23:転移者の明のお店
その晩、瑞希に連れられて行ったのはジャズが流れる雰囲気の良いお洒落なバーだった。
今日は生憎の天気だからお客さんも疎ら。
僕と瑞希はカウンターに座った。
バーテンダーがコチラに気が付いて会釈をする。
彼は整った中性的な顔立ちで、少し影がありそうな感じがした。
「あれ?何処かでお会いした……?いや、気のせいかもです、忘れて下さい」
なんかヘタなナンパみたいな言い方になってしまったけど、彼のことは本当に何処かで見た気がする。
「こんばんは、今夜は宜しく。
蒼、今夜誘ったのは彼に会わせたかったからなんだ。
明、彼はこの前話した転移者の望月 蒼さん」
「はじめまして、望月です、宜しくお願いします」
「はじめまして。俺は星乃 明です。同じ転移者だよ。ヨロシクね」
彼は綺麗な笑顔を見せた。
「飲み物はどうする?」
「う〜ん、どうしようかな。ご飯食べたばっかりだからさっぱりしたのがいいかな。じゃあ、スコッチ&ソーダで。蒼も同じでいい?」
「うん、僕もさっぱりしたのがよかったから、それでお願いします」
「ウイスキーはウチのオススメでいい?」
「うん、大丈夫」
「はい、お願いします」
早速飲みながら話すことになった。
「……蒼さんって呼んでいいかな?」
「はい。僕からも明さんってお呼びしても?」
「うん、大丈夫だよ。
ところでさっき、何処かで俺を見たことがあったって言ってたよね?
元の世界じゃ、俳優やってたんだ。自分で言うのもアレだけどイケメン俳優って言われてて……いくつか映画とかドラマとか出てたんだ。それで蒼さん見たことがあったのかも」
そうか、そういえばそうだ!
イケメン俳優の月野於菟也……って名前だったような気がする。人気もあったよな。
「せっかくキャリアを築いていた時なのにコッチに来ちゃったなんて……気持ちを立て直すのは大変だったんじゃないですか?」
「う〜ん。
……俺ね、元の世界じゃ搾取子でさ、小さい頃から芸能事務所に入れられて、稼いだ金は親に取られてたの。
一方で弟は愛玩子で可愛がられててさ。
俺が頑張って稼いだ金は親と弟の浪費に消えちゃって。
大きくなってもそれは変わらずで。なまじ人気が出ちゃったら親の要求が増えちゃってね、なんてゆうか……疲れてたの。丁度こっちに来た時。
そしたらさ、この世界の親達やら弟は既に死んじまっててさ、なぁんにも気にする人……気にしないとイケないと思ってた人はいなくって。
しかもさ、誰も俺のことは知らないの。
この世界の俺は一般人だったから。
初めて自由になった気がしてね」
明はクシャッと笑う。切なそうに。
「元の世界には2度と戻りたくないんだよね。
この世界にずっといたいんだ。
誰かに奪われずに自分のペースで自分の居場所を作れてる、今が幸せだから」
明は、コッチに来てもう3年だそうだ。
瑞希の紹介でこのバーの本店で修行して、今はこの店の雇われ店長なのだという。
「僕は帰りたいな……。
僕は画家になる為に地道に頑張って、やっと画家として食べていけるようになったところだったんだ。
これから、って時だったの。
……ただ絵だけに何もかも捧げてきたから……何にもしないと喪失感がある。
この世界での僕は迷子みたいな気分で、所在無いみたいな。
……それにね、家族、取り分け祖母が気になって。
年を取って病気しがちになってたから。
今、僕が……あの世界で失踪?みたいになって、祖母は心配しているだろうな、と思ったらね、早く帰りたいんだ」
「ふふ、俺等全然違うんだね」
「そうだね。僕らにあの世界に戻るチカラのオーラとこの世界に留まるチカラのオーラが取り巻いていたら、迷わず明さんにこの世界に留まるチカラのオーラを贈るんだけどなぁ」
「蒼さん優しいね。
じゃあ、俺から蒼さんにあの世界に戻るチカラのオーラを贈ればお互いにイイ感じだね」
明さんは柔らかな笑顔になる。
一方、瑞希は僕等の話を聞きながら相槌を打っていた。
「瑞希って仕事熱心だよね。仕事の時間でもないのにさ、俺等転移者の心のケアまでするなんて」
「いや、そういうわけじゃないんだけどさ。
う〜ん、無意識?」
「しゃあ、無意識下で気にかけてるんだ、優しぃ〜」
瑞希が気に掛けてくれてるのは前々から気が付いていた。今夜のことも転移者同士で交流があった方がいいと考えてくれたからなんだろう。
「戻れるのは運次第って聞いたけど、その通りで、運なの?」
「う〜ん、運、うん?運だね、運」
「運」
「運」
僕等はうん運言い合いながら話を続ける。
「ところで話は変わるけど、明さんって恋愛上級者?」
「何なに、急に」
「優しい瑞希の恋を応援したくてさ」
「はぁ~!?もう、いいんだよ、もう!」
「さっき頑張ってたじゃん」
「……脈はずっとないんだよ。今更どうのって、無いだろうとも分かっているんだけど。
でもね、気持ちが戻ってしまうんだ……」




