帰路
「ひっつじー! ひっつじー!
ひつじのお肉~!」
最も幼い身でありながら、最も多くの荷物を背負い、しかもそれを苦と感じず鼻歌を歌う……。
そんなロナの姿へ、リタは頼もしさと一種の敬意を抱きながら、共に枝から枝へと跳躍していた。
二人からやや遅れて、ウルズとヘルテも追従しており……。
四人の背には、解体し血抜き処理を施したコクデンヒツジの肉と各種素材が背負われていた。
ここしばらくの狩りでは、最大の成果である。
コクデンヒツジは肉の味もさることながら、その角も骨もヒヅメも……一切捨てる所がない優秀な獲物だ。
それらをアマゾネス伝統の技術で加工すれば、今も身に着けている優秀な装飾品へと生まれ変わるのである。
リタたちの身を強力に守ってくれている装飾品の数々であるが、人が生み出した品である以上、いつか壊れる定めからは逃れられない。
その時のため、素材の在庫を確保しておけるのは大きかった。
「レオ、お前はそれが気に入ったのカ?」
「――キキッ!」
たった一日の狩りでずいぶん仲良くなれた気がする、ランスの使い魔――盗っ人猿のレオへと声をかける。
オスだと思って名付けた彼女が今いるのは、リタが背負った革袋の中であり……そこに詰められているのはコクデンヒツジの羊毛であった。
「さすがは盗っ人猿……お前は目ざといナ。
そうダ。そいつが、今回一番のお宝ダ」
革袋から出てきたレオの頭をなでてやりながら、そう教えてやる。
「それを服にするとね! すっごく着心地が良くて頑丈で、雷が全然効かない服ができるんだよ!」
リタと同じく、レオのことが気に入っているのだろう。
ロナが得意げに、レオへと話しかける。
新しく結成されたシェアの氏族において、最も幼いロナのことだ。
もしかしたならば、妹ができた気分なのかもしれない。
「でもでも、きちんと力を引き出すには、難しい縫い方をしないといけないんだっけ?」
「それなら、ワタシに任せロ!
アマゾネスで最も古きログ氏族の出身として、立派な服に仕立ててやるゾ!」
アラダのそれに比べれば大きく見劣りするとはいえ、この四人では最も発育の良い胸を張りながらそう宣言した。
ログ氏族は全アマゾネス氏族の源流と言える一族であり、古来よりの伝統的な戦い方や装飾品の作り方に秀でている……。
若年ながらそこで一番の戦士だったリタは、同時に、ログ氏族内でも一、二を争う優秀な職人でもあるのだ。
「そんで、その服は誰が着るのー?」
背負っている荷物が重いのだろう……。
やや疲れた声音で、ウルズがそう尋ねてくる。
剣閃の鋭さには一目置ける彼女だが、同じく前衛を張るリタとロナに比べれば、純粋な筋力で劣るのが難点であろう。
まあ、リタはともかくロナは規格外なので、比べるべきではないのだが……。
「やっぱり……ここはランス様のために服を仕立てるのが……いいと思うな……」
静かな……しかし、はっきりとした主張を込めた声でヘルテがそう提案する。
「そうだナ! きっと、女神様もそうするために、コクデンヒツジへ導いてくれたんだろウ!」
続く言葉を予想して、にやりと笑いながらそれを奪ってやった。
「うん……きっとそう……」
ヘルテは薄く笑みを浮かべ、両手を組んで短い祈りを天に捧げる。
いかにも、巫女らしい仕草であった。
「とにかく急ごウ! 途中で水浴びもしたし、ちょっと遅くなってしまったからナ!」
ここへ来るまでの間……。
リタたち一行は支流の一つに寄り、汗と返り血を洗い清めていた。
その際、「あいつと視覚を共有できるんでしょ!?」と言ったウルズが、レオに目隠しをしたのはちょっとした余談である。
そんなことをせずとも、どうせウルズも近々抱かれることになるのだが……。
「でも、お前がいるんだからもうすぐ着くことは伝わっているのカ?」
「――キ!」
レオに尋ねてみると、人間がそうするように額へ手刀を当ててみせる。
どうやらこれは、外の世界における敬礼のようだ。
となると、ランスがレオを通じて同意の意を示しているのだろう。
「伝わっているのカ!? そうカ!
便利な術だナ! これハ!」
レオの頭をなでながら、感嘆の言葉を漏らす。
「こんな術を使えるとは、さすがランス!
さすがは、ワタシたちの夫ダ!」
「……あたしはごめんだけどね」
ウルズのつぶやきには、聞こえないふりをすることにした。




