Report09:模擬戦1
15時15分にデバイスがメールを受信した。タイトルは「16時~19時のトレーニングは体育館で1対1の模擬戦に変更する」と書かれている。教室にいる小澤が気になったのは組み合わせ。参加者は108組のペアだから、108人が戦う。その内、ルーキーが40人。ルーキー同士で戦うのであれば心配はいらないが、キャリアが長いエグザと戦うことになると厳しいのではないかと不安になっている。
「俺の対戦相手がきまっているんですね。対戦相手のコードネーム表記はアーサー。知らないですね。カッコイイと思って名前を決めたっぽいやつですね~。」
「呑気なことを言っている場合ではないです。いいですか、ヴァンさん!対戦する相手はラッキーなことに同じルーキーです。ですけど、色を持っているんです。色を持っていないヴァンさんと相手の差は大きいんです。」
「差があるのはわかっています。でも、戦うのに色を使わなければいけないルールは無いんです。それに差を埋めるためにできることはあります!!」
「え?」
「今回の1対1の模擬戦。ルールは戦うエグザが1対1であること。HPが10000ポイント。HPをゼロにするか、デバイスの機能停止、相手の降参、気絶の場合に勝敗が決まる。フィールドは指定範囲内の半径100m。模擬戦全体は3時間、1試合につき30分。1人1回の試合。9組ずつ試合を行う。試合をしない間は体育館で観戦。デバイスで武装を展開して攻撃や防御を行う。ゴーグル着用必須。対戦相手以外の攻撃が当たっても、ダメージ判定になるのでHPは減る。だが、とどめは必ず対戦相手がする。」
「9組ずつ30分の試合が6回ですよね。それは私も知っています。」
「じゃあ、小澤さん、他のルールは?」
「え?どういう・・・」
「他のルールはあるのかという話です。」
「書いていないですよ、でも色を使うとか、その他に色々とあると思います。」
「そうですね、他に書いていない。だからこそ、今の俺たちでも戦えるんです!!」
「ヴァンさん、話の意味が私にはわからないです。そ、その、もう少し分かりやすくしていただけると・・・。」
「小澤さんが言った通りです。書いていないんです。あとは個人の裁量に任されているんです。だから、色を使わずに戦ってもOKなんです。さっきのルール以外のルールが無い。」
「あっ!まさか、切り札ですか!?」
「そうです!切り札です!今回の模擬戦、俺だけの力では勝つことが無理です。でも、ナビゲーターの小澤さんの力があれば互角に戦えます!」
山河の考えを聞いた小澤の表情から、不安の色が消えていく。不安ではなく、彼なら勝てるのではないかという期待。そして、山河が彼女のことを頼っているということの嬉しさ。それらの気持ちが彼女の気持ちを高めている。
「ヴァンさん、打ち合わせをしましょう!そして、勝ちましょう!」
「はい、勝ちにいきます。」
2人は勝ちにいく打ち合わせをする。小澤はワクワク感、山河は冷静な感情が表情に出ている。ただ、山河は冷静に見えて実はワクワクしている。自分がどこまでできるのか、模擬戦の相手がどんな戦い方をするのか、色々なことを考えていた。2人の入念な打ち合わせはを16時になる直前まで行われた。
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模擬戦の開始時刻の5分前である15時55分、体育館に山河たちエグザが集まる。山河の順番は6回目、18時30分からのグループ。彼はおとなしく観戦している。他のエグザも自分の順番までは体育館で模擬戦を観戦するのだが、数人はどこかに行っている。おそらく、トレーニングか、遊んでいるかのどちらかだが、山河は気にせずに体育館のモニターで観戦している。それは模擬戦1回目に矢田の試合があるからである。そして、16時になり、模擬戦がスタートする。
「模擬戦1組目、開始っ!」
『現実化起動』
「さて、戦いが始まったか・・・」
モニターを見る山河は呟く。ナビゲーターの小澤はコンピューター室にいるため、彼には一緒に観戦する相手がいない。周りのことを気にせず、1人で呟くのは彼の癖だが、知らない人から見ると変な人に見える。そして、彼が注目している矢田が動き出す。
「俺の相手はどこだ?」
「DY、校舎の5階だよ。相手のデータをこっちは把握しているけど、相手も同じ。だから、DYが苦手と思う場所で隠れているんだと思う。」
「真紀、格下相手だが、使っていいか?」
「珍しいね、私に聞くなんて。相手がルーキーだから?それとも別の理由?」
