アマゾネスの食糧事情
シェアの集落……と、少女たちが勝手に名付けてしまったこの場所には、合計八棟のわらぶき小屋が存在する。
うち、六棟は俺を含めた住民たちの住居。
やや作りが異なる残り二棟の片割れは、さきほど薪を運び込んだ資材小屋であり……。
残るもう一棟は、食料を保存する食糧庫であった。
「驚いた……。
君たちの食文化は、なかなか豊かなんだな」
アラダに案内されてそこへ足を踏み入れた俺は、正直な感想を述べる。
保管されているのは、小麦や今朝出された少量の米、大豆、干したニンニクと玉ねぎに、酢漬けのからし菜……。
米を除けば、アラダが畑で育てた作物である。
畑から得られる恵みの他にも、狩りや釣りの成果だろう干し肉や干し魚なども、それなりの量が保管されていた。
調味料として存在するのは、海都産だろう塩と魚醤に、出自不明のぶどう酢と、原材料不明の植物油……あとはからし菜の種をすり潰せば練りからしが作れるな。
ハッキリ言って、これはかなり意外なラインナップだ。
アマゾネスがゾマーノを行き交う交易船との物々交換で塩や魚醤を得ていることは知っていたが、酢に油にからしまで存在するとは……。
俺の中に存在するアマゾネスのイメージとは、レオを通じて見たように魔物を狩猟し、それに塩を振って焼いて食べてるだけのようなものだった。
だが、実際には畑作もし、そこからなかなかの実りを得ている……。
冒険者としてそれなりの年月を過ごしてきた俺であるが、あらためて、先入観というものの愚かしさを思い知らされるな。
「コウの氏族はー数ある氏族の中でも畑仕事に秀でた氏族だからねー」
えへんと、豊かな胸を張りながらそう言うアラダだ。
確か、コウというのは彼女の出身氏族だったな。
それが畑仕事に秀でているということは、どうやら同じアマゾネスでも、氏族ごとに暮らしぶりや得意分野の違いが存在するということだろうか。
そう言えば、リタだけは共通語の発音がどこかたどたどしかったりするしな。
これもまた、実際にアマゾネスと接触して得られた知見ということだろう。
「それでー今夜はどんなのを作るのー?
お米ならまだあるけどー?」
「いや、米は使わない」
米の入った麻袋を揺すり、中身の量を確認するアラダを手で制する。
「君たちも、食べ慣れないものばかり食べたくはないだろう?
小麦はなかなかの量を収穫しているようだが、普段はどのようにして食べてるんだ?」
「小麦粉を水と塩で練ってー鉄板で焼いてパンにしてるよー?」
「種なしパンか。いいね。
なら、米を焚くのではなくそれを焼こう」
――種なしパン。
名前通り、パン種を混ぜずに焼くパンだ。
冒険者生活をしていると、どうしても鉄片みたいに固いパンの世話にならざるを得ないことが多く……仲間たちの不満を和らげるために、俺もよく作る品である。
パン種っていうのはなかなか仕込むのが大変だし、仕込んだところで、いちいち魔術でパンがまを作るのも面倒だ。
が、この方法なら、材料と簡単な道具さえあれば、気軽に作れるのである。
「ならーパンを焼くとしてー。
コクデンヒツジはどうするのー?」
「パンが馴染み深い分、そちらの方は少し工夫するか……。
普段は、どうやって食べてるんだ?」
「焼いたり煮たりしてー塩とか魚醤とかをかけて食べるよー。
刻んだニンニクやーカラシを合わせることも多いねー」
「ふむ……なら、ここにある玉ねぎとニンニクと……さっき収穫したからし菜を使わせてくれるか?」
瞬時に今夜のレシピを決めた俺は、食材の使用許可を求めた。
「旦那さんの頼みならー一番いいのを選ぶよー」
「それと、塩はもちろんとして、魚醤と……油を大目に使わせてくれ」
「旦那さんが使いたいならーもちろんいいよー」
「よし、決まりだ」
ほいほい俺の提案を受け入れてくれる従順さに、ちょっと恐怖を覚えつつ……。
料理の完成形を思い描きながら、両手を打つ。
俺の作戦を成功させるため……。
せいぜい、美味い飯を作って機嫌を取ることにしよう。




