Report10:模擬戦2/コンビネーション
17時00分、エグザの天野華が出る3組目の模擬戦が始まる。天野は移動しているが、ナビゲーターの声を聞いていない。それは補助無しで戦うということである。実際にナビゲーターの花川満はエグザの補助のために指示を出していない。これは2人が打ち合わせした上でやっていることであるが、本人以外はそれを知るはずもなく。
「プリマはまだ、あのボウズと仲直りしていないのか。」
「ヴァン、知り合いがいるのか?」
「はい、講義で見かけただけですが、あの通信をしていない女の剣士です。」
「ああ・・・」
「どこかのお嬢様らしいです。」
「・・・」
「割と賢い印象を持ちました。」
「・・・」
「聞いていますか?DY」
「・・・」
「はぁ、もういいです。」
モニターで見ている山河たちのように、エグザとナビゲーターの仲が悪いのか、故障で通信出来ないとか、天野の様子を見て推測を立てる観戦者が多かった。だが、どれも正解ではない。
(お嬢のセルフカラーが虹色とは。まったく無茶を言いますね。7色を混ぜ合わせるのには時間が必要なんです。結構、手間がかかって面倒なんですよ。)
管制をする部屋であり、メンテナンスをする部屋でもあるコンピューター室では、頭が丸刈りの花川が黙々と作業をしている。彼は時間のかかることをしていて、声には出さないが、面倒くさいと思っている。
(さて、わたくしの相手は、・・・後ろ!)
気がつくのに一瞬、遅れた天野は、彼女の真後ろからの砲撃をまともに受けてしまう。反転して体の正面で受けることにより、なんとか一撃での負けは回避したが、あと一撃でも受ければ負けになる。模擬戦開始3分での急展開だった。
「やった!思った以上ね!」
「よし、作戦通り!初撃でストライクフェイバリットは相手が予想していないことだからね。」
天野の対戦相手のエグザがナビゲーターと通信しているのを聞いた矢田と山河。山河は無反応に見えるが、内心は呆れている。ルーキー相手なのに、不意打ち。格上ならわかるが、格下相手にやるようなことではない。そう思っている山河の気持ちに気がついたのかどうかは知らないが、矢田が言葉を発する。
「ああいうペアもいる。実際の任務には綺麗も汚いも無い。任務遂行のためなら、自分の評価を上げるためなら、何を言われようとも気にせずに行動するやつはいる。」
「確かにそうですね、同意はできませんが。」
「同意は俺もできない。だが、それも1つの選択なんだ。俺たちは戦っている本人ではない。だから、選択が正しいとか間違っているとか決定してはいけない、それが許されるのは戦いをしている本人だけだ。それと、今は対戦相手になっているが、今日、この場にいる全メンバーが俺たちの味方なんだ。味方の考え方を受け入れる余裕を持っていろ。」
「だい」
「DYだ。」
「すみません、DY。わかりました。」
彼らの会話の最中、天野は砲撃を防いでいる。デバイスのジャンヌが生み出す剣で防御をしながら、相手の攻撃の隙を狙い、斬撃を放って対抗する。だが、最初の不意打ちによるダメージが大きすぎたこともあり、相手の砲撃を受け続けているうちにHPがゼロになった。模擬戦開始わずか5分で決着がついた。
「花川、調整は?」
「プリマ、すみません、あと1時間はかかります。」
「わかりました、作業を続けてください。」
模擬戦で天野が花川に通信をした最初で最後のやりとり。誰も聞いていないこのやりとり。彼女は落ち着いている。次のお披露目に向けて気持ちを切り替えていた。
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模擬戦4組目、開始直前になってトイレにいった山河が戻ってきた。すると、矢田の隣には見覚えのある2人が座っている。山河が戻ってきたことに気がつくと
