妖精息子2の26
……そうなのだ。
実は彼女は、佐和子に負けない熱狂的な絵里ファンなのだ。
それを教諭という立場上、生徒たちに気取られぬようひた隠しにしていたが、やはりもれ出すものがあるのであろうか。
初めて佐和子に会ったときに
「……先生って、もしかして絵里ちゃん推しですか?」
と、見抜かれてしまった。(絵里を見る目つきでわかった)
それ以来、ひそかな同好の士として大田原と佐和子のあいだには教員と生徒の関係を超えた奇妙な連帯感および対抗心がある。
(絵里は、そんなふたりの気持ちを知って、かるく引いている)
そして今
「そう思うでしょ?青柳さん!これは天啓よ!あたしたち絵里さま推しに与えられた至高のひとときなの!」
突如現れた異界存在に未知の空間に落とされた、しかもそこには推しとその理解者しかいないという異常な状況に、ふだん秘めている狂……いや情念が暴走しているらしい。絵里の「先生、おちついてください」の声もむなしいほどに興奮している。
そうやって女性陣が騒いでいると
「――まったく、姦しいな。コチラの文字で『女』を3つ書くのはうまく出来ている」
声がかかった。それは
「地の王子!」
自分たちをこの空間に落とした張本妖魔がその丸い体を宙に浮かべていた。後ろには術師のすがたがある。
「あなたたち、よくもあたしたちをこんなところに。そもそもここはどこ?」
佐和子の問いに
「ふむ。きみらにわかるようにはどう説明したら良いかな?我輩が手を加えたのは間違いないが……もとは、きみらのいた建造物……学園とか言ったか?そこの幽体やエーテル体からなる世界だ」
なにそれ?意味分かんない。
「だろうね。きみらの卑小な理解力ではわかり得まい。もともと我輩がこの空間をつくったのは、この学園に集うものたちのマナを刈り取るためだったのだよ。きみも含めて若くて良質なマナがまとめて手に入るからね」
それって、まったく雷の王子と同じ狙いじゃない!
「そうだよ。狙いを定めてこっそり用意していたのに、彼に先に動かれた。まったく、彼のものはつくづく我輩の邪魔をしてくれるね」
ため息をつくと
「しかし、まあうまく横取りはできた。術師の協力を得て作ったこの空間には、雷の王子も入ってくることはできない。このような細かい仕事は、きみのほうが上だな。よくやった」
「お褒めにあずかり恐れ入ります」
従者をたたえた王子は、少女らを見直すと
「雷の王子が選別した諸君らは、さだめて滋養があろう。せっかくだから、活きの良いうちに食したい。それで、我輩も彼奴に勝つだけの力を得る事ができるはずだ」
「なにをかってなことを……ひゃっ!?」
床がぬめっていると思ったら、靴の底が少しすべる。溶け出しているのだ。
「ここは我輩の空間だからね。きみらは我輩の胃袋にいるといっても過言じゃない。このまま溶けるまで待ってもよいが、やっぱり我輩も直にきみらを味わいたいね」
舌なめずりすると、昨日と同じく大口を開ける。




