パーネゼンの冒険者たち(冬季限定)~ディルク十五歳~
完結後も読んで下さって有難うございます。
ディルクの十五歳の初出稼ぎの様子です。
小話形式で八話続きます。
……と、初出の時は『テオテル村の冬支度 ~ディルク十七歳~』の続きだと言ってしまいましたが、間違えです。
これはロープウェイの出来る前の話でした。
2013/01/03 大幅加筆修正入りました。
お騒がせしてすみません!
1・出発
「……いい加減もう行こうよ。ディルク」
背後からフィデリオの呆れたような声が聞こえるがまだ足りない。
何年も前から恐れていた事がとうとう現実になった。十五歳になった俺はテオテル村の他の十五歳以上の男どもに混ざってパーネゼンに出稼ぎに行かなくてはいけなくなったのだ。
これから一冬の間エルゼに会えないなんてなんていう悪夢だ! ギリギリまで居残り組になろうと粘ったが、結局フィデリオやイグナーツの説得に負けてこんな場所にいる。
あぁ、冬の間にエルゼに何か間違えがあってはいけない。次はどこを強化しようか?
「みんな今頃パーネゼンに着いてるよ」
もう少し獣用の罠も凝っておこうか?
「それに、帰ってくる時にこの罠全部片付けるのは僕達だよ。ディルク?」
分かってるの? とでも言いたげに問いかけるフィデリオに俺はようやく視線を向けた。
「分かっているよ。だが、俺達が居ない間、この村を守るのはこの罠なんだぞ?」
「だからってここまでびっちり囲まなくても……」
呆れたように周囲を見回すフィデリオ。
村の周辺には見えるものから、隠しているもの、魔導を利用したものなど、様々な罠が村への侵略者を喰らわんとスタンバイしている。入り口も、村人以外が出入りすると魔導で電気が流れるようにしている。
ちなみに、緊急事態で村から外に出る時の為にも一つだけ出入口を作っているが、間違って変なのを通さないようにそちらも厳重に厳重に魔道を施している。
「あ、もう一度エルゼに出発の挨拶をして来るよ」
「しつこい!」
とうとう俺はフィデリオに引き摺られながら村を後にした。
2・出迎え
「パーネゼンへようこそ! ディルク!」
町の前で俺を迎えたのは笑顔のイグナーツだ。フィデリオとはブリザードのような微笑みを交わし合っている。うん、平常運転だ。
「とうとうこの日がやって来ましたね。一緒に頑張りましょう!」
「おいおい、お前も参加する気かよ?」
「もちろんです!」
それでいいのか、次期町長。
仕事は……、するんだろうな。こいつは俺らと昼に出歩いて、夜に仕事をやるのだろう。
呆れたワーカーホリックだ。
イグナーツは俺が十五になり、出稼ぎに来るのを楽しみにしていた。
冬の間は自宅であるお屋敷を自由に使っていいと言ってくれたほどだ。
もちろん、俺達限定なので村人は冬の間住み込みで働くか、村人が共同購入したボロっちい村人専用の家に住む事になる。あれは、金が出来たらもっとマシなものにしなくてはな。
……ってか、イグナーツよ。なんでお前も村の出稼ぎに加わっているんだよ?
