16:例大祭は見れなかった
みずの姉弟が僕に用意してくれた部屋は元みずの探偵事務所所長で2人の親の水野晴郎さんの部屋だった。
僕の世界の、映画評論家の方の顔が過る。
違う、彩さんを見れば2人の親の晴郎さんは映画評論家の方とは絶対違うお顔だろうに、一度妄想したら消えない……。同じ漢字だから余計に……。
綺麗に片付けられた部屋。10畳くらいある。
推理小説が並んだ本棚。拘りがありそうな家具。
床はフローリング。竹刀もある。剣道されていたんだろうか?
『ニャンニャ』
一方、猫吉はトコトコ部屋の中を探検している。
初めての部屋に興味津々なようで、ソファに登ってみたり、テーブルに跳び乗ろう(失敗)としてみたり忙しい。
「故人の部屋なんだけど大丈夫?」
透がひょいと顔を覗かせる。
「いや、快適に過ごせそうだよ、ありがとう。
猫吉も早速探検してるし、楽しそうだよ。
あのさ……もし、もしだけど、偶に竹刀使ってもいいかな?」
「竹刀?いいよ。何?蒼って剣道やってたの?」
「昔ね。今は偶に竹刀は握るぐらいだったんだけど、見たら触りたくなって」
「分かる。俺も剣道ちょっとだけやってたんだけど、気分を静めたい時とか無心で振ったりしてさ」
「そうそう、そうなんだ。
透は何処で剣道習ってたの?」
「西宮剣道場ってとこだよ」
「西宮?」
「ほら、あの昔ながらの造りの家でさ、有名なトコ。知らない?いや、蒼の世界に無いのかな?」
「いや、それだったら僕もそこに行ってたよ」
「そうなの?!えぇ~じゃあ、俺、長く通えばよかったなぁ。小学生の時、そこそこで辞めちゃったからさ。
友達になれたのになぁ。……あ、この場合、月さまと友達になるってことか」
「そうだね」
僕らはフフフと笑う。
それから直ぐ、透は依頼の電話が入って事務所へ行ってしまった。
ぼんやりソファに座った僕の太ももに猫吉がピョンと登った。
「ねぇ、猫吉。僕の世界と透達の世界ってどう違いがあるんだろうね。あのね、僕は西宮剣道場に大学に入るまでガッツリ通っていたんだけど。
僕の世界では透に会ったことないんだ。
あの剣道場は新しく入った人、直ぐに分かるのに…。それに、この世界の僕が透に会ってないだなんて、他に何が今の僕と違うのかな?」
僕の問いかけに猫吉は
『ニャッ』と答える。
日本語でお願いしたいとこだが、かわいいので無問題。
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とうとう例大祭の日。
本当に人人人。何処までも人の波だ。
流石有名神社!参拝客も長蛇の列で……
彩さんの言う”大変忙しい”がよく分かりました……。
今日、僕らは浴衣に長めのエプロンを着ている。
僕と彩さんが調理の方、花井さんと透がホールだ。
足元は下駄。履き慣れないから地味に痛くなってくる。気合で乗り切るぞ。
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開店と同時に、アノ方々がご来店された。
桐谷さんをはじめとする、月さまファンの方々。
いつものメンバー以外の初めましての方々の姿もある。
ざわ……ざわ……ざわ……ざわ……
桐谷さんはずいっと前に出ると、
「おはようございます。つ……友達を誘ったら多くなっちゃって。彩ちゃん、イケるよね?」
ギリギリ皆座れる人数だったので、彩さんはOKを出す。皆椅子取りゲームのように凄い早さで椅子に座った……ただ、座ったら座ったで僕への視線が痛い……。
「眼鏡!」「尊い……」「浴衣……」
「手料理が食べれる?!」
「眼福」「拝みます……」
何やら聞こえた気がするが、きっと幻聴の筈だ……
「ところで、注文する前に一つお願いがあるんです。つ……望月さん、冥土の土産にしたいのでツーショットで写真撮っていただけませんか?」
“冥土の土産”というパワーワードを出されるなんて思わなんだ。
しかも圧も凄い……。
「こ、今回だけなら……」
「聞いた、みんな?!お許しが出たわよ!!」
「「「きゃぁぁあ」」」
その後、僕は写真を撮られまくったし、僕の手料理希望の方ばかりだった為、作れるものを片っ端から作った。
彩さんにはお指をたてられて、
「グッドラック」
と言われたが……どう見ても面白がってるな!!




