第1部 第9章
「僕は幸せになんかなれないんだ。母さんの呪いを解くことはできないよ。」
ルシファは何もいわずに立ち尽くしている。
「さっきの食事、ルシファが嫌な気分になるってことぐらいわかってた。でも体がそう動いちゃうんだ。ルシファと同じテーブルで食事ができてすごくうれしいはずなのに、それ以上に罪悪感を感じたんだ。僕はうれしさなんか感じちゃいけないって。」
ギルは頭を振って叫び出した。
「ルシファのいうように僕が幸せになることでルシファを幸せにできるならどんなにいいだろうって思うよ。でもダメなんだ。僕は母さんの呪いから自由になれないんだ。」
泣き叫ぶギルの隣にルシファが腰をかけた。
「君はお母さんを苦しめたいと思って産まれてきたの?」
「まさか!」
「じゃあ、君には何も罪はない。周りの不幸を全て自分のせいにするのはやめるんだ。」
「でも僕さえ産まれなければ母さんは幸せでいられたんだ!」
「だからって君がお母さんの全てを奪ったの? お母さんを苦しめようと思って産まれたわけじゃないのなら、君には何の関係もない。君には罪がない。世の中の不幸は自分が全て原因だと思うのは優しさなんかじゃない。ただのナルシストだ。自分が地球を回しているとでも思っているのかい? 「光あれ」といった全知全能の神のように君が世界を作ったのかい? この世界の不幸は全部君が作ったのかい?」
激しく燃えさかる炎のようなルシファの瞳にギルは叫ぶのをやめた。
「君がそういうふうな考えに囚われるのは、あの環境で育てば無理もないことだ。君が自分を責めるのは仕方ないだろう。でも、その考えを変えることは可能なんだよ。
さっき私の怒りを和らげることができたように、できるんだよ。お母さんの呪いを解くことが。」
そんなの無理だよ・・・。
「今はそうは思えないだろう。でも今までとは違った世界を見れば変わっていけるんだよ。今はただ先のことなど考えなくていい。できるとかできないとか考えなくていい。」
もう湯気の上がっていない冷めたお茶を差し出した。
「ただこれだけは忘れないで。人は変われる。過去は変えられなくても、塗り替えることはできる。そして、未来は、人生は、自分が創って行くんだ。」
自分が創って行く・・・?




