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テオテル村物語  作者: 遊鳥
番外編
18/22

テオテル村の冬支度 ~ディルク十七歳~

テオテル村の長閑のどかな秋の一幕。



 テオテル村のあるラウニ山脈は冬になると雪に閉ざされる。

 冬の間、女や子供は村に篭って静かに春が来るのを待ち、男達は雪が降る前に町に降りて出稼ぎをするのだ。


 秋の収穫祭も終わり森の雰囲気が少しさみしげになる頃。冬が来る前のこの時期は村じゅうが冬の支度をする一大イベントがある。

 テオテル村は大人も子供も忙しく、どこかワクワクする活気に満ちている。


 この時期一番動きまわるのはもちろん俺ら自警団だ。

 団長である俺は今では村の命綱とも言えるロープウェイの点検、修復に当たっていた。

 副団長のイーゴンは村周辺の柵の強化、フィデリオは持ち前の料理の腕で冬の間でも持つ保存食を作りまくっている。

 自警団員は半分が薪割り部隊になるが、他にも俺らと一緒に行動するやつや、今のうちに直せるものは直してくれと村のじっちゃんばあちゃんに引き摺られているやつなどがいる。

 冬にトラブルがあっても雪が邪魔で対応しきれないので、ここは慎重に行かなくてはならない。


 ロープウェイの発着場に来たゴンドラを見て俺は呆れた。


 基本的に冬以外は用事が無い限りは村を出ない俺だ。

 もし俺が居ない間にエルゼに悪い虫が付いたらと思うと気が狂いそうになるからだ。

 うん、想像したらイライラしてきた。話を戻そう。

 だから気付かなかったのだ。ロープウェイの変化に!

 俺が提案したロープウェイのゴンドラの中には村人十人程度が座れるように長椅子を組み込んである。

 その長椅子は長時間座るものでもないのでむき出しの木で出来ていたが、久々に見たロープウェイの長椅子にはふかふかのクッションがついていた。

 見るからに綿をふんだんに使っているそれはどう考えても村人に用意出来る物では無い。

 明らかにパーネゼンの町長の息子・イグナーツの仕業だ。

 いつもヤツが座っている座席のクッションはご丁寧に背もたれまで付いている。


 ああ、これだからフィデリオの癇に障るんだよな。

 普段温厚なやつは怒らせると怖いんだ。

 もうちょっと自重してくれ。

 イグナーツは図太い性格をしているので特に気にしないのだろうがこっちが困る。

「あー、これはイグナーツに苦情だな」

 思わず漏らした俺の言葉に反応したのは俺より三つ上の平団員のボリスだ。

「でも、イグナーツさんのお陰で皆喜んでいますよ? それにこの長椅子の中の物入れには常に非常食が入っているようになったんですよ」

 ほぉらとクッションと長椅子の蓋をよけて見せるボリス。どうやらロープウェイを使う村人は皆知っているらしい。……俺以外。

「そんな事までやっているのかよ。あー、頭痛くなって来た」

 頼むから虫や動物を寄せ付けないようにしてくれよ。

 若干引きながらも俺たちはロープウェイのメンテナンスに取り掛かった。


「ディルクー! ちょっとこっちへ来てくれ!」

 暫く熱中しながらメンテナンスをしていると、森中の生き物が逃げるんじゃないかっていうほどのダミ声が響き渡った。実際鳥が逃げた羽音が聞こえた。イーゴンだ。

「おう! 今行く」ヤツのダミ声に応える俺。

 あらかた終わったので、後は他の人に任せてイーゴンに着いて行く。

 ついでに先ほど作業のついでに作った『あるもの』を布袋に入れて持って行こう。イーゴンが訝しげに見ていたので「秘密」とだけ答えておいた。


「形になってきたな」

 村を歩いていると自分の作業が終わった子供が大人に勢い良く次の指示を仰いでいるのを見て心が和んだ。

「ああ。これなら安心して町に下りる事が出来る」

 イーゴンも厳つい顔を綻ばせてその光景を見ている。はっきり言って不気味だ。

「よし! 町の出稼ぎ隊はイーゴンに任せるから、俺がお前らの居ない間の村を守ってやる!」

「何を言っている! お前去年も一昨年もそう言って引き摺られて行っただろ。フィデリオやアティカが怒るぞ」

 高らかに宣言する俺に向かって怒鳴るイーゴン。うん、このやり取りは三年目だな。


 アティカは俺の三つ下の妹で、今は十四歳だ。


 前世での俺は一人っ子だった。

 なので勝手に今生も一人っ子だと思っていたら妹が生まれた。

 母親の黒髪と父親の瑠璃みたいな目の色を合わせた俺の妹。

 俺は初めて見るしわくちゃで真っ赤で猿みたいな赤ん坊にビビった。

 人形みたいに小さい手にはご丁寧に爪まであるし、足なんてぷにぷにのくせにこれがきちんと立てるようになるのか不安になるくらい頼りなかった。


 こんなのが本当に大きくなるのか?


