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アマゾネスのお仕事(狩人側編) 中編

 極上の装備に身を固めた少女たちが目指しているのは、どうやらゾマーノ川の主流とは反対側……すなわち、ネクシム大森林地帯の奥地だ。


 ゾマーノ川における運びの仕事は非常に安全……というのは、すでに語った通りであるが、これにはある但し書きがつく。


 ――主流さえ離れなければ。


 ……というものである。

 ひとたび主流付近から離れ、森林地帯の奥地を目指したのならば、ネクシムの魔物たちはその人間にたちまち牙をむく。


 このように言えば、こう反論する者もいるだろう。

 人里離れた場所に生息する魔物が、入り込んだ人間を襲うなど当然のことではないか? と。

 そう、魔物が人を襲うのはごく当然のことであり、それは珍しい出来事ではない。

 だが、ネクシム大森林地帯に生息する魔物たちは他とはモノが違うのである。


 盗っ人猿などはかわいいものだ。何しろ、こいつらは主流付近でも見かけることが可能な……アマゾネスたちに、脅威とみなされていない魔物なのだから。

 先にも語った通り、アマゾネスは商路となっているゾマーノ川主流付近の危険な魔物を根絶することで、王国から特権的地位を得てきた。

 それはすなわち、主流を離れれば盗っ人猿ごときとは比べ物にならない危険な魔物が徘徊していることを意味しているのだ。


 例えば、今、リタが仕留めた狼……。

 名は知らぬ魔物だが、あえて名付けるならば……樹渡り狼といったところか?

 おそらく、肉球にヤモリのような能力が備わっているのだろう……こいつは、樹から樹へと巧みに飛び移り、先鋒を務めるリタに襲いかかった。


 ――速い!


 樹から樹へと渡り歩いての動きであるというのに、その速度は地上を疾走する狼のそれといささかも変わらぬ。

 だが、その爪を牙を、リタは最小限の動きで回避せしめた。

 彼女自身も不安定な樹木の枝を足場としていたのに、そうとは感じられぬ巧みな足さばきである。


 そして、攻撃が空振りに終わり交差した狼の体に、彼女の得物である槍が突き立てられた!

 狼の方を、見てもいない……。

 素早く穂先を返し、自身の脇をくぐらせて繰り出された後ろ突きである。


 足場は枝一本!

 体勢は、極めて不自然!

 にも関わらずしっかりと腰を乗せられたその一撃は、狼の体を深々と突き刺し、致命傷を与えた。


 わき腹から血を流した狼が、地上へと落ちていく……。

 これではもう助かるまいが、樹上から見下ろす少女たちは追撃することがなかった。


「ハズレだナ」


「あれ、美味しくないもんねー」


「ロナはそればっかねー。

 でもま、牙や爪も今は在庫あるし、トドメはいらないか」


「今日の狙いは……あくまでも……ランス様に調理して頂くご馳走だから……」


 少女たちのコメントは極めて淡白であり、これでは襲って返り討ちにあった狼も浮かばれまい。

 だが、続くリタの言葉は衝撃的だった。


「あんなザコには構わず、さっさと行くゾ!」


 おいおいおい……!

 ザコって、マジか……!?

 そりゃあ、お前さんはあっさりこれを倒したけどさ……。

 立体的に攻撃してくる厄介さといい、その俊敏性といい、並の冒険者では太刀打ちできぬ実力を感じるぞ。


 そうだな……仮にランス・シェーア一人の戦力を一ランスとして表すならば、二ランスは固いところだ。

 それが、ザコて……。


 だが、リタの言葉は真実であった。

 シェーアさんちのランス君二人がかりでどうにかなろうかという狼は、相対的に見て……ザコもいいところだったのである。




--




 突然変異として出現し、時に数百規模のゴブリンらを率いることで知られる英雄種のゴブリン……。

 戦闘力五ランスはあるであろうという、強敵である。

 実際、討伐隊の任務へ強制参加させられた時には……幸運に助けられねば、俺は死んでいただろう。


 それがなんで、一般的なゴブリンみたいな顔して集落を形成していらっしゃるんですかね?

 全部が英雄種のゴブリン集落とか、大都市の冒険者ギルド同士が連携して対策を講じる案件だと思うんですけど……?


 ――見敵必殺!


 リタたちは、たまたま森の中に見つけた原始的な集落に、迷うことなく襲いかかっていく!

 英雄種が恐ろしいのは、生まれた時に強力な魔法の剣を抱いているところであるが……。

 かつてと同じく、生半可(なまはんか)な使い手には捉えられぬ速度で放たれた斬撃を、リタたちはそれ以上の速度でさばき、いなす。

 もはや、動きを追いかけるのがやっとな攻防であるが……。


 リタが槍を振るえば、たちまち数匹の英雄種が喉元から血を流して倒れ……。

 ウルズが交差していくたびに、英雄種の首や四肢がはね飛ばされていく……。

 特にすさまじいのは、ロナの斬撃だ。


「ん~~~~~えいっ!」


 特に技術を感じさせぬ、渾身の溜めを経てのフルスイング。

 しかし、それはスキと見て襲いかかった数匹の英雄種をまとめて真っ二つにし、そればかりか切っ先から放たれた衝撃と風圧で、ゴブリンらの粗末な住居を吹き飛ばしていた。


 たまらず逃げようとした英雄種たちは、ヘルテの弓によって残らず討ち取られる。

 ……普通、弓矢って樹木を貫通させて当てるものだろうか?


「まったく、気がついたら増えてるんだからナ!」


「まあ、ゴブリンってそういうものだし」


「お兄ちゃんも、ゴブリン退治とかしたのかな!?

 冒険者は大体やるらしいって、アラダお姉ちゃんが言ってたし!」


「父が言ってたけど……この森のゴブリンは……他と少し違うって……」


「そうなんだ!?

 でもきっと、似たようなものなんだろうね!」


 幼女の期待が重くのしかかる……。

 ヘルテの父よ、少しどころではないことを正確に教えてあげて頂きたい。

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