3・ギルド
「遅いぞ! お前達!」
冒険者ギルドの扉を開けると、涼し気な顔で迎えてくれたイグナーツとは対照的に、赤ら顔で出来上がっているイーゴンが酒を片手に迎えてくれた。
テーブルには酒瓶やら汚れた皿やらが散らばっている。
俺は冒険者ギルドと呼んでいるが、実際は町役場の一部だ。入り口周辺は酒場にもなっており、奥に依頼を受けられるカウンターがある。
冒険者ギルドはお世辞にも人相のいいと言える人間は来ないので最近は役場の一室から町の大通りを少し外れた元酒場に隔離された。
ここは日本風に言ったら派遣会社とか口入れ屋・手配師(どちらも江戸時代の職業紹介所)みたいなもので、近隣の魔物の討伐を国や自治体が依頼し、家業を継げない次男以下の男や俺らのような季節限定の出稼ぎ者が中心となって請け負っている。
本当の『冒険者ギルド』として発展していくのはこれからだろうが、ゲームの知識を活かして個人認証など色々と口出しをしているうちに形になってきているので、その変化を見ながら討伐に参加するのは楽しい。
ここで信頼されたら名指しの仕事も増えるし、紹介状を持って別の自治体の仕事を請け負う事も出来る。
要するに冒険者という仕事で食っていけるのだ。
しかも、十歳でこの町にやって来た時から入れ知恵をしたり、時折イグナーツ達と依頼をこなしていった俺には優先的に高額で高レベルな依頼が来るので、イグナーツ、フィデリオ、イーゴンと一緒に組んで稼いでいるのだ。
魔物が跋扈しているこの世界で男が剣や武器を使えるのは当たり前だ。
その上でフィデリオは弓も使えるし、イーゴンは大斧を振り回す。俺とイグナーツは精霊術(アンド俺は魔導)を使えるので、本来は隊列を組んで受けるであろう依頼も平気でこの面子で受ける。
やけに攻撃に特化したパーティだが、フィデリオとイグナーツは人当たりがいいくせに排他的で、冒険者を仲間に入れる事を嫌がる。村の連中は俺らを遠巻きに避けて無難な仕事選ぶんだよなー。こいつらが濃いので仕方が無いか。
「ディルクも座ったらどうですか?」
俺が色々考えている間にイグナーツは予め選んでおいたらしい依頼書の束を、フィデリオは酒を持って来たようだ。店の女の子も慌ただしく食事を運んでくれているし、俺に気付いた顔見知りの冒険者達も親しげに寄ってきている。中には俺らが気に入らないらしく睨んでいる冒険者もいるがご愛嬌。
ここで食事をしながら依頼を皆で吟味するのもこの出稼ぎの醍醐味の一つだ。
さぁて。気持ちを切り替えて、出稼ぎ家業を頑張りましょうか。
俺は苦笑しながら椅子を引いた。
4・依頼
「もう魔道で火を放ったりしないで下さいね」
「……はい」
良い子のみんな!
雪山で火炎球を放ったら雪崩が起きるから、現実世界ではやったらダメだぞ☆
……ってか、ゲームでは弊害がないのが悔しい。俺みたいなバカがやる前に懇懇と説明して欲しいものだ。
「それともう『エルゼー!』とか『エルゼに会いたいー!』とか叫ぶなよ?」
「……はい」
良い子のみんな!
雪山で叫んだら雪崩が起きるから、現実世界ではやったらダメだぞ☆
しっかし、叫べないんだったらこの迸るパッションをどう昇華すればいいのやら。
そもそも俺は雪山に入った途端、何故怒られているのだろう?
こいつらは初日の失敗を何度も繰り返し言ってくる……が、実際に大惨事になったので俺はしおらしく謝る。
イグナーツとフィデリオはまだ言い足りないようだが、続く言葉を遮るかのようにイーゴンが声を上げた。
「お! 敵が来たぞ!」
救いの神とはこいつの事か?