「あっ、山河さん、お隣いいですよね?」
「やあ、山河君、彩ちゃんとばったりあったから、連れてきちゃったけどいいよね?」
「・・・、別に構いませんけど、DYが呼んだんですか?」
「・・・」
「私たちが来ただけだから、大輔は関係ないよ。」
「真紀、今はオフじゃない。コードネームの」
「あっ、皆さん、始まりましたよ!シルクさんの出る試合です。」
矢田の言葉を遮り、小澤が声を出す。4組目は山河が戦ったことのあるエグザ、シルクが出る組である。機嫌が良いのか、罍は歌を口ずさんでいる。ナビゲーター和久井の指示も素直に聞いて行動している。デバイスのリンが展開している二刀流の武装はセルフカラーのシルバーホワイトの光を放ち続けている。
「へぇー。展開と同時に準備するとはねー。ナビゲーターが何かしたのは確かだね。」
「見てわかるんですか、寿先輩?」
「エグザだけではあの細かい調整は時間がかかるからね。仕組みはわからないけど。」
「へぇ~。」
「ねぇ、彩ちゃん、彼女はどんな戦い方をする子だと思う?」
「えっ?あ、あの・・・。すみません、わかりません。」
「うん、大丈夫だよ。私はね、彼女は戦いを楽しくしたいんだと思うの。私も想像しかできないけど。様子を見てなんとなくそう思うんだ。」
「それはどうしてでしょうか?」
「鼻歌を歌うとか、楽しくないとしないでしょ?」
「え、そうですね。」
「現場に出ているエグザのフォローのやり方にも色々あるの。デバイス処理の補助だったり、情報提供だったりね。目の前にいるエグザの様子を見て、その時のコンディションを見るの。いつものクセがあるとか、様子が変とか。そういうのちょっと気にすると山河君が助かるかもしれないよ。」
罍が展開している武装の様子を見ただけで、その状態を保つのが難しいことなのかを見抜く寿。リンを使いこなす罍とナビゲーターの和久井、見抜いた寿とそれを教えてもらった小澤以外は光輝く二刀にどれほどの技術力が注がれているかわからないだろう。そして、寿の想像通り、罍は楽しみにしている。
「ターゲット発見♪わっくん、い~い~か~な~?」
「いいよ、ともちゃん!次へ進むために、景気付けにやっちゃおう!」
「おっけい!」
「ストライクフェイバリット・卯月!!」
「なっ!!!なんだぁ!いきなり斬撃が。」
「あたったぁ~!やったねっ♪」
「あはは、相手が可哀想だけどね。」
「ルーキーだとしても関係ないっ!次、いっくよぉ~!ストライクフェイバリット・水無月!!」
「あぶなっ!これ、話に聞いていたのより強力になってる。」
「む~~~っ。避けられた~。」
「ともちゃん、怒らないで。お願いだから、ホント。」
「・・・、大丈夫だよ、わっくん。アイツの時にそうなっちゃいけないのはわかったから。」
「くそっ。勝ち目がないじゃんか!あーーもうっ!!」
「これで終わりにするよ~。如月!」
「うわぁぁぁぁぁ!」
受けた攻撃の強さのあまり、ルーキーのエグザが叫ぶ。それは罍が模擬戦に勝利した合図でもある。自分の勝利が確定した瞬間、モニターに映る罍は心の底から喜んでいた。試合開始15分程の出来事である。
「先輩が言った通り、彼女は楽しそうでした。」
「うん。ところで今の攻撃、DYはどう思う?」
「もう少しデータが無いと判断できないが、ストライクフェイバリットを使い分けようとしていると思う。」
「DYさん、使い分けですか?」
「発動キーとなる言葉を複数用意して威力や速度などを調整するということだ。」
「それは私たちにもできますか?」
「プログラムを作る技術力はもちろん、デバイスの処理能力に依ることもある。だから、出来るとも出来ないとも言える。」
「DYは初撃での必殺は気に食わないと言ってましたけど、シルクも初撃必殺でした。」
「あれは正面からだ。プリマの時は近距離で死角、今のシルクは正面からだ。ただ、80m程の距離から放たれた意外性があるだけだ。あれは正々堂々している。」
