アマゾネスのお仕事(狩人側編) 後編
その後も、出るわ出るわ……。
俺の知識にない、しかし、脅威の高さだけはうかがえる魔物のオンパレードである。
自ら動き他の生物を捕食する樹木といえば、トレントの一種に違いないが……ただ動くだけでなく、その身を肉食獣の形へと変じさせるのは何事だろうか……?
木の葉をタテガミにした木製獅子と呼ぶべき姿から繰り出される動きも攻撃も、尋常ではない速さである。
英雄種のゴブリンすらたやすく切り裂いていたウルズの刃が通らぬ難敵であったが、リタの槍とロナの大剣にはかなわず倒された。
採点するならば、七ランスといったところか……?
これまでは自らの肉体や武器を使う魔物ばかりであったが、中には魔術を扱う種族も存在していた。
上空から強襲をしかけてきた、奇怪な鳥がそうである。
ハゲワシのような頭部とたくましい翼を備え、鳥類というよりは爬虫類のように大型の尾を伸ばしている代わり、脚というものを持たぬ魔物だ。
そんな動きをしてどう滞空しているのか……四足獣の前脚がごとく巧みに両の翼を動かすと、なんとも言えぬトロンとした顔で前衛三人がその動きをにぶらせたのである。
――眠りの魔術!?
しかも、リタたちの魔具による防護を突破する、なかなかの強度を誇る術だ!
これに対処したのはヘルテで、彼女が素早く両手で印を切り祈りを捧げるとリタたちの眠気は解消された。
俺が出会ってきたどの神官よりも素早く、強力な奇跡の行使である。
形勢不利と見た鳥は上空に逃れようとしたが、それ以上の速度で跳躍したウルズに翼を切断され、最後はリタの槍で田楽刺しとなった。
ううむ、魔術の質だけならさすがに俺が上だろうが……飛翔速度やその他もろもろの総合力でかんがみて八ランスを進呈したい。
どうやら食用には適さないらしい魔鳥の死体を放置し、一行はさらに森の奥地へと進む。
そこに……本日最強の魔物が存在した。
見た目を端的に表現するならば、それは、
――漆黒の毛で覆われた大羊。
……と、いうことになるだろう。
当然、このように強力な魔物が跋扈する中、群れも作らず単独でうろつくこいつが尋常な羊であるはずもない。
まず、その体躯ときたら……!
全長にして三メートル以上はあろうかという巨体からして、一般的な羊とかけ離れた生物であることが分かる。
そしてその、漆黒の体毛……。
ふわりとした質感こそ羊毛のそれであるが、普通の羊毛はバチバチと目に見えるほどの帯電を巻き起こしたりはしない。
しかもそれは、いかなる手段を使ってか頭部の角に収束されているようであり……。
やはりこれもたくましく太い二本角の間では、リタたちの襲撃を迎え撃つべく稲光がほとばしっていた。
そう……こいつは、リタたちが己を狙い樹上から襲いかかってくることを明らかに予期していたのである。
樹から樹へと渡りつつ、葉を揺らすことも音を立てることもしないリタたちの隠形術は完璧のひと言であり、これを察知したことは勘働きの良さだけでは説明しきれない。
おそらくは、俺が使い魔を探る時のような警戒網を張り巡らせているのだ。
もしかしたら……羊毛の帯電現象が関わっているのか?
俺が推察してる間にも、激しい戦いが繰り広げられる。
俺も雷の魔術は扱えるが、精度と応用性はともかく、単純な威力に関しては明らかにこの羊が勝っていた。
リタたちの攻撃に合わせ、全身の毛を激しく帯電させ、あるいは角から収束し撃ち放つ……。
これではうかつに攻撃を当てられぬし、そもそも収束された雷撃を縫って近づくのも至難の業だ。
だが、いかなる防御も攻撃も呼気というものが必要不可欠。
防御と攻撃の合間に存在するスキを見逃さず、アマゾネスたちは果敢に攻めかかる。
ウルズの剣とヘルテの矢は体毛に阻まれたが、残る二人の攻撃は別だ。
リタの槍が深々と突き刺さっては、大羊が血をまき散らし怒号を上げる。
ロナは大剣の取り回しが悪いことから、なかなか防御のスキを縫えずにいたが……粘り強く間合いを維持し続けることで、ついに渾身の一撃を与えるスキが発生した。
――斬!
その一撃は、やはり強力無比!
ウルズの剣を一切通さぬほど強靭な体毛に覆われた首は、ただの一太刀で泣き別れとなったのである。
強い……実に強い魔物だった。
不意打ちを許さぬ探知能力といい、羊毛の防刃能力といい、攻防で放つ強力な雷撃といい……。
戦闘力にして、十ランス以上は確実だろう。
それが証拠に、さしものアマゾネスたちといえど全くの無傷で狩猟は終えられず……。
全員が、軽微な火傷をそこかしこに負っていた。
魔具による防護効果がなければ、被害はさらに大きかったことであろう。
「みんな……治すからじっとしててね……」
魔鳥の魔術を打ち消した時と同様、ヘルテが素早く印を切り祈りを捧げる……。
それは天上におわす――おそらくは戦女神へと届き、少女たちの火傷は時間を巻き戻したかのように消え去った。
やはり、ヘルテの奇跡は強力だ……。
もし彼女が冒険者であったならば、海都のギルドでは引っ張りだこだったことだろう。
「久しぶりに、上物が仕留められたナ!」
傷の治りを確かめるようにヒュンと槍を振るいながら、リタが大羊の死体を眺める。
「今日はお兄ちゃんに、美味しい羊料理をたくさん作ってもらえるね!」
ロナはといえば、大剣を地面に突き刺し、さっそく解体作業へと取りかかり始めていた。
幼いながらも、さすがはアマゾネス……見事な手際である。
「このような獲物に巡り合えたのは……女神様がランス様を……祝福して下さっているから……だね」
奇跡の行使とは別口の祈りをヘルテが捧げる傍らで、じっとしゃがみ込みながら愛剣の刃を確かめているのがウルズだ。
見たところ、ノコギリ状に並べられている牙に欠損などはないようだが……?
その眉はひそめられ、何やら考え込んでいるようである。
「ウルズ、どうかしたのカ?」
「……別に、なんともないわよ」
ウルズはぶっきらぼうにそう答えると、抜き身の剣を腰に装着したのであった。




