図書館と少女
翌日、アルと男装したリンは宿を発った。
この街の地図と、折れた銅の剣に代わる剣を買い、目的の図書館へと向かう。
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「あの……『はがねのつるぎ』とかって、2000ピールくらいで売っていないですかね?」
「あ?『鋼の剣』が2000ピール?はっ、バカ言っちゃいけねえよお客さん!最低でもその百倍はすらあ!」
「ですよねー……」
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「どうかしたの?アル」
「いや……なんでもない」
武器屋の親父とのやりとりを思い出して恥ずかしくなったアルの様子を不思議に思ってか、リンが心配そうな顔をする。だが内容は当然言えない。何であんな事を言ったのか不思議である。
「ところでリン。『竜』や『マスター』について知っている情報を教えて?あと『トレーナー』」
アルが尋ねると、リンは少し考えて答えた。
「『竜』はあのまま。強大な力を持つ生き物」
そして続ける。
「『マスター』は『竜を操るもの』。『トレーナー』は『竜を助けるもの』」
「助ける?」
アルは尋ねた。
「『トレーナー』は、『竜』の強化や回復を行うんだ。……ちょっとした魔法、みたいなものかな」
「へー…………」
そうは思うも、アルにはリンの力を確認する術がない。だって自分の竜、あんなだし。
辿り着いた図書館は街中の建築物の中で一際大きく、また非常に立派な造りをしていた。
旅人用の短期ビザを見せ、さっそく内部に入る。
外見同様、中も立派な造りだった。
案内に沿って、竜にまつわる蔵書のコーナーへと向かう。
……二時間後。
ほんの二冊読んだだけなのに、アルは自分を襲う頭痛に頭を抱えていた。
竜にまつわる本もほとんどが創作で、しかも記述の仕方が事実と判別しにくい。おまけに一冊一冊が分厚く、読書に慣れていないアルは読み進めるのに非常に時間が掛かっていた。
……次の本を探すか。
そうして席を立つ。何気なく近くで読書しているリンを見て、ぎょっとした。
リンの両サイドには、十冊以上は積まれているであろう本の山が、それぞれ二列、三列並べられていた。その横で、黙々と読書に耽るリン。
ただ、自分が一冊に頭を抱えながら読んでいるとは対照的に、リンは黙々と、しかしどこか楽しそうに1ページを読み、次に進んでいる。
読み終わった本を片側に積み上げ、簡単にメモを取った後、反対側の本を取って読み始めた。片側に積んである本の山は、すでに読み終わったものだろう。
声を掛けようとしたが、集中しすぎて周りすら見えていないリンはそのままそっとしておき、アルは新たな本を探しに行くことにした。
アルが、竜に関する書籍が集まる本棚に行くと、すでに一角はごっそり本が抜けていて、空になっていた。当然、アルとリンによるものだ。(ほとんど読んでるのはリンだが)
棚に残された本の中で、有望そうなものを探す。できれば、『マスター』本人が書いた本か、一緒に旅した人なんかの日誌があればいい、と思う。
あれでもない、これでもない。アルは脚立に上り、目当ての本を必死に探す。
その時……。
一人の女の子がこちらを見ているのに気付いた。
年はリンと同じく十五くらいだろうか。背は小さく、黒髪で髪は長く、前髪は真横に揃っている。人形のように整った顔立ち、貴族のような服を身にまとっている。
「竜の本をお探しですか?」
笑みを浮かべ、女の子は尋ねる。
「ええ」
「ならば、私の家に来ませんか?あなたのお探しの本も、きっとあると思いますよ」
「……誰ですかアナタ?」
アルは不躾に聞いた。女の子の雰囲気はヤシロ兵のそれとはまるで違う。が、今は誰であろうと信用することはできない。ともすれば戦える体勢をとりながら、アルは脚立を降りる。同時に周囲にも気を配ることも忘れなかった。
女の子は改めて言う。
「失礼しました。私はエニスタ・レインハルトと申します。
未熟ながら、この町の領主代行を務めさせていただいております」
女の子は丁重な物腰で名乗り、腰を深く折ってお辞儀をした。
「領主代行……だと?」
アルは困惑する。
現在、領主不在のレインハルトにおいて、『領主代行』は実質この街のトップに該当する。
それがどうしてこんなところに……。
「実は、あなた達に用があって参りました。『竜』について、知りたいのでしたね」
アルは無意識に身構える。
「ご安心ください。今は私一人です。それにヤシロの兵にも、この街では手出しをさせません。兄の作ったこの街では、絶対にね」
知っている……?
アルとリンが行動を共にしていることも、竜に関する本を探していることも、ヤシロの兵に追われていることも、彼女は全て知っているようだ。しかしどうして?
戸惑うアルと対照的に、エニスタは再び笑みを浮かべた。
「もう一度言います。私の屋敷に来ませんか?」