技術的な話が終わった後、小澤と寿は雑談をしていた。一方、山河は4組目の残りの試合を矢田と一緒に観戦している。そして、4組目の模擬戦が終わりそうになる17時58分に山河と小澤が動く。
「先輩、私たちは準備しにいきますので、また後でお願いします。」
「では、失礼します。」
「ああ。」
「ああ、って、カワイイ後輩たちの模擬戦なんだからせめて、頑張れとか。」
「・・・。」
「・・・、まぁ、DYはいいとして。2人とも楽しみにしているからね。」
『はい!』
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18時30分、指定されたポイント、校舎の4階で待機している山河。しばらくすると、模擬戦6組目の試合が合図とともに開始される。ヴァンと対戦相手のアーサーは両方ともルーキー。彼の戦いに注目しているのは数少ない。それは見て学ぶことは先輩エグザ達には無いし、ルーキーもルーキー同士の戦いを見るより、先輩同士の戦いを見る方が勉強になるし、盛り上がるからだ。その中で山河の試合に注目している視線が6つ。講義をした蔦野、矢田と寿のペア、朝霧と加曾利のペア、天野と花川のペア、罍と和久井のペア、そして、日本支部、KNGブロックの副ブロック長梅田竜輝の6つ。違う場所から注がれる6つの視線に山河は気づくわけなく、デバイスのスイレンで銃を展開させている。そして、ビームモードにした銃を持ち、校舎の1階を目指し移動を開始した。
「小澤さん、宜しくお願いします。」
「はい、作戦通りですね。」
「スイレンはバレットモードに変えた時だけ、イクシードを使う。」
「はい。」
「頼りにしています。小澤さん!」
「はい!!・・・来ました、2階を移動しつつ、ヴァンさんに向かってきています。」
そして、2階から3階に移動する階段で2人が顔を合わせる。ヴァンの先制砲撃がアーサーの盾に防がれる。防ぎつつアーサーは階段を駆け、昇っていく。その様子を見て山河は3階の廊下へ逃げていく。
「ヴァンさん、3階でやるんですか?」
「はい、移動はこちらが不利になります。あと、ぱっと見ただけですが、片手剣と盾を同時に展開しています。俺に対する策も考えているみたいです。」
「見つけた!」
「アーサーに見つかりました。では、打ち合わせ通りに。」
「はい、解読と計測と合図ですね。」
「そうです。俺たちの最大の武器で勝負です。」
「はい、私たちのコンビネーションで勝ちましょう!」
アーサーの剣と盾は階段で見た時と異なり、黄金色に武装が染まっている。山河のゴーグル越しに確認した小澤はその黄金色のカラーコードe6b422を調べ、山河に伝える。伝えた所で今の山河には意味が無い。だが、練習なので小澤はしっかりと解読結果の伝達を行う。山河は牽制のためにビームモードで砲撃を続けていく。
「DY、山河君はわざとやってる?」
「ああ、わざとだ。わかりにくいようにしているが、俺にはわかる。」
「たまに当てようとしているけど防がれるし、砲撃が止んだら終わりだよね?あれだと、いつか接近されてやられちゃうよ。」
「真紀、あいつの【色】は?」
「へ?」
「・・・、まあ、気にするな。」
「ん?変な間があったけど、まあ、いっか。」
矢田は山河の攻撃に違和感を覚えていた。なぜ、色を使わないのか。それを知るのは蔦野だけだが、彼以外に山河が色を使わない理由を予測できるペアがいる。それは偶然に出会った天野と花川である。
「プリマ、彼は本当に無色なんですね。色が付いた攻撃をしていないです。」
「花川、色は無くとも色付きに勝てると思いますか?」
「私は勝てないと思います。お嬢が虹色を選んだのは色無しの攻撃は色付きの攻撃に勝てないからです。色はあればあるほど強い。単色よりも混ざった色や複数色の方が強い。」
