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活路

「旦那さんー? どうかしたのー?」


 使い魔と五感を共有している間、俺本体が意識を失うということはない。

 ない、が……どうしても気がそぞろになるのは、どれだけ熟達してもぬぐえぬこの術の欠点であった。


 (たきぎ)集めという単調な作業であっても、いや、単調な作業だからこそか?

 ともかく、俺の作業効率が低下してることに気づいたらしいアラダがそう声をかけてくる。


「いや、レオを通じて向こうの様子を見ていたんだ」


 五感を共有可能な件に関しては事前に伝えてあることだし、特に隠す必要もない。

 俺はレオとの感覚共有を解除し、そう告げた。


「ああー朝言ってたアレだねー?

 魔術ってー便利なものなんだねー。

 それでー向こうはどんな感じー?」


「ちょうど今、大物を仕留めたところだ。

 こう……俺は名前を知らないんだが、黒くてでかい羊の魔物で雷を操る……」


 妙に間延びした、独特の口調で話すアラダに、俺は身振り手振りを交えながら今しがた見た魔物の特徴を説明する。


「ああーコクデンヒツジだねー。

 滅多にない大物だよー?

 これはヘルテちゃんならー女神様のおぼしめしだっ言うだろうねー」


「実際、そんな感じのことを言っていたぞ」


 肯定する俺の言葉に、アラダがフフッと笑った。

 そんな風に他愛ない会話をかわしながら、あらためて検討する。


 ――果たして、力づくでここから逃げ出すことは可能か否か?


 ……答えは当然ながら、否だ。

 何しろ、俺の戦闘力はたったの一ランス。ゴミである。

 とてもじゃないが、このアマゾネスたちに通用するとは思えなかった。

 そもそも、不意を打たれたとはいえ通用しなかったから、こうしてここにいるわけだしな。


 ならば――自決するか?


 だがそれは、最後の手段だ。というか、最期の手段だ。

 俺とて死なずに済むならばそうしたいわけで、今はまだ他の手を試してみたいと思っている。


 そう……他の手だ。

 成功する確率は、そう高くはない。

 だが、俺は彼女らの狩りを観察し、(たきぎ)集めを手伝いながら、ある手段を思いついていたのである。


 そのために必要なのは……彼女らから好感を得ること。

 当初の考えとは異なってくるが、これもまた、情報を得た上での方針転換だ。

 何しろ、ヘルテ辺りは俺が最低の男として振る舞おうとも、女神の意思として受け入れてしまいそうなところがあるからな。

 ならば逆に、好感を得た上での策を模索したわけである。


「それほどの大物ならば、俺も腕によりをかけないとな」


「おおーやる気ですなー?」


 最高のランススマイルを決める俺に、アラダがゆったりとそう答えた。


「私もーもちろん手伝うよー?

 それじゃあー今日は帰ってご飯の用意をしよっかー?」


「ああ! そうしよう!」


 力強く返事をし……。

 俺は(たきぎ)が満載となった背負子(しょいこ)をかつぐアラダと共に、集落へ戻るのであった。




--




「意外だな……。

 俺はてっきり、誰かの家へ寝泊まりさせられるのかと思ったぞ?」


 集落に戻り、資材や共用の備品置き場となっている小屋に(たきぎ)を置いた後……。

 「旦那さんの家」として案内された小屋の中へ入りながら、俺は驚きの言葉を放った。


「旦那さんはーみんなのものだけどー。

 だからこそー自分だけの時間を作れる場所は重要なんだよー?

 私たちはー全員が家族でー夫婦だけどー……。

 その辺はーお互いを尊重しないとねー」


 室内を見回す俺に、アラダがおっとりとした声でそう告げる。


「アマゾネス流の、円満に暮らす秘訣ってわけか……」


 おそらくは、長い歴史での経験則から生まれた習慣なのだろうな。

 何しろ、普通の夫婦だって個々に過ごす時間や空間は大切なのだ。

 超一夫多妻生活を送るアマゾネスらの場合、そこら辺に由来するトラブルも多かったのであろう。


「それでーどんな料理を作るのー?」」


 アラダは、俺がずらりと並べた調理道具を見やりながらそう尋ねてくる。

 これらは、今朝方……強制的に止まらされたリタの家からここへ運び込んできた俺の荷物だ。


 使い込み、育て上げたスキレットや大鍋に、用途別の各種包丁などなど……。

 元は平凡な品なれど、俺にとっては手放しがたい宝であり、共に冒険者生活を乗り越えてきた仲間たちである。


 ふと、疑問が口をついて出た。


「ところで、装備はともかくこの荷物は船室にあったはずなんだが……どうしてここにあるんだ?」


「ああー旦那さんはー気絶してたもんねー」


 その言葉に、苦い顔をしてしまわぬよう必死にこらえる俺だ。


「その後ー旦那さんの荷物を出せってお願いしたんだよー。

 旦那さんの仲間たちーすごい早さで持ってきてくれてたなー」


「そうか……。

 ちなみに、仲間たちはどうなったんだ?

 ……負傷させたか?」


「ううんーみんなすごく素直に旦那さんを明け渡してくれたなー。

 そうそうー伝言があるよー。

 『お幸せに!』だってー」


 そうかそうか、なるほどなるほど。

 いやまあ、リタたちの実力を見るに取り戻そうとしたってかなうはずもないのだが……。

 すごく素直に俺を明け渡しちゃったかー。

 ……やはり、なんとしても帰らないとな。


 ――奴らをぶん殴るために!

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