ギロチン
飛来したのは、光の刃だけではない……。
――炎が!
――氷が!
――風が!
――土塊が!
――雷が!
それぞれ分厚く鋭い刃の形を取って、次から次へと打ち放たれてくるのである!
しかも、それはいずれもが……狙いあやまたずクビカリトカゲへと直撃していくのだ!
射手の姿は遠く見えないというのに、なんという――正確無比な攻撃!
「――――――――――ッ!?」
まるで、金属同士をこすり合わせたかのような……。
不快極まりない悲鳴を、クビカリトカゲ共が上げていく。
一連の摩訶不思議な斬撃は果たして、トカゲ共が備えた鱗を切り裂くまでは至らなかった。
しかし、猛烈な速度で飛来したそれは確実に鱗の下へ鈍い痛みを与えており、しかも、風と土塊以外の攻撃は火傷や、感電による痙攣を与えていたのである!
とりわけ効いているのが、氷による斬撃であろう……。
それが命中すると、飛弾箇所の周囲がパキパキという音と共に氷へ覆われていく……。
トカゲ共はこれによりもたらされる凍傷がことのほかこたえるらしく、これを受けた個体は明らかに動きがにぶっていた。
「これは――魔術!?」
「……多分」
父親が魔術師であるためだろう……。
ウルズとヘルテがいち早く攻撃の正体へ気づき、驚きの声を上げる。
「でもーそんなの使える人なんてー」
アラダが、同時に想起された事実を口にする。
「お兄ちゃんだ! お兄ちゃんが戻ってきたんだ!」
このスを見逃さず、三匹もの喉元を短剣で切り裂いたロナが喜びの声を上げた。
「――ランス!」
最後に、窮地を救われたリタが同じく前方のトカゲ共になぎ払いをくれてやりながら、そちらを見やる。
果たして、無数の攻撃魔術が飛来した先……。
そこから風をまとい、猛烈な速度で飛翔してくる人物は――戦女神により夫と定められた人物だったのである。
「どうやら……間に合ったようだな!」
手近な枝に着地したランスが、そう叫んだ。
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「でぇい……やっ!」
着地したランスが、間髪入れずに無数の手刀を繰り出す!
すると……おお……放たれた手刀の先から、先ほどと同様、種々様々な刃が生み出され放たれていくではないか!?
これを受けては、たまったものではない。
クビカリトカゲ共は、たちまち追い立てられ、優位に展開していたはずの陣形を崩されたのである。
さらった時には、当て身の一撃で昏倒したこの男……。
――ここまで強かったのか!?
その事実に、アマゾネスの少女たちは驚愕する。
しかし、どうやら当の本人はこの結果に不満のようであった。
「チッ……!
俺のギロチン魔術で切断できないとは、こいつらも相当強いということか……!
――うんざりするぜ!」
そう吐き捨てながらも、魔術を繰り出す手は決して止まらぬ。
連射する内に、弱点を見抜いたのだろう……。
氷の刃で統一されたギロチン魔術とやらは、リタたちの動きは阻害せず、トカゲ共にだけ効果的な攻撃を与え続けていたのである。
おかげで、こちらも立て直す時間ができた。
「――ランス! どうして戻ってきたんダ!?」
真っ先に近くの枝へ跳び移ったリタが、そう叫ぶ。
その言葉へ答えたのは、ランスではなく……。
「――キキッ!」
自身が肩に乗せた盗っ人猿――レオであった。
「レオに、危機を伝えられたのさ!」
一旦、攻撃の手を止めたランスがこちらを見やる。
颯爽と駆けつけ、窮地を救ってくれたその姿はあまりに、たのもしく……凛々しく……。
リタはそれを正視できず、思わず目を逸らしてしまった。
「……ふん! まあ、助けられたことには礼を言ってあげるわ!」
「ランス様……!
やはり……あなた様こそ……運命の旦那様です……!」
異母姉妹らしく、仲良く同じ枝に着地したウルズとヘルテが、しかし、それぞれ正反対な態度と言葉でそう迎える。
「お兄ちゃん! お帰り!」
「うわっとと!?
……危ないぞ。俺は枝に乗るの、慣れてないんだから」
猛烈な勢いで抱きついてきたロナを、ランスがどうにか受け止めなでてやった。
「でもーいいのー?
戻ってきたってことはー?」
見事な身のこなしで近くの枝へ着地したが、やはり防戦の疲労が大きいのだろう……。
髪をはらって汗を飛ばしながら、アラダがそう尋ねる。
「ああ……」
固唾を飲みながら……。
少女たちは、続く言葉を待つ。
何しろ、最年長のアラダでさえ二十を超えていないのだ。
自分たちより、一回りは上の年齢であろうランスが、これまでの生活を捨てここへ舞い戻るまでにどれほど懊悩したのか……想像することさえかなわぬ。
しかし、ランスは、そのようなそぶりを一切見せず、キッパリと言い切ってみせたのだ。
「君たちの夫となり、共に生きる……。
そいつもまた、一つの冒険であり、人生だと思ったの――さ!」
言い終えると同時に、またも鋭い手刀!
ロナの頭越しに放たれたそれからは、氷の刃が射出され……迂闊にも跳びかかろうとしていたトカゲの鼻先へ直撃する!
「――――――――――ッ!?」
ただでさえ敏感な鼻孔に、苦手としているだろう冷気を帯びた刃を受けたのだ。
どうやらたまったものではないらしく、そやつは不快な音域の悲鳴を上げた。
「さて……どうやら、のんびり話している暇はないようだな」
それが、ランスという――魔術師にとっての構えなのだろう。
軽く開いた両手で距離を測りながら、ランスが……シェア氏族の夫となることを選んだ男が眼前の敵を見やった。
抱きついていたロナも離れ、少女たち全員が油断なく得物を構える。
「――――――――――ッ!」
「――――――――――ッ!」
突如として現れた、想定外の敵……。
その事実にうろたえ、陣形を乱していたクビカリトカゲ共は、再びそれを整えこちらに吠えかかっていたのである。
だが、金属同士をこすり合わせたようなその鳴き声を聞いて、まったく恐怖心が湧いてこぬ……。
逆に、少女たちの中心にランスがいることを思うと、無限の勇気が湧いてくるのだ。
戦女神の祝福を受けしアマゾネスたちと、龍神の怨念を受けし魔物たち……。
両者の間に存在する空気は、徐々に徐々に緊張を増し……今にも弾け飛びそうな様相を呈している。
それが破裂する前に、ふと、軽口をついてみたくなった。
「なあ、ランス?」
「なんだ?」
「……大好きダ!」
「そうか。俺の方はそうでもないぞ?」
その言葉に、思わず樹上から滑り落ちそうになってしまう。
だが、一夜を共にし夫と見定めた男は、ニヤリと笑いながらこう続けたのだ。
「せいぜい、この戦いで俺を惚れさせてくれ、嫁御殿?」
「……っ!?
…………………………っ!?」
その言葉に、耳元まで真っ赤になってしまったことを自覚する。
これはもう、ただ勇気や戦意が湧いてくるだけではない。
まるで、喉の内側から爪を立てられているような……。
なにやらもう、どうにも自制や抑制の効かない感情が、次から次へと溢れ出してくるのだ。
「――キキッ!」
肩へ乗せたレオが、あきれたような鳴き声を漏らす。
「――くるぞっ!」
その瞬間、ついに緊張していた空気が爆発し……。
クビカリトカゲ共が、雄叫びを上げながら跳びかかってきた。