「別に特別な理由は無い。ただ、格下だから手加減をしなければいけないと考えただけだ。」
「DYが考える通りにすればいいよ。私はそれを全力でサポートする。」
「了解、目立つのは好きじゃないが、色を使う。」
「うん、わかった。」
「ダービー、セルフカラー、深緑。展開する武装のメガロアームは範囲重視にする。柄じゃないが、炙り出す。」
「DY、ストライクは使う?エヴォリューションは?」
矢田のデバイスが00552Eのカラーコードを認識して、深緑色に光りだす。デバイスが放つ光の強さが安定してきた時に寿が聞いたエヴォリューションの質問に対して、少しの間があった後に矢田は答える。
「ストライクフェイバリットは使う。エヴォリューションは状況次第だ。」
「うん、OK。」
「さて、ルーキーのムサシに攻撃をするか。・・・ふん!」
矢田が振り上げたメガロアームが校舎を叩く。だが、電子情報なので、アームは校舎をすり抜ける。すり抜けるが、デバイスで武装を展開しているエグザには攻撃が当たる。
「DY、ムサシには当たっていないけど、他のエグザを巻き込んでいるから気をつけて。」
「縦じゃなく、横か。」
「突然、上から攻撃とか、冗談だろオイ。」
「ムサシの予想とは違ったってこと?」
「俺の予想外だ、建物をすり抜けて攻撃とか、意味が解らない。」
「ねぇ、どうするの?シールド出したら攻撃は出来なくなるし、銃も剣も展開したら防御が。」
「うるさいな、考えるんだよ。」
「ねぇ、DY。相手は校舎の中にいる方がいいの?それとも外に出てきた方がいいの?」
「・・・。」
「聞いているんだけど?だいす」
「DYだ!」
「け、って!聞いているなら答えてよ。」
ムサシは彼のナビゲーターに八つ当たりしている。予想外の攻撃方法、容赦の無さなどイライラに繋がる要因は多々ある。一方、矢田は落ち着いている。右手に展開しているメガロアームはすぐに攻撃できるよう準備している。さらに、周りにも気を配り、不意打ちにも対応している。この時点で勝敗はほぼ決まったようなものである。ただ、一方的な展開だと練習にならないということに矢田は気がついた。とはいえ、エヴォリューションを使うべき相手ではないので、使うとしてもストライクフェイバリットにしようと矢田は思いついた。その矢先にムサシが動く。
「くらえっ!!!」
「ほう・・・。」
校舎の1階に降り、校舎の外に出たムサシが銃弾を連射している。ただの弾ではない。カラーコードFB3C02の粉紅に染まった弾である。右手のメガロアームでそれを防御するが、次第にムサシの弾は強く光輝きはじめる。
「DY、まさか、彼は。」
「無意識にストライクを使うのは良くないな。だが、ルーキーにはよくあることだ。」
「うおおおおおおおおおっ!」
「真紀、もう1本使うぞ。」
「いいと思う。でも、もう模擬戦を終わらせちゃうっていうこと?」
「ああ。」
「せめてもう少し戦ってあげたら?」
「・・・」
「ちょっと、どうなの?」
「・・・、アイツが危険な目に合う可能性が大きくなるから。」
「あー、暴発かー。」
「左手の武装展開完了。ストライクフェイバリット!」
矢田が必殺の言葉を口にした直後、左手のメガロアームは深緑色の光を輝かせる。そして、次の瞬間、連続パンチがムサシを襲った。攻撃を続けているムサシはガードが間に合わず、まともにストライクフェイバリットを受けて、後ろに吹き飛んだ。HPがゼロになってしまった状況をムサシが理解したのは、起き上がってからだった。そして、茫然としている彼に矢田が声をかける。
「終わりだ。」
「は?・・・何だよ。何なんだよ、今の!」
「・・・」
「シカトかよ、答えろよ!」
「・・・」
「てめぇ!!聞いてんのか!?」
「もっと勉強しろ。」
矢田はムサシとわずかに会話をして、体育館へ向かう。一方、話しかけられたムサシはイライラしている。矢田は彼に対して冷たく話しかけた。その矢田の言葉に寿は正論を言っていると思った。そして、矢田の考えに同意をしているので、何か言うべきだと思ったのだが、あえて何も言わなかった。寿はムサシに対して何も言わないだけでなく、今の矢田にも声をかけなかった。ムサシは矢田の期待以下の戦いしかできなかったから。それを寿は矢田の様子を見て理解しているから黙っている。
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矢田の模擬戦を見た山河は黙っている。模擬戦開始をして7分という早い決着。見たい試合は終わったが、山河はモニターを見続けている。見続けているのには理由がある。