 恐る恐る手のひらを突いたら、思ったよりも強い力で俺の指を握ってきた。

 今思えば今生の家族と言うものを実感した最初の瞬間だった。


 今では母親譲りの黒髪が父親の髪質を継いで豊かに背中まで波打ち、瑠璃色の目はアーモンドみたいに釣り上がって、客観的に見てもなかなかの勝気美少女に成長した妹。

 この国風に言うと『夏の夜空色』ってやつだ。

 本人は母親から魔導を受け継いでいる事や俺ら兄弟以外あまりいない黒髪を気にしているようだが、村で『理想のお嫁さん』に挙げられているのを妹は知らない。

 だが、あんな小さな生き物が十数年で結婚するなんて心配だ。ちなみに一つ上のエルゼは俺が彼女の赤ん坊の頃の姿を知らないので問題無い。男って勝手だな。


 この世界は精霊という信仰の対象が堂々とその辺に浮いているので、どうやら元の世界よりも『加護』が形になって現れやすい。

 特に顕著に現れたものが寿命だ。

 この世界では中世だと思われる今の平均年齢も七十歳くらいだ。向こうだったら五十歳でも年寄りと言われていただろうに。

 従って成人年齢も十五くらいではなく、十七歳。結婚もそれ以降。

 日本の平安から江戸にくらいによく見られた合法ロリは存在しない。

 しかし、それに安心は出来ない。兄は妹を守らなければいけないのだ。


「アティカも大きくなったが、まだ子供だよなー。害虫駆除に手が抜けないよ」

 俺が情け容赦なくエルゼの害虫駆除をする事は村だけではなく町でも有名だが、最近になって妹のアティカの周りも騒がしくなってきたのでどちらも気が抜けない。

「……お前も馬鹿だよな」脳筋イーゴンに馬鹿にされるとは意外だ。

 そんな話をしていたら、果物入りの大きなカゴを持ったエルゼとアティカを見つけた。

 丁度いい、持ってきた『アレ』を渡そう。


「ディルク!」「お兄ちゃん!」

 俺に気付いた二人がにこにこと近づいて来るので片手を上げて答えた。

「さっき二人にいい物を作ったんだ。冬の間はこれを肌身離さず持っていてくれ」

「え? これは何?」

 俺がエルゼの手のひらにそっと『プレゼント』を渡すと、あからさまに引きつるエルゼの顔。

「ああ。これは釘バットだよ。エルゼに近寄る怪しいやつがいたら遠慮無くこれでぶちのめしてくれ」

 エルゼ達が怪我をしないように持ち手の部分は丁寧に布で巻いておいた。


「あとこれは……」俺はズボンのポケットからエルゼの拳大の石を二つ取り出してエルゼとアティカに見せる。石の表面には特殊な塗料で模様が書いてある。

「ラクシュ湖の石かしら?」

 不思議そうに石見るエルゼ。石を触ろうと手を動かしたので慌てて止める。

「ああ、待ってくれ。これには魔導を込めているんだ。雷の力を入れてみた。名付けて『テオテル村式スタンガン』これを敵の肌に当てて『雷よ』って言うと敵に雷が流れる仕組みになっている」

 俺が説明した途端にビクっと手を引っこめるエルゼが可愛い。

「大丈夫だよ。三日三晩気を失う程度で死にはしないから」

 安心させるように微笑んだ。イーゴンを含め、空気が凍っているのは何故だ?

「お兄ちゃん……」うつむいてふるふると震えているアティカ。

「あー、こっちがお前の分だから安心しろ」

「そういう問題じゃないでしょう!」

 腰に手を当て怒っている俺の妹。

 いきなり始まった妹のお説教を聞きながら俺は考える。


 ああ、冬が来るのが心配だ。

 雪山がなんだ。寒さがなんだ。

 意地でも俺は今年も毎日村へ、エルゼの元へ帰るぞ!




先ほど確認したらお気に入り登録が100件になっていました。

有難うございます!<(_ _)>


アンケートという程大げさではありませんが、もしお気に入りのキャラやもっと見たいキャラが居ましたら拍手でぽちっと教えて下さいませ。

名前のみや他の作品でもいいので……。

今後の参考にさせて頂きます。

どうぞ宜しくお願い致します。

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(2013/8/1 内容変更)

【ファンタジー・サーチ】

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