妖精息子2の28
「……なにこれ?」
佐和子は、いま自分たちが乗っているものにあきれていた。
それはなんというか、直径が3メートルはあろうかという巨大な一つの輪なのだ。その転がり走る輪のなかに三人、上下反転することもなく快適に乗りこんでいる。いったい、ベアリングはどうなっているのだろう?
「片輪車だよ。妖怪ふうに言ったら輪入道だけど、まあこれはあたしがつくった念体……式神の一種だね」
この奇妙な一輪車(?)は、天井が落ちて地の王子らが混乱しているあいだに、絵里が壁から造り出したものだ。
『罪科は 吾にこそあれ 小車の やるかたわかぬ 子をば隠しそ』
手を当てながら詠むと、壁の一部がごっそりぬけ出し生じた。
それに佐和子と顧問もろとも乗りこませると、疾走させたのだ。そしていまも移動を続けている。
「……もともとは輪入道に子をさらわれた母親が、子を返してくれと詠んだ歌なんだけど、あたしたちは、逆に片輪車をつくり出すのに使っている」
「でもこれ一輪で……」
佐和子の問いに
「そうだね、かわったデザインだね。『ビッグ・ローリー』っていう人もいる。むかし、こういうのりものが出てくるSFがあったんだって。
ふだんのあたしじゃ、とてもじゃないけど、こんな大規模な念体は生み出せないけど。 いまはエーテル全体が王子の力で活性化しているから、あたし程度の錬金テクニックでもこんなものが作れた……すごいわ!それこそ第一資料を扱っているみたい!あの王子がエーテルつかいだったのは、ある意味運が良かった。おかげで逃げることができる」
そこでことばを切ると、背後をふりかえって
「……とはいえ、なにせあの王子がふかく関わっている空間だから、じっとしていたら見つかる。『遣方分かぬ』設定だから、行き先はあたしにもわからないけど、こうやって移動し続けてるほうが見つかりにくいでしょうね」
そんなまったく意味不明な説明をつらねる少女は、佐和子にとって急に見知らぬ人になってしまったように思えた。
「絵里ちゃん。あなたいったい……?」
同級生のとまどい声に、美少女は
「わからない?******を息子にしてるくらいだから、多少は知ってると思ったけど。あたしはこの街の魔道家の人間だよ。ほんとは人前で術を使っちゃいけないんだけど、命が危なかったからね。さすがに、まだ死ぬのはいやだから」
(絵里ちゃんが魔道家!)