狩るもの狩られるもの
朝、起きると一つの問題に突き当たる。
朝ごはんがない。夕飯と同じものはさすがに嫌だ。ただ、いろいろと足りないものが多い。特に加工食品が手に入らない。というか、この異世界に醤油や味噌があるのか怪しい。
(本当に、なんだかなぁ…………ないなら作るしかないんだよな)
「まぁ、細かいことは気にしてもしょうがないんだけど。今まで手に入っていたものが急に手に入らなくなると何とも言えない喪失感があるんだなぁ」
「くまぁ(大丈夫)」
「うん大丈夫だよ。ありがとうねクロ。細かいことは気にしてもしょうがないし朝ごはんを作ろうか」
フライパンに並々に水をいれジャガイモとタマネギを投下する。ジャガイモが煮えてきたら、クミン、コショウ、塩で味付けをする。
(まぁ、朝ごはんだし、こんなものかな)
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朝ごはんを食べ終えると仙法“抜け道”を使い街へと移動する。
「そういえばさぁアリューシャ、この街の名前ってなに?」
「そんなことも知らないのですか。はぁ、まぁいいでしょう。この街の名前はリーニアです。」
「リーニアね。リーニア…………うん覚えた」
「そういえば、何だが騒がしいですね」
「うん、さわがしいね」
人込みの中心には、衛兵によって担架に乗せられた首を切り落とされた死体があった。
鋭い凶器で一太刀に切られたような切り口で、プロによる犯行であることが誰にでも判断できる死体であった。
「うわっ、殺人事件かな」
「ええ、あの切り口を見るに、プロによる犯行だと思います」
「いらっときて、勢いでってわけじゃないよね」
「ええ、こんな大通りでわざわざ犯行に及び、さらし者にしているんです。おそらくはシリアルキラーのような人物かと」
「うわっ~気をつけないとね」
「ええ、用心するにこしたことはないですからね」
(朝から嫌なものを見たな。つくづくこの世界が異世界だと実感させられる)
人混みを抜け冒険者ギルドへと向かう。
「ねぇアリューシャ、やっぱりこのFランク依頼、ろくなものがないね」
「ええ、本当にろくなものがありませんね」
「依頼が雑用ばっかだなぁ………とりあえずこれかなぁ」
~フォレストウルフを討伐せよ~
内容:赤い森のフォレストウルフを討伐せよ
報酬:一匹につき1500G
対象ランク:F
依頼:常時依頼のため受付の必要はありません
討伐証明:フォレストウルフの尻尾
街の北側に位置する赤い森にまで徒歩で移動する。
相変わらず真っ赤な森だ。
「それじゃ、フォレストウルフを探そうか」
「ええそうしましょうか」
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「お前はなんなんだよ」
男は自らの肩を抑え焼けるような痛みに、苦しい呼吸をする。
息を落ち着かせようとしても、自らの目の前の人物への恐怖からパニックになりそうな思考を何とか冷静になろうとする。そんな男の思考などお構いなしに、目の前の女性は一歩一歩、男との距離を詰めていく。その女性との距離が詰まるにつれて、男は逃げ出そうとするが、恐怖で足がもつれて横転してしまう。
「そんなにつれない態度を取らないでよぉ。あはっ、その顔いいねぇ。恐怖でゆがんだ、その顔ゾクゾクしちゃう…………ねぇ、お姉さんと遊ぼうよぉ…………もっともーとお姉さんを熱くしてぇ」
「なんなんだよ………なんで俺がこんな目に合わなきゃいけなんだよ」
男は自分に冷たい目を向ける女性に吠える。
そんな必死の訴えも女性を余計楽しませるだけだ。
いくら、逃げようとも男は逃げられないだろう、男は冒険者だが、目の前にいる女性は格が違う。女性は追いつけるのにも関わらず、わざと距離を開けて、追いかけっこを楽しんでいるのだ。
「ほらほらぁ、逃げないと殺しちゃうよーん」
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見つからない。その一言が現状を表すのに最も適当だろう。
森の中を探せど探せどもフォレストウルフは見つからない。
フォレストウルフは樹木の身体を持つ魔獣であり、森の木々に擬態しているので、視認での発見は不可能に近いものなのだ。
「しょうがないなぁ…………まったく見つからない」
「強者相手にはフォレストウルフは隠れてしまうので、Fランク相当の冒険者向きなのです。私やミラさんでは強すぎてフォレストウルフは逃げるか隠れてしまいます」
「それじゃ、この依頼を選んだのは失敗かなぁ」
「そういわれえても今さらですね」
「ねぇアリューシャ、血の匂いがしない。」
「魔獣か魔物のものではないのですか。森の中ですし、珍しいことではないと思いますけど」
「そうかもしれないけど、なんか人の血の気がするからさ。とりあえず血の匂いがする方に行ってみようよ」
「はぁ、わかりました。とりあえず、行ってみましょう」
血の匂いのする方に向かって2人でトボトボと歩いていく」
「ぎゃああああああああ!!!!」
「ちょっとアリューシャ。早く助けに行こう。なんかやばそうな雰囲気だし」
「はい、急ぎましょう」
叫び声のしたほうにいそいで駆け寄るミラとアリューシャ。
そこには皮鎧を身にまとった冒険者が、マントを着た女性によって、首を切り落とされ瞬間があった。




