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石の記憶  作者: 弥生 飛鳥
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第1部 第8章


迷うことなく部屋に着き、ベッドに潜り込んで横になると、頭に血が通ってきて少し落ち着いた。

ルシファのいうように、今は何かを決めたり、何かをすることは無理のようだ。


自分の状況すらよく理解できていない。ずっとベッドに縛り付けられていた体は歩くことはもちろん、座っていることさえ辛かった。

今はただ流れに身を任せることしかできない。


「横になったままでいいよ。お茶はここに置くよ。」


 いつの間にかルシファがベッドのそばに立っていた。


「どう? 疲れた? 少し話せそう?」


 眠くはない、疲れたといえば疲れているが、それよりもルシファの話を聞きたかった。


「初めに君に謝らなくちゃいけなかったのに、今頃になってしまった。君のカルテを君に許可なく見てすまなかった。」


 なぜそんなことぐらいで謝るのだろう? 

 ラボの人間はみんな僕の素性を知ってる。僕に許可なんか求めた人はいなかった。


「カルテにはどんなことが書いてあったの?」


「君が私の心を読んでくれれば話が早いのに。」


 ギルは首を横に振った。


「君が母親の虐待から保護され、保護とは名ばかり、実験体としてのラボ送りになったこと。それを望んだのは母親だったこと。君には人の心を読む特殊能力があったので、その能力の解明のための「実験」という名目で。」


「名目?」


「ラボに送られた本当の理由は、君がジーンリッチとナチュラルとの間にできた子供だから。」


 そう、ありえないこと。


 人間は遺伝子研究を突き進め、優秀な遺伝子同士を掛け合わせ、何世代にも渡って優秀な遺伝子だけを選んできた。


 いつの頃からか人間は遺伝子をいじっていないナチュラルと遺伝子交配のジーンリッチの2種族に分かれ、その遺伝子はあまりも違ったものとなり、両者の間で子孫を作ることはできなくなっていた。


「君のお母さんは優秀な人種のはずのジーンリッチであることを誇りに思っていた。」


 だから、ナチュラルの子供を宿したということは、自分もナチュラル並みの低級な遺伝子の人間だという証拠。彼女のプライドはズタズタにされた。


妊娠を知ってすぐ、なんとかナチュラルの子供だとばれないように、好きでもない男と結婚した。


 それなりにだませると思っていた。隠し通せると思っていた。


 しかし、生まれた子は夫とは似ても似つかない。夫は何となく気付き始めた。


 そしてその子には人の心を読む不気味な力があった。夫は家を出て行った。


 彼女は全てを失った。輝かしいジーンリッチ。傷一つない才能あふれる輝かしい人生。普通に結婚して、普通に家庭を持って、それでも才能を活かせる仕事は続けて・・・。


 全てが誇りだった。才色兼備なジーンリッチ。その才能を活かしてバリバリ働く自分が誇りだった。


 その全てが崩れ去った。


 お前さえ生まれなければ!


 彼女の精神は壊れ、子供への虐待となっていった。


「お前が私の全てを壊した。産まれるはずのない悪魔の子。お前は絶対に幸せになんかなれない。私を苦しめた以上に苦しめばいい。これがお前が悪魔だという烙印だ。」


 ギルがシャツのボタンを外した。


「そういって母さんが押した焼印だ。」


 胸に何かの模様の火傷の跡。


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