アマゾネスのお仕事(集落側編)
レオネイアス――長いので通称レオと名付けられた盗っ人猿……のメスは、リタが気に入ったのかその肩を居場所と定めたようである。
よしよし、邪魔にならないよう注意しながらしっかりしがみついているのだぞ。
そして、俺に脱出の糸口となる情報を与えてくれ!
「なんだか、肩に魔物を乗せて歩くなんて変な気分になるナ!」
「それが盗っ人猿だと、特にね。
まあ、こんな奴の使い魔? とかいうのにはお似合いかもしれないけど」
リタの肩でおすましするレオを見ながら、ウルズが肩をすくめてみせる。
「ふふ……。
どのような形であれ……ランス様の視線がそばにあるというのは……励みになります」
「いいなー、ロナもこれ覚えたいな!
お兄ちゃん、できるかな!?」
「できるとも言えるし、できないとも言える。
何事も、修行次第というところだな」
「ふん! 修行次第、ね……」
ロナへありきたりな言葉を述べる俺に、ウルズが何やら面白くなさそうな視線を向けた。
「ウルズ……どうしたの?」
「別に! いかにも修行積みましたって言い方が気に入らなかっただけよ!」
「そう言われたって困ると思うゾー?」
女三人寄ればと言うが、これから狩りに向かうというのにかしましいことである。
そう感じたのは、俺だけではなかった。
「はいはーい!
みんなーさすがにそろそろ出発しないとー。
旦那様のために、大物を狩って来るんでしょー?」
パンパンと手を叩きながら、アラダが皆にそう告げる。
雑談へ意識を向けてしまうのは女の性であるが、さすがにこう言われては是非もない。
リタたちが、小屋の外へと出て行った。
おそらくは、それぞれの住居に戻り支度をするに違いない。
「旦那様はー私と一緒にお留守番だねー?」
アラダが、なまめかしい視線を俺に向ける。
一応、聞いておくけど……そのお留守番って何か変な意味を込めてないよな?
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結論から言って、変な意味はなかった。
五人の少女では一番色気というものが感じられるアラダであるが、その実、彼女らを支える縁の下の力持ちであり……端的に言って、とても働き者な女の子だったのである。
「とりあえずー旦那さんは身を清めよっかー?
なんというかーリタちゃんもだけどすごい臭いよー?」
まず最初に、彼女はそう言いながら水桶と手ぬぐいを用意してくれた。
そのように言われれば、赤面するしかない俺である。
人間と言うものは自身の臭いに気づきにくい生き物であるが、昨晩あれだけアレだったのだ……そりゃあ臭いくらいするだろう。
使い魔としたレオに軽く意識を向けると、どうやらリタも軽く身を拭いてから出かけたようである。
俺が体を清めている間、彼女は素早く朝食の片づけをし、洗濯を始めた。
どうやら、アラダは全員分の洗濯仕事を一手に引き受けているらしい。
商売女もかくやという露出度の民族衣装は洗う面積こそ少ないが、なかなかに大変な仕事であることは間違いない。
だが彼女は、年齢にそぐわぬ手慣れた手つきで的確に洗濯板を扱い、洗濯物を次々に片づけていった。
ちなみに俺はと言えば、洗い終えた洗濯物を絞りる役割である。
「旦那さんがーこんな仕事をする必要はないんだよー?」
とはアラダの弁であるが、俺だけ何もせずにいるというのも体裁が悪いからな。
過度に媚びを売る必要はないが、我が心の平穏も大切なのである。
さて、手早く洗濯を終えた後は畑仕事だ。
ハッキリ言って、俺は畑仕事に関しては門外漢もいいところであるが……。
アラダの教えを請いながら、排除すべき雑草を引き抜き、収穫すべき野菜を収穫し、害虫を駆除していく。
特に、害虫駆除に関しては使い魔の術を用いた探知が役に立った。
ま、そもそもは索敵用の魔術から派生した術だからな。俺がちょいとその気になれば、隠れおおせられる虫など存在しないのである。
そのようなことをしている間に昼となるが、どうやらアマゾネスも一般的な王国民と同じく昼食は取らないらしい。
「ヘルテちゃんがいるとはいえーお腹に物が入った状態でケガすると大変だからねー」
戦いを生業とする民族らしい言葉である。
俺も新米の頃、熟練の先輩冒険者たちから「バカみたいに飯を食らう奴は決して成り上がれねえ」と言われたものだ。
断食は論外であるが、適度な空腹状態で闘争心を高め、知覚を研ぎ澄ませることは戦闘者にとって武具の手入れと同等に重要な前準備なのである。
そして、どうやらヘルテは僧侶と同様に癒しの奇跡が扱えるらしい。
まあ、戦女神の巫女と言っていたからな。似たようなものなのだろう。
畑仕事を終えれば、その後は薪集めだ。
と言っても、木を伐採してマキを作るわけではない。
わざわざそのようなことをし、長期乾燥などの手間をかけずとも集落周辺ではいくらでも薪に扱える枯れ枝が拾えた。
この少人数で暮らすならば、それで十分まかなえるらしい。ネクシム大森林地帯の恵みといったところだな。
「一人で行動すると危ないからー私と一緒に集めようねー」
と言われ、手斧で武装し背負子をかついたアラダと共に、近くの森へ入りもくもくと枯れ枝を集める。
逃げるチャンスかと思ったが――スキがない。
アラダ自身も枯れ枝拾いをしており、俺の動きを見られているわけではない。
しかし、そうしながらも五感全てを使って周囲の状況をうかがっていることが感じられるのだ。
おっとりとした少女の身でありながら、熟練の斥候もかくやというスゴ味である。
探索能力に優れているからといって戦闘も得意という道理はないが、先ほどからレオの視覚を使って盗み見ているリタたちと同等か近い身体能力を備えているならば、俺ごときたやすく組み伏せられるだろう。
俺は薪を集めながら、再びレオの視覚と同調した……。