(エヴォリューションや色攻撃に対抗するには、まず、実際に見ないとダメだ。)
心の中でそう思いながら、彼は模擬戦を見続けている。そして、30分が経過して、2組目の模擬戦が始まった。無口なエグザの朝霧咲綾、おしゃべりなナビゲーターの加曾利イズルがいる組である。アークバスターズが管理しているエグザのデータによると彼女のカラーコードはABCDEF、白というか淡い水色に近い色がセルフカラーである。
「さて、咲綾ちゃん、いや、クナウちゃん、準備OKっすか?」
「・・・」
「準備万端っすね!【ダイア】の状態もいい感じだから、クナウちゃんのすごさ見せちゃってよ!」
「・・・しょする。」
体育館に設置されているモニターには動き出す2組目のエグザたちが映っている。その中で、朝霧は走らずに歩く。何を喋っているのかは相変わらずわからないが、彼女の動きに山河は注目している。それは彼女が持つデバイスが生み出した武装、辞書の形をしている武装が何をするのかが山河は気になっているからだった。
「隣の席、いいか?」
「・・・、ん?」
「座っていいか?」
「あ、どうぞ。えっと、確か、や」
「DYだ。1度会っている。」
「すみません。」
モニターを見ている山河の隣に座ったのは矢田である。模擬戦が終わり、寿との打ち合わせが終わったので、観戦をしにやってきた。矢田としては山河のことが気になっている。デバイス、戦略はもちろん、一番気になっているのはセルフカラー【クリア】の理由。それを聞くために、知るために矢田は山河のことを観察して、話をするチャンスを伺っている。しばらくすると、彼らが見ている朝霧の模擬戦に大きな展開がうまれる。
「コイツ!遠距離攻撃、斬撃が通じないのか!」
「いいっすね、クナウちゃん!その調子で間合いをとって!」
「・・・が・・・。」
「え?何かがおかしいって何すか?」
「遠距離からの攻撃は止める。接近戦だ!」
「来る。」
「ん?大丈夫っすか?平気っすか?」
「ストライクフェイバリットーーーー!」
「うっ!」
対戦相手の渾身の一撃、剣の武装から放たれるストライクフェイバリットを朝霧はまともに受ける。何とか耐えたが、あと2回攻撃を受けたら負けるというような状態である。格上相手に20分弱、戦いの均衡を保ってきたが、朝霧の耐久力は限界が近くなっている。
「クナウちゃん、攻撃が止んだ今のうちに、ダイアでバリアを作らないとマズイっす!!」
「わかっている。でも・・・。」
「エヴォリューション!」
「・・・、任せるっす!」
「うん。」
攻撃が止んだわずかな間に朝霧と加曾利は言葉を交わす。現状を耐え抜くのならば、加曾利の案がいいのかもしれないだが、朝霧は現場判断で別のことを考え、その内容を伝える。相手の久保川がエヴォリューションを発動させるために叫んだ声で聞き取りが難しいが、加曾利は理解した。
「あれがエヴォリューション。」
「そうだ。デバイスが武装を生み出し、展開するのが第1段階。それに色が付いた状態になるのは第2段階。全身に武装を展開するのが第3段階。エヴォリューションを使うということは【クボ】がムキになっている証拠だ。」
「エヴォリューションされたらクナウの勝ち目は?」
「・・・。」
「俺はおそらく、クナウが勝つと思います。」
「・・・。」
「あの辞書を使えば遠距離攻撃、中距離攻撃、防御ができます。防御はストライクフェイバリットの斬撃をも防ぐほどの強度です。」
「エヴォリューションした相手でもか?」
「今はモニターで確認できる通りに相手に押されています。でも、何かがあるんです。」
「ん?・・・、なるほど、そういうことか。」
2人は気がついた。辞書が1つの色に染まっていることを。そして、久保川が間合いをとり、エヴォリューションした武装での大威力攻撃をしようと隙をつくった瞬間。
「ストライクフェイバリット。」
朝霧の言葉を合図に衝撃波が久保川を襲った。衝撃を受け、後ろに倒れる久保川。彼のエヴォリューションは解除され、さらにHPはゼロになった。模擬戦の終了、残り6分前になって、朝霧がルーキーでありながら、エヴォリューション使用者に勝つという予想外の結末。これが今回の模擬戦で起きた大番狂わせの1つになるというのは全模擬戦が終了してからの話である。
「わたくしの番ですね。」
「はい、お嬢。」
3組目に出るエグザは準備をはじめる。偶然にもルーキーの大勝利を見ていた2人、天野と花川は気合いを入れ直し、体育館から出ていき、指定のスタート地点へと向かう。