雪山に似合わない暗黒色で、狐と熊を混ぜて倍にしたような外見と巨大な体躯の魔物だが、俺にはこのいたたまれなさから救ってくれる救いの神に見えた。
救いの神に向かって剣を構えたのはご愛嬌だ。
肩慣らしを意識して、俺は魔物に飛びかかった。
5・真冬
冬も深まり、パーネゼンが雪に閉ざされると、俺たちは大人しく町へ篭った。
出来る事と言えば町内での出稼ぎか、腹を空かせ過ぎて町を襲おうとした獣や魔物を暇と力を持て余した連中と集団でフクロにする事。そして、部屋で本を読んだりしてゴロゴロする事だけだった。
そう、大人しく……。
「だー! 何でこんな所でまったりとしなくちゃいけないんだよ! 時間があるなら村に帰りたいぞ! エルゼが俺を呼んでいる気がする!」
ここはイグナーツが用意してくれた一室。俺は暖炉の前を熊のようにウロウロしていたが、耐え切れなくなり叫んだ。
気分転換にと買い漁った本を全て読んでしまった。中には評判の本だったのに中身がどこかで見た事のある言葉達で飾られた、実際には実のない本もあり、それに切れてギルドに寄付したら喜ばれるという出来事もあったが今の俺にはどうでもいい話だ。
いい加減エルゼに会いたい! きっとエルゼも今頃は俺を想って泣いているだろう。
「気のせいだから。それに、こんな吹雪の中、城壁を出たら死ぬよ?」
呆れたように言うフィデリオ。これまたどうでもいい事だが、町を取り囲んでいる防壁でも『城壁』と呼ぶらしい事をここに来て初めて知った。
「今の俺だったら愛の力で行ける気がする!」
「止めて下さい。万が一ディルクが死んだらどうしたらいいんですか!!?」
「いや、普通に葬式を挙げてくれよ」
よよよと泣きマネをしながら言うイグナーツに素で答える。
「ディルクが死んだらさぁ……」俺らの間をフィデリオの冷たい声が割り込んでくる。
「エルゼ誰と結婚するんだろうね?」
奴の言葉に俺の目の前は一気に暗くなる。
そうだ。こんな場所で焦って死んでどうする? 今はどっしりと構えて輝かしい将来に備えなければいけないのだ。
「あー、分かったよ。大人しくしているよ!」
ドカッと椅子に座った俺に二人は出来の悪い子を見るような生暖かい笑顔を向けた。イーゴンは隣の部屋で爆睡中だ。
「お暇なのでしたら……、この町の案件で見て頂きたいものがあるのですが……」
どこからか書類を用意しながら、いそいそと言うイグナーツに乾いた笑いを返す。お前、用意していただろう?
諦めて書類を受け取ると、この時間になんとか来年から冬に篭らないで済む方法を考えることにした。
6・お土産
村に帰る日を指折り数えるようになった頃。俺たちは村の皆へのお土産を探しに町へ繰り出した。
エルゼへのお土産は冬の間、屋敷の外に出掛ける度に買っていたが、いいものがあるのならばまだ買いたい。
「なんだ、フィデリオ。アクセサリーなんか見て」
「女か?」
「もしやその道に目覚めたのでは?」
土産物を中心に扱う雑貨店で、珍しく女物のアクセサリーがある場所で止まっていたフィデリオに俺らの注目が集まる。
上から俺、イーゴン、イグナーツだ。
イグナーツよ。お前明らかに悪意あるだろ?
「僕の事よりディルクは家族にお土産を買わないの?」
俺らの好奇の視線もイグナーツの毒舌もなんのその、フィデリオはいつもの笑顔で俺に切り返した。
「ん? あいつら食い物で十分だろ? ……ってか、なんで『パーネゼン饅頭』とか『パーネゼンに行ってきました』とか無いんだろうな? こんなに出稼ぎが居たら絶対に売れるのに……」
「ディルク、その話を詳しく聞かせてもらっても?」
「さすが次期町長! 町おこしの匂いに敏感だな!」
パーネゼン土産を作ろうと話し始めた俺らを尻目に、フィデリオは店主の元へ先ほどのアクセサリーを持って行った。
去り行く時に俺らを見る目が苦戦した雪山よりも冷たかったのは気のせいか?
ちなみにイーゴンは今年の秋に婚約したばかりで、未来の恐妻……もとい愛する婚約者へのお土産をこれでもかと言うほど買っている。
あの哀愁たっぷりの背中は婚約ホヤホヤとは思えない。元ガキ大将が聞いて呆れるぞ。
「イーゴンは……生きろ!」
「うるせーよ!」
7・解散
雪もだいぶ溶け、パーネゼンを発つ日の早朝。俺は死屍類々と横たわる酔っぱらいを踏まないように気を付けながらギルドの外に出た。
外には旅支度を終えたフィデリオとイーゴン、そして何やら小袋を抱えたイグナーツが待っていた。
昨夜は出稼ぎを終えて故郷に帰るもの、それを見送る冒険者や町の人達が入り乱れて冬の終わりを祝う宴が繰り広げられた。
町民も外部の者もならず者も、城壁に囲まれた町に一冬篭るのでもちろん揉め事もある。だが、一緒に冬を乗り越えて行くうちに結ばれる絆もあるのだ。
俺は別れを惜しむ彼らと最後まで付き合っていたが、他の三人は折を見てとっとと切り上げた。最後まで居そうなイーゴンが大人しく帰っていったのはきっと婚約者が怖……いや、愛する婚約者に会いたいからだな!
