第1部 第7章
「あなたは、変な人だ。」
ギルはこわばった体の力を抜いた。
「よくいわれるよ。君は何を変だと思うの?」
「心を読んでいいなんていう人、会ったことがない。」
またルシファが笑った。
「心を読まれることが嫌なことは想像がつくけど、知られたからって何なの?事実だ。どうすることもできない。隠そうとすればするほど自分が惨めになるような事をいったり行動したり、悪循環だ。私は自分に嘘をつきたくないし、他人に自分でない自分のイメージを持たれたくもない。」
まだ残ってるスープをスプーンでくるくるとかき混ぜた。
オレンジ色の液体の中で細かく刻まれたいろんな色の野菜が踊った。
「過去は変えられない。でも、塗り替えることはできると思ってる。過去を塗り替えるのは今だ。今が幸せなら、今に至るまでの過去が必要だったと思える。憎んでいた人がいても、今の自分を創り上げた一端なんだ。今が幸せなら、今の自分を創り上げた過去が全て感謝できるものに変わっていく。」
スープをかき混ぜるのをやめてギルを真正面から見た。
「だから私は君に幸せになって欲しい。過去は塗り替えられる。今、君は私からさっきのような怒りを感じるかい?」
即座に首を振った。
「君が私を落ち着かせてくれたんだよ。君は自分には何もできないと思ってるかもしれないだろうけど、私を怒りから解放したのは君だ。この事実はちゃんと受け入れて欲しいね。」
手を組んで顎を乗せながら、何でも見透かすようなきれいな瞳で見つめた。
ギルは落ち着かなく視線をそらした。
「・・・もう1つ。何で僕をラボから出したの? どうして自分の家に連れてきて、こんなに優しく・・・。変だよ。」
組んでいた手をほどいて椅子によりかかった。
「申し訳ないけど、その質問には君が満足いく答えをいってあげられない。だって、私自身、わからない。どうして君のカルテを見たときに君をあそこから出してあげたい、ジーンリッチとして新しい人生を送って欲しいと思ったのか。それが君にとってよくないことになるかもしれないとも思ったよ。でもどんな人生をこれから選ぼうともまずはあのラボから出してあげないといけないって、なぜかわからないけど、そんな思いにとらわれたんだよ。だからここを出て行きたくなったら出て行ってもいいよ。君を縛り付けてどうこうするつもりはない。でも、その傷が癒えて、体力が付かない限り、何もできないから、しばらくはここにいることにして欲しいね」
ギルのスープ皿を差し出して飲むように勧めた。
震える手でスプーンを持ってスープを口に運んだ。
「おいしい・・・。」
何か感想をいわなきゃと思ったわけではない。自然と呟いていた。
顔を上げるとルシファは微笑んでいた。
「よかった。実の所、私はあまり料理は作らないからね。1人暮らしだと錠剤だけで生きられるすぼらなジーンリッチは食事を作るのが面倒だからね。」
お世辞をいったわけではなく、本当においしかった。
「食事は誰かと一緒にとって初めて意味がある。」
立ち上がって食べ終わった皿をトレイに乗せた。
「ベッドのあった部屋に行けるかい? ずっと横になってたから、座ってるのもつらいだろ? ベッドに横になってた方がいい。お茶を作って持ってくから、先に行ってて。」
確かにルシファの話に夢中になって気付かなかったが、血が下がったのか頭がクラクラしている。




