妖精息子3の1
王城内の見回りをしていた兵隊虫は、ウンジェリゴの草をいっぱいに載せた籠をかかえ運ぶその珍妙な見てくれの生きものを見とめて、声をかけた。
「――やあ、透膜つき」
「えっ?……あっ、ヘイタイムシさん。ごきげんよう」
『透膜つき』とあだ名された新入りの小間使いは、自らがかつぐ大きな草籠のわきから顔をのぞかせると、鼻にひっかけた透明な膜を器用に肩でずりあげて、こたえた。
(ぼっちゃまのお寝床用だな……それにしても、このもののすがたは何度見ても見慣れぬ)
兵隊虫は、その10個ある眼からあざけりとあわれみのまじった視線を新入りにそそぐ。
(このものはたった2個しかない目玉で、さらにこのぶかっこうな透明の膜を通さねばうまくものを見ることができないという。手肢も4本しか持たないし、勤めをするになんとも効率の悪い生きものだ)
手が2本しかないから、一度に一籠しか運ぶことができない。自分のように
(眼と同じく)10本の手肢を持っていれば、一度に何個も運ぶことができるのに。
(まあこのものは奥勤めになったのだから、極端な力仕事は求められないのだろうが……そういえば、このものの容姿はわれわれ下つ方より、むしろ上つ方のそれに近いな。
そのあたりも上の御目にかなったのやもしれぬ)
案外、高貴な生きものなのかもしれないと思いながら
「どうだ?ぼっちゃまのご加減は」
さらにたずねると
「ええ。お薬が効いたのか、ずいぶんよろしくおなりです」
ほがらかにこたえる。
兵隊虫は
「そうか……まさかおまえが持っていたのが、ぼっちゃまのお患いに効く薬だったとはなあ」
なんとも奇特なことがあるものだ。
実は、このかわった透膜つきを森で見つけ拾ったのは、警邏中だったこの兵隊虫である。
意識なく倒れているのを、めずらしく思って見回り小屋にかついできたのだが、そんなヘンテコ生物が意識を取りもどすと
「自分が何者でどこから来たのかもわからない」と言うのだから、まいった。
(つかいみちが無いではないか)
意思疎通する知性はあるが、見るからに身体も細く労働力としてはたよりない。このままでは、上つ方がお召しあそばす輿を引く甲虫たちの餌にでもするしかないかと(上役に報告および所持品の提出をしたものの)思案していた。
今は戦時なうえ、各地で天変地異が起きて物不足なので、どんなものでも粗末にはできない。