第15話 深呼吸
「これより緊急報告会を始める。欠席者は前と変わらず3人か」
隊長による号令の下、かつて私と金平君が模擬戦を行ったあの灰色の空間に、4人の咎人が集まっていた。どうやら模擬戦の後でこの部屋の清掃が行われたらしく、あの時の血痕はもちろん、壁のくぼみさえも綺麗さっぱり無くなっている。
各々の立ち位置は前回の報告会と同じ。異なるところがあるとすれば、全員がスーツを着用している点であろうか。
「まずは円谷、よく復活してくれたね。信じていたよ」
「…………」
「ちょっと由賀子さん……」
来見田さんはいきなりデリケートな部分に触れた。赤川さんは彼女の無思慮的発言に少し呆れたようだった。
「まぁとはいえ元気になってくれて良かったです」
「あの……毎日ご飯を部屋まで届けてくださりありがとうございました……そしてすみませんでした……何も食べず……」
「いえ、いいんですよ」
赤川さんはこの3日間、朝・昼・晩の食事を私の部屋まで持ってきてくださった。しかし私が食事に全く手をつけなかったがために、クローシュが被さった料理を置いてそれを30分後に回収するという手間をかけてさせてしまった。
「で? 円谷を復活させるどころかやる気にさせるだなんて、どんな魔法を使ったんだ?」
「どうだっていいだろ、別に。んなことより本題にいこうぜ隊長さんよぉ」
「あぁ、そうだな。時間が惜しい」
金平君は来見田さんの言葉を軽く受け流し、本題に入るように促した。
「尼寺山は去り際に1週間後に会おうという主旨のことを言った。その発言が本当なら、あいつは4日後に再び南区内で事件を起こす可能性が高い。ここまでは先んじて赤川にも伝えた。そして私たちがこれから話合わなくてはいけないのが、この4日間の使い方についてだ」
「そうですね。この場に来てない内の2人は別の作戦行動中、1人はサボりで連絡がつかないので、今『平衡のカルマ』で動けるのは僕ら4人だけ。この4人でどうやって勝つか」
「私の力では尼寺山に対して勝ち目はないし、金平も義手にまだ慣れていない、円谷は異能が上手く使えない。まともに戦えそうなのは赤川だけなのだが、それでも尼寺山に勝てるかどうかは断定できない」
「俺の武器は足で、手なんか余程のことがねぇと使わねぇって何回も言ってんだろうがぁ! それにあの時は模擬戦で負傷していて遅れをとっただけだ! もし五体満足だったら――」
「たらればの話をしてもしょうがないだろう。それに、一度異能を使った以上これからはあっちも出し惜しみせずに異能を行使してくるはずだ。負荷武具だけで戦っていた前回のあいつとはまた違う」
案の定噛みついた金平君は不満げに来見田さんから顔を逸らす。
前回の尼寺山はベルトの負荷武具を中心に立ち回り、奥の手として爆発の異能を行使した。だが、奥の手を晒した今、最初から異能を使ってくるのが道理。
「ならどうするってんだよ。策でもあんのかぁ?」
「円谷を鍛えるのさ」
自分の右腕に視線を落とした。これまで暴走していた時以外に上手くストレスを操れたことは一度もない。銀行の中でも必死に操ろうと念じていたのに、結局ストレスは言うことを聞いてはくれなかった。
「私が南区の銀行全店に警告を発し、その中でも尼寺山が襲いそうな銀行を片っ端から調べる。正直言うと、これぐらいしか打てる手がない。あとは円谷の異能の伸びしろに賭ける。それしかない」
「他区の咎人特殊部隊に応援を頼むというのはどうでしょう?」
「こんなことで他区に貸しは作りたくない。それに、今南区で動けるメンツがこの4人だけだということも知られたくないしな」
「たしかに別作戦中の彼らに迷惑がかかる可能性もありますね……」
「というわけ、だ。あと4日……いや、実際に残された時間はそれよりも少ない。その間、お前には死ぬ気で特訓をしてもらう。いいな?」
運動神経は悪い方だ。学校の成績は良いが、要領は悪いし、多分IQとかは平均的だ。
特殊な技術を持っているわけでもないし、特別な血を引いているわけでもない。
おまけに臆病で弱虫だし、取柄なんてない。
でも、それでも、私は静かに息を吸った。
「――はい」




