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石の記憶  作者: 弥生 飛鳥
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第1部 第87章

 病室を出たあと、何も言わずに朦朧と歩いていた。


 ルシファは自分のしたことは間違いだったのかもしれないと思った。ただの記憶とはいえ、ギルは自分を殺した。


 どうしてクリスタルの記憶を消した時、あんなに真剣だったギルの思惑に気付かなかったのだろう。


 ギルは初めから母の中の自分を殺すつもりだったんだ。


ロボトミー手術も心配ないといった意味をどうしてわかってあげられなかったのだろう。


 ルシファは自分に対して言い知れぬ怒りを感じた。




 ステーションには行かずに病院の庭に出た。木陰のベンチに座ると、そのまま風に吹かれていた。


 どれくらいそうしていただろう。ギルがやっと言葉を出した。


「こんなことすべきじゃなかったよね。」


 ルシファには言葉が見つからなかった。


「でも僕の夢だったんだ。ずっとずっとそればかり夢見てた。母さんが笑ってくれること。ただそれだけ。」


 ギルの体が震えていた。


「僕さえいなくなれば、母さんは元の様に笑ってくれる。僕さえいなければ、母さんは幸せになれるんだ。」


 顔をおおって押し殺した呟きでギルは話し続けている。


「消えたかった。消えちゃいたかったんだ。そうすれば全てが元に戻る。僕さえいなくなれば・・・。母さんは笑える。」


 どうしてそこまで追い込まれなくてはいけないのか。


 自分の存在全てを否定されて、それでも母に笑って欲しいなんて、自分の存在価値は消え去ることだなんて。


「こんなことしちゃいけなかったんだよね。」


 ギルが顔を上げてルシファを見た。その顔は全く血の気がなくなっていた。


「でも、でも僕、母さんに憎まれていたくなかったんだ! 僕なんか消えちゃってもいい、憎まれていたくなかったんだ!」


 泣き出すとルシファにしがみついた。


「母さんの呪いから解かれたかったんだ。いつも、いつも、母さんから離れてラボにいても、ルシファが助け出してくれても、母さんの声が聞こえるんだ! 僕を呪ってる母さんを思い出すんだ! 僕、生きるんだ、生きることにしたんだ! 母さんの呪いから解かれて僕の人生を歩みたかったんだ!」


 無茶苦茶に泣き叫ぶギルをルシファはどうすることもできなかった。


 言葉が見つからない。


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