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石の記憶  作者: 弥生 飛鳥
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第1部 第88章

 やっと落ち着き始め、しゃくりあげながらルシファの腕を握る手の力が弱まった。


「ごめんね、ルシファ。」


 ゆっくりとルシファから体を離した。


「どうしたの?メアリー、突然そんなにはしゃいで。」


 後ろから聞こえる声に振り向いた。


「だって何だか気分がいいの、こんなお天気もいいし、お花が見たいわ。」


 母がまるで少女のように浮かれて病院の玄関から走り出していた。


「見て。こんなにきれいに咲いてるわ。」


 庭の花壇の前まで来ると足を止めて花たちに見とれた。


「どうしたのよ。急に。花が見たいなんて。」


 追いついた看護士は息を切らせながら母の変わりように戸惑っていた。


「だって、こんなに素敵よ。」


 母は看護士を笑顔で手招いた。


「母さんが・・・母さんが、笑ってる・・・。」


 ギルの血の気の引いた顔に生気が戻ってきた。


「僕の夢が、叶ったんだ・・・。」


 喜びに呼吸がゆっくり大きくなっている。まるで生命を取り入れるように。


 母は跪くと1つの花を両手で触れていとおしそうに見つめている。


 ルシファは複雑な気持ちだった。これでいいのか? 本当にこれがいいことなのか?


 本当は自分があの花になって、母に優しく触れられ、微笑みかけてもらいたいんだろう? いくら笑っても優しくしなっても、それは自分に向けられることはないんだよ。それでいいの?


 しかし、ギルの喜びに満ちた顔を見ていると、これが最良のことだったんだと思うしかなかった。


 ルシファはギルの前に跪くと、両手でギルの顔に触れた。丁度、母が花にしたように。


 ギルの視線が母からルシファに移された。


「ルシファ。ありがとう。僕の夢、叶えてくれた。」


 目が活き活きと輝いている。


「僕、新しい人生でルシファの願いを叶えたい。ルシファの願いって何?」


 何の苦しみも知らない無邪気な子供のようにいった。


「君の名前の意味は覚えてる?」


 ルシファも心が落ち着いていつものような表情に戻った。


「ギルバート。輝く願い。」


「君が幸せでいてくれればいい。」


「充分だよ。もう充分幸せだから、他にはないの?」


「後でゆっくり考えるよ。」


 ギルの頬から手を離して、立ち上がった。


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