「普通ならそうですわ。」
「じゃあ、ヴァンは負けますね。」
「でも、彼はあの剣士に勝ちますわ。」
「は?はぁ・・・。」
「わたくしとは選択が違うだけですが、考えの根本は同じだと思いますの。例えば、色付きで情報の量が多かったり、情報が壊れにくいものになっている攻撃があります。でも、それを上回れば虹色も無色も関係ない。無色でも虹色でもその攻撃に対抗、打ち破ることが可能になりますわ。」
「お、お嬢、つまり?」
「圧倒的な情報量の前には色が付いた僅かな量の情報は飲み込まれるということです。花川には理解ができないことかもしれませんが。」
「申し訳ございません。」
(純粋に情報量で勝負されるとは、彼には興味がありますの)
天野と花川が話をしている間も山河は砲撃を続けている。相手のアーサーは防御しながら前に少しずつ進んでいた。アーサーの表情は険しく、山河は無表情である。砲撃と防御の構図になってから、気がつけば5分は経過していた。
「アーサー、どうして攻撃しないの?準備は出来ているでしょ?」
「三上ちゃん、あいつは何だ?」
「え?ヴァンでしょ、ルーキーでしょ。」
「色付きの攻撃をしてないのに、何で俺がおされているんだよ!?」
「え!?」
「わかんない、わかんないんだ。」
「彼の今の攻撃はビームモードのものだよ。それを全部防いでいるだけだよね?」
「フェイバリットで突撃するか!っし、ストライクフェイバリット!」
アーサーの剣と盾を黄金色に輝かせて、山河のビームモードの砲撃を弾きながら、走り迫っていく。そして、山河は剣による突撃をまともに受け、残りHP500になった。
「だ、大丈夫ですか、ヴァンさん?」
「痛い。それよりも計測は?」
「は、はいっ!今のでストライクフェイバリットの威力を測定できました。1分、耐えて頂ければいけます。」
「1分か・・・、よし、逃げます!」
追撃される前に山河は逃げ始めた。ビームモードで撃ち返しながら、逃げている。数分前と違うのは命中精度。小澤が元の通りに調整をなおして、確実に当てるようにしたため、全弾が確実にアーサーを捉えている。
「ヴァンの攻撃が今度は全部当たっているんだ、三上ちゃん!」
「多分、ナビゲーターが調整したんだと思う。でも、当たらない砲撃もあったのに急に全部当たるとか。残りHP7000とはいえ、気をつけて!盾で防いでいてもHPが削られているから。」
「くそっ、あいつ地味に強いかも。」
校舎内を駆け回り、逃げ続けて1分が経過した。同じ校舎の3階に再び戻ってきた山河は逃げるのをやめて、迫ってくるアーサーの方に振り返る。そして、叫ぶ。
「モードバレット!!」
「はいっ!吸収準備、吸収起動!!」
「小澤さん、何秒?」
「10秒、耐えて下さい!合図します!」
叫ぶ山河を気にせず、アーサーは山河に襲いかかる。山河は攻撃をよけ続けている。アーサーが振るう剣先は山河の体をかすめて、HPを削っていく。そして、10秒が経ち、小澤が合図する。
「完了ですぅーー!!」
山河は小澤の合図を聞いた後、即座に間合いを取り、そして突撃をかける。アーサーが振るう一撃と交錯するが、ギリギリで交わす。そして、山河は凌駕攻撃を近距離でアーサーにぶつける。
「うおっ!」
「うわっと!何とか当てたが。」
攻撃の反動でお互いに吹き飛んだ後に、立ち上がる。ゴーグルにはHPゼロの表示が出ている。表示を見ると【アーサーHPゼロ・ヴァンHPゼロ】という結果になった。ドローである。
『ドローか。』
声が重なる。そして、しばらくの間があり、お互いの目が合った瞬間、2人とも笑い始めた。笑いが止まってからはお互いの健闘を称えあった。その声は響くほど大きいものだった。誰もいない3階には2人の明るい声が響き渡る。ピリピリしている模擬戦とはおもえない位、3階のフロアは明るい雰囲気で満たされた。




