妖精息子2の27
「ひっ!」
少女たちは逃げ出そうとするが動けない。
見ると床からぬめった触手が出ていて、足首をつかんでいる。
「逃がさんよ」
「先生、たすけて!」
佐和子は思わず、その場にいた唯一のおとなにたすけを求めるが、
教諭は
「オー・マイ・ガー……」
B級映画のモブ・キャラのようなセリフを残して、昏倒した。
「先生、ダメです。溶けちゃいますよ!」
佐和子は教諭を支えるが、意識を失った人間は重い。
そのあいだにも王子は近づく。
「いただきま……」
たよりになる息子の気配はあまりに遠い。今度こそ、ほんとうに食べられてしまう恐怖に体も動かせずにいると
『ぬばたま!』
帛を裂く声とともに閃光があり、触手が引き裂かれた。
王子もたじろぐ。
佐和子と王子らのあいだに立つのは
「……えっ?絵里ちゃん?」
推したる同級生の少女だった。
うつくしき友人は
「……あーあ、せっかく今まで詠わずにすんでたのに。台無し」
その秀麗な眉を少しくひそめながら、つぶやく。
王子の後ろに立つ術師が
「ほう?『ぬばたま』……光をよびこむ枕詞だな。うたことばを呪詞につかうとは古風な……さては、七つの家いずれかの血筋か?なるほど雷の王子の精神侵食に耐えるとはレアだと思ったが、七名家のものなら当然か」
感心したようにつぶやく。
いっぽうそのあるじ……地の王子は、自分の意が妨げられたことに激昂して
「こしゃくな!おまえから食ってやる!」
とびかかるが、
それを優美にかわした少女は
『……くちなわを 手に持つおとめ 見るからに』
落ちた触手を手に取ると
『エデンの園の むかしおもおゆ』
投げつける。
すると、たちまちそれは蛇のすがたに転じて、王子たちにからまる。
「なんだ?エーテル体が!?まさか、きさま我輩のほどこした情報を書き換えたのか?」
「ええ。だからこんなマネもできる」
絵里はさらに壁に手を触れると、上を見て
『雲の峰』
そのことばに応じて、天井がぬめりと乳房雲のようにたわむ……と見えた次の瞬間
『いくつ崩れて 月の山』
とたんにスライム状になった天井が、地の王子と術師の頭上にくずれ落ちた。
「うっ」
「ちっ」
主従がそれらをどかし終えると、壁に大きな穴が空いており三人のすがたは消えていた。