村へ帰る第一陣は俺達のようだから、後から来る村人が道を通りやすいようにしておいてやろう。
「はい。これは軽食です。日持ちするものを選んでいますので途中で食べて下さい」
手に持っていた小袋を差し出すイグナーツに礼を言いながら受け取るとずっしりと重い。どうやら人数分あるようだ。
「一人で全部食べたらお腹を壊しますよ」
「しねーよ! お前は俺の母親か!」
正直言うと、イグナーツの事だから俺一人分だけとか用意してるんじゃないかと心配だったが、イグナーツはデキる子だ。安心した。
この時ばかりはフィデリオも笑顔でイグナーツにお礼と別れの言葉を言っている。
うんうん。お前ら、このまま仲良くなってくれ……と思ったが、握手をしている二人の手がやけに白いのは寒さのせいだけじゃないよな? おい!
俺は昨日のうちに用意していた荷物に、イグナーツのくれた小袋と、冒険者達からの貢物や顔見知りの町人やおばちゃんからの餞別を加えた。
「よし、そろそろ村に帰るか」その場にいる三人にパーネゼンでの日々の終わりを伝えた。
「日持ちするものは置いていっていいですよ。また近いうちに持っていきますから」
どうせイグナーツの事だ。それを理由にテオテル村に足を運ぶ気だろう。理由が無くてもちょくちょく来るだろうが……。俺は遠慮なくイグナーツの申し出に甘えた。
「またな!」
イグナーツが城壁の前で見守るなか、俺たちはパーネゼンを後にした。
8・帰宅
パーネゼンを発って数日。ヘトヘトになりながら帰ってきた俺たちを最初に迎えたのは村の子供達と、俺以外には見えない座敷童だった。
「おかえりなさーい!」
子供達が笑顔で駆け寄ってくる。座敷童よ。お前ナチュラルに混ざっているな。
勢い良く飛び付いてきた座敷童を受け止めながら、俺は子供達の頭を順番に撫でながら俺が聞くと、子供の一人が得意そうに答えた。
「雪が溶けてきたらねっ。ボク達、毎日山小屋の煙を探していたんだ。あれが見えたお兄ちゃん達が帰ってくるのが分かったんだよ! ねぇ、お父さんたちは?」
「他の村人はあと数日掛かるだろうな。なんたって俺達は飛ばして来たからさ」
俺達も居残り組の時はよく小屋の煙を探して親父達の帰りを待っていたな、と懐かしい気持ちになる。とうとう待たれる側へ来てしまったな。
やがて賑やかな声が聞こえたかと思うと、先触れに行ったのであろう子供が村人を引き連れながらこっちへ来た。おい、村人全員居るんじゃね?
「お帰りなさい! お兄ちゃん」
久しぶりに見た、妹のアティカが俺に向かって走ってきた。
「おう! ただいま妹よ!」
アティカを迎えるべき広げた……が、手は空しくスルーされた。
「……って、おい!」
「フィデリオもお帰りなさい」
「うん。……ただいま」
はみかみながら言うアティカといつもの数割増の笑顔を向けるフィデリオ。妹はいかにもついでのように言っているが、どうみてもついでは俺の方だな。お土産やらんぞ。
「ディルク!」
久々に見る村人たちの姿や、妹とフィデリオのやり取りをなんとはなしに見ていた俺の背後から、この冬に何度も幻聴として聴こえていた声が鼓膜に優しく響いた。
エルゼだ。
食事の支度をしていたのか、頬を真っ赤にしたエルゼがエプロンを着けたまま俺に微笑んでいた。
「エルゼ! ただいま」
いつもなら抱きしめようとしたら嫌がるエルゼもこの時ばかりは大人しく腕に収まる。
「お帰りなさい。ディルク」
この冬に何度も夢に見たエルゼが腕の中にいる事で、腕の中で微笑んでいる事で、やっと俺の長かった冬の出稼ぎが終わった事を感じた。
エルゼを抱きしめて、その香りを胸一杯吸い込みながら俺は誓う。
来年こそは、どんな手段を使っても毎日この村に帰ってみせる! と。




