妖精息子2の21
新たな王子は
「余は、決闘の中途で逃げた王子を追って、わざわざコチラまでおもむいてきたのだ」
傲慢な口調で言った。
逃げた王子って、もしかしてあのまるっこい……地の王子?
「そうよ。あの卑怯ものめ。手間を取らせおって。こんなうすよごれた穢土に余の足を運ばせるとは、万死に値する。早々とやつを見つけて引っ裂き、アチラにもどりたいところだが、その前に腹が減った。
アチラとちがって魔素にとぼしいコチラに来ると、余らはどうも腹が減る。かといって、この高貴な余がコチラモノを一匹ずつ取って食らうなど品がないし面倒だ。ならばコチラモノをつかってコチラモノを釣ればよかろうと考えてな。そこいらで適当に見つけた魔術師を支配した」
「へへへへへッ」
金髪モヒカンの目もとろんとしている。正気ではなかったのか。
「こやつはなかなかおもしろい仕掛けを持っておったのでな。利用することにした。おかげで、多量のコチラモノを一度に釣ることができた」
「集団催眠か?」
ぷーすけの問いに
「ああ……こうして束にしておいたほうが、選別作業がやりやすいのでな」
そう言うと、金髪の王子は手をふるう。
それと同時に
「あ痛っ!」
ピリッとした衝撃が佐和子を襲う。
そして、講堂に立っていた数百人からなる群衆がいっせいに倒れた。
立って残っているものは、佐和子や直実、ぷーすけとちくわ以外ではほんの数名だ。
そのなかには絵里もいた。
「――えっ?あれ?」
しかも意識を取り戻したようだ。
王子はわらって
「いま余が放った衝撃に抗って立てる個体は、そこそこのマナを含有しているものたちだ。それぐらいでないと余が口にする資格があるまい」
なに?選別って、自分が食べるにふさわしい素材かどうかふるい落としたってこと?
ぷーすけが
「一瞬だが、かなり強力な電場を発生させたな。生徒らの神経系……電気信号を乱した。……そうか、きみの支配領域は『電気』か。振り子が動き続けていたのもそれか?」
「そういうことだ。……ふむ、残ったのはそれだけか。とりあえずマナを吸い上げてやろう。余の栄養となることを名誉に思え」
「そんな!お前の栄養になんかなってたまるか!」
かろうじて立ち続けている数人……そのうちのひとりである来島真吾が、声を上げた。
(やっぱり兄妹そろってスター・キャラ!こんな場面でちゃんと残っているなんて……)
「みんなをもとにもどせ!」
勇気あることばを異界からの闖入者に飛ばす。
そんな少年に
「うるさい、だまれ」
電気を支配する……いわば雷の王子が指で弾くと
「……うっ?うぅっ!」
真吾は息苦しげに喘ぎだす。まるで過呼吸のようだ。
「余にとって、おまえたちのような神経伝達を電気でおこなう生物の動きを乱すなどたやすい。意思にさからった動きをとらせるなど、児戯のたぐいだ」
「やめて!」
絵里がさけぶ。