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テオテル村物語  作者: 遊鳥
番外編
20/22

テオテル村の恐るべき嫁・前編

本編などで存在が匂わされていたあの人の話です。

思ったよりも長くなったので、前後編でお送りします。



 あれは七歳の頃だった。

 山の中腹にあるテオテル村よりもさらに山頂寄りにある子供達の秘密の遊び場に呼び出された俺は、意外な人間から、意外な相談を受けた。


「おれはイーゴンと結婚したいんだ。協力してくれ」

「は?」


 突然のカミングアウトに俺の思考が凍り付いた。

 あまりにも予想外な言葉に、見慣れた木々もそこら辺に転がっている岩も倒木も、鳥や獣の鳴き声すら、やけに遠く感じたのを覚えている。




 村人と積極的に関わるようになってからはや二年。七歳にしては色々な人と関わって来たと思うが目の前のやつは別格だ。

 真剣な顔で俺を見つめるこいつは、確かウルフとか言ったか? 年は俺より一つ上。

 いつも俺に喧嘩をふっかけている村のガキ大将・イーゴンの取り巻きの一人で、イーゴン単体でなら問題がない嫌がらせでもこいつのすばしっこさや機転が加わると凶悪さを増すと記憶している。


 俺発の短髪ブームはイーゴン一味にも届いたらしく、短く切ったくるくるの髪。色は茶色がかったくすんだ赤毛で秋の果実カラランに例えられている。

 顔は、良く言えばはっきりとした顔立ちと言えるが、ガリガリの身体に濃い顔で、男のくせに長いまつげに縁取られた大きめの目玉が少々不気味だ。


 そう、こいつは男なのだ。そして、イーゴンももちろん男だ。しかもイーゴンは齢七つにしてすでにゴツくてむさい。


 何が悲しくて雄しべと雄しべ(誤字じゃない)の話をしなくてはいけないのか?


「おい、分かっているのか? 村社会じゃ特に同性愛は疎まれるぞ」気を取りなおした俺は恐る恐る聞いてみた。

「どうせいあいってなんだ?」

 きょとんとし顔で聞くウルフは年相応に幼い。

「男と男とか、女と女とか、同じ性別のやつと結婚したいって思うことだよ」

 相手は十にも満たない子供だ。こんな説明でいいだろう。


「!」


 俺の説明にやっと意味の通じたらしいウルフは、その濃い顔をショックに歪ませた。可哀想だが、大人になると言う事は現実を知ると言う事だ。仕方が無い。

 やつを慰めようと口を開く前に、ウルフが叫んだ。


「イーゴンは女だったのか!!?」

「んなワケねーだろ!!!」

 ウルフの言葉に気持ちの悪い映像が一瞬で浮かび、思わず突っ込んだ俺。

 ……って、待てよ。そんな事を言うってコトは……。


「ウルフ、まさか、お前……」

「ウルフじゃない。ウルだ。おれの名前はウルズラだ」


 今度は俺の方が絶句した。



 気を取り直した俺は、ウルフ……もといウルズラをそこら辺にあった倒木に座らせ、その隣に腰掛けた。

 間近で見るウルズラはやっぱり小っこくてガリガリだ。これで女だと言うんだから人は見た目じゃ分からない。

 観察する俺の視線に気付かないウルズラは、地面を這う小虫を睨み付けながら憎々しげに言った。


「イーゴンは隣村に婚約者がいるらしい」

「またかよ! 隣村!!!」


 隣村と言えば、かつてエルゼの婚約者だった隣村村長の三男を思い出す。

 思い出すのも苦々しい仇敵だが、俺が穏便に穏便に話し合い、彼にエルゼの婚約者の座を降りてもらって以来、時々する俺の『お願いごと』を二つ返事で聞いてくれる気安い仲になった。


 テオテル村と同じく、ラウニ山脈にあるカララン村はここから徒歩で西に二日ほどの距離にあるが隣村としてテオテル村との交流が盛んである。

 それに隣村では、村名と同じカラランの実と言う名前の果実が有名で、その果実からは良質の食用油が取れる。

 カラランの木はラクシュ湖周辺の土壌とは相性が悪いらしく、テオテル村では育たないので、食用油はカララン村に頼っているのが現状だ。

 話を聞くとその婚約者の親は隣村村長の親族でカララン油を売る代表らしい。テオテル村との年ごとの交渉の際にイーゴンの親と意気投合して子供同士の結婚を約束したようだ。


 要するにここの家と揉め事を起こせば、村の存亡にも関わる。


 どうしたものかと思いながらウルズラを見ると大きな目玉をキラキラ輝かせて俺の助言を待っている。

 こいつに俺みたいな穏便な解決手段は出来るのか? 答えは否だ。

 隣村と揉め事を起こす真似はしたくないし、流石にこんな少女にキャットファイトを勧めるのも気が引ける。

 そもそも、その婚約者とやらはイーゴンとの結婚に乗り気なのか? あのイーゴンだぞ? ダミ声、ガサツ、ついでに尊大なガキ大将で、いつも俺を打ち負かそうと嫌がらせを仕掛けてはのされる愉快なやつだぞ?


「お前、イーゴンなんかのどこがいいんだ?」溜息をつきながら尋ねる。

「イーゴンの事を悪く言うな! イーゴンは男らしくて逞しいし、いつも頼りになる。おまけにとっても優しいじゃないか」夢見るようにウルズラが言う。

 それはどこの世界のイーゴンだよ?

 ん? パーネゼンで評判の美少年、町長の息子の名前こそがイーゴンだったっけ?

 意識を飛ばしかけた俺に、ウルズラは続ける。

「それに、おれはお前みたいなひょろっちいのは好きじゃないんだ。他の女どもはお前を誉めるけどな」

「うるせーよ! 俺だってお前みたいな男女にはキョーミねーよ! エルゼみたいに儚くて可憐、かつ優しく愛らしい女の子になって出直してこい!」

 俺の言葉にウルズラはしゅんとしょぼくれた。極端な反応に戸惑う。

「そうなんだ。おれはこんな外見なりだから、イーゴンも嫁にしようと思ってくれないんだ」

 うん。その気持はよく分かる。

「まあ、イーゴンもまだ七歳だしな。結婚とか先の話だから考えていないんじゃないのか?」

 なんとかなだめようとしたが余計ウルズラの情熱に火を点けたようだ。

「それでも今頑張らなくちゃ遅いんだ! お前は神童なんだろ? 大人だって頼りにしているじゃないか? お前だったら何とかしてくれると思って相談したんだ。……おれに力を貸してくれ」


 しおれた様子のウルズラは貧相な外見と相まって、ちっさく見える。

 こいつは形振りかまって居られない状況なんだろうな。

 イーゴンが目の敵にしている俺に頼る程だ。ウルズラの決死の覚悟が伺える。


 しかも、話を聞けば聞くほど俺とエルゼを彷彿させられて、他人事とは思えない。


 しばらく考えた後、俺はわざとらしくはぁと溜息を吐いた。


「分かった。力を貸してやろう。ただし俺は厳しいぞ?」

 具体的な対策など思いついて居なかったが、言ってみたかった台詞を言ってみる。

「ああ、よろしく頼む」

 俺の言葉に真剣に頷くウルズラ。


 こうして、俺とウルズラの『イーゴンを射止めよう大作戦』は始まったのだった。





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(2013/8/1 内容変更)

【ファンタジー・サーチ】

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