。そして、天野は山河から15m程の距離をとり、待機している。しばらく動かなかった山河と天野だが、山河の言葉をきっかけに動き出す。


「1人じゃ無理だな。でも・・・。」

「ヴァン、あれをやりますのね?」

「はい、15秒後に仕掛けます。小澤さん、あれの準備をお願いします。」

「わかりました。ついに使うんですね、あれを。」

「上手くいくのでしょうか、お嬢はどう思います?」

「花川、お嬢はやめなさい。プリマですの。」

「大丈夫ですよ、花川さん。お2人ならできます!準備はいいですか?では、カウント3、2、1、ゼロ!」

『サンダーストーム!!』


山河と天野の声が重なる。次の瞬間、天野が高く放り投げた剣は分解され、小さな無数のナイフになり、敵のもとへ降り注ぐ。7色に染まった剣の雨は止むことなく、敵を襲うが罍と千々和は千々和が出すバリアで防御をする。そして、山河は天野の剣雨を避けつつ、罍と千々和に対して斬撃を放ち攻撃をする。彼が50mほどの距離をジグザグに走りながら振るうその剣は他のエグザが使う剣と異なり


「弾いていますわ。わたくしの剣をも」

「プリマのおっしゃる通りです。プリマの剣を雨、ヴァンの剣を雷とするとサンダーストームという名前にした理由がわかります。降りしきる雨の中、雷鳴が雨粒を弾くかのように彼の剣が全ての情報体を弾いています。」

「なんなの~。上から剣が、前からアイツが来るって。もぅ、嫌なんだけど~。」

「俺の【アルス】が展開するバリアで上から降ってくる剣とヴァンが放つ遠距離斬撃は対応できるけど、いつまで保てるか自信がない。セルフカラーの国防色(こくぼうしょく)を使っても、複数の色が混ざった攻撃なんて初めて対応するから耐えられるかどうか・・・。」

「チヂ、無理。もってあと1分。」

「ともちゃん、聞いた?嫌がってる場合じゃないよ。バリアがあと1分しかもたないんだよ。チヂが防御に専念していてもこの状況なんだよ。」


山河は攻撃のチャンスを見つけるために、ジグザグに動きながら斬撃を放ち、罍や千々和との距離を縮めている。50mを走れば、10秒以内で2人に接近できるのだが、反撃を警戒しているので山河はジグザグに動く。山河の行動と千々和がカラーコード806830の国防色を使ってバリアを展開していることの2つの要因が結果として罍のナビゲーター和久井に時間を与えることになる。


「いいかい、ともちゃん。今、ここはアフレコ現場じゃない、仕事という訳ではなく、みんな自分の意思でいるんだ。だから、帰りたいなら帰ればいい。ここにいるみんなはエグザやナビゲーターにならないと叶えられない願いがあるからいるんだ。ともちゃんはどうなの?何でアークバスターズの活動をしようと思ったの?何で今ここにいるの?」

「う~、うぅ~。」

「逃げたいなら逃げればいい。でもそれはいつかの諦めに繋がるんだよ。」

「あ~、あーーっ。」

「好き嫌いをなくせとは言わない。だけど、好き嫌いの私情があっても、やらなきゃいけないことだってあるんだ!」

「んーーーーー。」

「ともちゃん!!」

「もーーー!」


罍がイライラを募らせている時に山河は千々和が作ったバリアの境目にたどりつく。千々和を中心としたバリアは半径5mで、そのバリアに剣で攻撃をしていく。それは千々和にかなりの負荷をかけることになった。だが、この状況を覆そうと千々和がバリアを破裂させて、山河の剣を吹き飛ばした。山河が再び剣の武装を展開させる間、防御するものが無くなった千々和と罍は剣雨によるダメージを受け続けていく。


「このままバスタードで斬る。」

「エヴォリューションするよ、神林さん!」

「了解。」

「む~っ、って大丈夫じゃん♪チヂがエヴォリューションするから平気じゃん。」

「いやいや、ともちゃん。バリアが無くなったから回避しないとダメージ受け続けちゃうよ!」


21時30分、山河・天野・罍・千々和の残りHPは5500・2500・3000・6000となっている。校舎の外にいる彼らの中でエヴォリューションしているのは千々和だけ。天野の剣雨は止むことなく降り注ぎ、罍はダメージを受け続けている。エヴォリューションした千々和の防御は高くなり、剣雨を受け続けてもダメージが軽微で済んでいる。千々和との距離5mにいる山河はその距離を詰めようと駆け出す。千々和の懐に入って剣で斬りかかろうとした瞬間、目に見えない攻撃を腹部に受けた山河はその勢いで数メートルを転がっていく。


