アマゾネスのお仕事(狩人側編) 前編
獲物を求め、ネクシムの大森林へと踏み入ったリタ、ウルズ、ヘルテ、ロナの四人……。
彼女らの動きをひと言で表すならば、
――縦横無尽。
……の、四文字こそがふさわしいだろう。
少女たちはただ、地を駆けるばかりではない。
ある時は、猿がそうするように樹上へと飛び乗り……。
またある時は、ムササビがそうするように枝から枝へと跳躍し渡る……。
立体的にして迅速なその動きは、俺がこれまで出会ってきたどの冒険者にも不可能な芸当であった。
恐るべき――身体能力!
これが、戦女神の加護を授かった戦闘民族の力ということか……。
しかも、驚くべきはその身体能力だけではない。
彼女たちが身に着けた装具に関しても、同様であった。
いかに勝手知ったる場所とはいえ、森の中をそのような方法で移動していけば当然ながら突き出た枝や、あるいはやぶの類が肌を切りつけることになる。
商売女もかくやという露出過多な民族衣装に身を包むリタたちであるから、それらは地肌を触れることになるのだが……しかし、アマゾネスたちは一切の傷を負うことがない。
首に下げた、俺も知らぬ魔物の頭蓋を用いたネックレスが……。
あるいは、手首や足首、太ももなどに巻かれている、虹色に輝く糸で小粒の色石を束ねたブレスレットが……。
そもそもが、彼女らの装束に用いられている魔物の皮革へ刻まれた、複雑精緻な文様が……。
強力な魔力を放ち、板金鎧もかくやという防御力で少女たちを包み込んでいるのだ。
言ってしまえばこれは――個人規模の結界である。
いずれも俺の知らぬ様式であり、同じく俺の知らない素材であるが……アマゾネスは長い歴史の中で、ネクシム大森林地帯で手に入る独自の素材を用いた魔具作りを発展させてきたに違いない。
その割に、リタたちは魔術にあまり馴染みがないようであったが、魔術を使うのと魔具を製作するのとは全く別の話なのでそこに不思議はない。
名うての魔具職人が、魔術に関してはド素人……というのはよくある話なのだ。
大切なのは素材と製法……そして手指の技であり、いずれの面においても、彼女らの魔具は超一級品である。
しかるべき街で競りにでもかければ高値がつくこと間違いなしだが、そのような話を聞かぬのは民族としての排他性ゆえだろうか。
できれば、俺に対しても排他的であっていただきたい。
さておき、彼女らが身に着けている魔具は防護用のものだけではなかった。
それぞれが手にしている得物もまた、強力な力を感じる魔具なのである。
先頭を行くリタが手にしている槍は、今朝も彼女の小屋で見たが……彼女の腕にしがみつくレオの視覚を通じて近くからまじまじと見ると、恐ろしい力を感じる品だ。
知識もなく、感覚もにぶいものがこれを見れば、こう思うだろう……。
――未開の地に住む民族らしい、原始的な槍である。
……と。
穂先に使われている素材は、巨大な獣の牙……。
これを加工し刃とした槍は、どこまでも実直な作りであり、装飾は一切存在しない。
だが、その穂先から漂う力のなんと強大なことであろうか……!
見ようによっては、禍々しくすら感じられる攻撃的な力……。
おそらく、これとこすり合ったならば、鋼鉄の刃などたやすく削れてしまうに違いない。
同じく先鋒としてやや後方を進むウルズの武器は、鉈剣と称すべき片刃の片手剣だ。
刀身の素材とされているのは、得体の知れぬ獣の骨……。
これへ、細かな獣の牙をノコギリのように取り付けることで、刃物とての体を成しているのである。
やはり知識のない者が見たならば、刃物としての切れ味を期待することはないだろう……。
だが、ノコギリ部に配置されている牙の大きさがそれぞれバラバラなのは、いかにも呪術的な意味合いを感じさせる。
そこから生じる魔力によって強化された斬撃は、ネクシムの樹木をたやすく両断することだろう。
中衛として進むロナの動きは年少さを感じさせぬ俊敏さであるが、特筆すべきは背負った大剣であろう。
――でかい!
地に突き立てれば俺の身長を優に超えるだろう大きさのそれは、やはり獣の骨をつなぎ合わせたものであり……さながら骨塊と称すべき代物である。
だが、研磨され抜いたその刃先は極めて鋭く、そこからもたさられる一撃が重量頼りのものでないことを予感させた。
後衛として進むヘルテが手にするのは、これも獣の骨をふんだんに使用した複合弓である。
いまだ引いていないため張力のほどは定かでないが、少なくとも俺が見てきた弓使いたちのそれよりは、はるかに腕力が必要なものであるように見受けられた。
そして、矢筒から漂う魔力の波動は、これにより放たれるのがただの矢ではないことを物語っているのである。
各人がこれに加え、やはりなんらかの魔具であろう短剣を身に帯びていた。
戦闘民族アマゾネスの少女たち……。
その装備は、一流の冒険者すらうらやむだろう一級品だ。