「よかった、オートガードが間に合った。これで何とか出来る。」

「チヂ、エヴォリューションの強制終了まであと1分30秒を切った。」


千々和と神林が確認事項を通信で話している間、山河は距離をとる。距離を取りつつ千々和の様子を見ると、彼の周囲2mに届く剣雨を全て弾かれていた。この状況を見て山河は落ち着いて判断をする。そして、策をチームメイトに伝える。


「プリマは攻撃中止して回復を急いでください。花川さんは回復の処理速度を上げるサポートをお願いします。小澤さんは・・・。」

「いつでもいけます。ディスチャージ、スタンバイ済みです。発動権限はヴァンさんに譲渡します。」

「どれくらい持ちそうですか?」

「いつもなら長く出来ますけど、今回はHPを消費してしまいます。だから30秒で私が強制的にデバイスを機能停止させます。」

「わかりました、ありがとうございます。」


エヴォリューション状態の千々和が遠距離砲撃をしていく間、それを避けながら山河は小澤との最終確認を済ませる。千々和と山河との距離は10m程なので、回避の判断を間違えたら即ゲームオーバー。そんな状況で攻撃のタイミングを見定めた山河は勢いよく走りだし


「スイレン、ディスチャージ・スタート!」

「なっ!」


叫びながら剣で千々和に斬りかかる山河。叫ぶのは彼が持つ3つの切り札の内の1つを起動させるためのキーワード。剣状態になっているスイレンからは光が溢れ出し、輝きを増す。それは千々和のオートガードで防がれるが、千々和に余裕の表情は無い。


「うおおおおおおおっ!」

「オードガードだけじゃ耐えられない。ってバリアを3重にしても、押される。」

「おおおっ!!」

「反撃する余力が無い。ぼ、防御が!!」

「おらぁっ!」


千々和のオートガードとバリアを破った山河の剣はそのまま千々和を斬りつける。大きな力を放出し続けている剣を山河は何度も振るう。それは千々和の残りHPを削りとるのに十分で、5秒も経たない内に千々和のHPはゼロになった。山河は息をつく間もなく、罍に向かう。


「ヴァンさん、残り10秒!」

「このまま放出剣(レディエイトソード)でシルクを倒す!」

「シルク!くるぞ!」

「もーーーーーーーぉっ!バカーーーー!」


和久井に説得され続けている罍はHP1500という状況や説得の長さにイライラしている。今まではそれに耐えていたが、遂に限度を超える。吹っ切れた彼女は叫び、感情に任せて刀を周りに構わず振るい続ける。偶然にも彼女は刀を振るいながら、エヴォリューションをしていた。その状態から繰り出される攻撃は予想外に速度があり、切れ味が良い。攻撃に気がついた山河は放出剣(レディエイトソード)で防ごうとしたが間に合わず、結果として罍の攻撃は彼のHPをゼロにした。


「ともちゃん、残り1人!」

「え?わっくん、どーいうことぉ?」

「前、50mほど先!」

「あー、ホントだねー。」


苛立ちが収まった罍は普段通りの様子に戻る。そんな彼女はナビゲーターの和久井に言われて初めて敵の存在を認識する。エヴォリューション状態はいつの間にか解除されていて、攻撃の準備もしていなかった罍は改めて残り1人の敵を倒そうと攻撃の準備をする。その直後、剣雨が再び罍に降り注ぐ。


「ちょ、ちょっと何コレ~?」

「防御、早く!」


慌てる罍と和久井。その様子を見て、剣雨を仕掛けた天野は罍に向かって走り出していく。10秒後、罍との距離が5mとなり天野は剣雨を止める。


「終わりですわ!」

「わっくん、女の子が。」

「早く、攻撃を!」

「ストライクフェイバリットですの!」


7色に光りだす大剣を斬りつけること4連。罍のHPをゼロにした天野。HPを4000まで回復させている天野は、それを分け与えて山河を復活させるために彼のもとへと急ぐ。自分自身が倒した罍に見向きもせず、彼女は山河のもとへ駆けつける。


「・・・、はぁ。」

「大丈夫!?」

「まけちゃったよ、あはは、はっ・・・」

「ともちゃん?」

「わっくん、あたし。・・・くやしい。」


本人も知らぬ間に呟いた本心。その言葉を発した罍の両目は僅かに濡れていた。

実際の天気は晴れているが彼女の心の中では雨が降りはじめた。



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