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石の記憶  作者: 弥生 飛鳥
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第1部 第81章

 叔父との面接はそれからしばらくしてからだった。


「顔の傷も治ってよかったよ。あの顔で会ったら失格になりかねない。」


「叔父さんって何をしてる人なの?」


 叔父のいるビルを歩きながら緊張をほぐそうとギルは話し始めた。


「更生病院の運営だよ。」


 扉の前で足を止めた。ギルは唾を飲んだ。


「緊張しなくても大丈夫だよ。キャプテンのような優しいおじいさんだよ。」


 扉をノックすると、初老の男の人の声が聞こえた。


「お久しぶりです叔父さん。忙しいのにすいません。」


 広々とした部屋には大きな皮のソファにガラスのテーブルが置かれ、壁には大きな絵が飾られていた。


 その応接セットの奥のデスクに座る白髪の男が立ち上がると、ルシファと握手をした。


「仕事部屋の方に来てもらって悪かった。最近なかなか忙しくて、プライベートな時間が少なくてね。」


 叔父はルシファがいうようにキャプテンのような親しみやすい優しい感じの人だった。


 見た目はキャプテンのような軍人っぽくはなく、気のいいおじさんという感じだった。


「初めまして。ギルバートです。」


 ギルは安心して自分から握手を求めた。


「初めまして、ロバートだ。ようこそ。座って。」


 叔父はにこやかに微笑んでソファを勧めた。


 デスクの上の書類を重ねると、自分も2人のソファの正面に座った。


「正直驚いたよ。この子がギルなんだね。」


 優しい表情をしているが、何でも見透かされてしまうような鋭い眼をしていた。


 ギルは緊張して背筋を伸ばして座った。


「いい目をしている。」


 叔父の表情がほころんだ。


「ギル。君のカルテは見せてもらった。ルシファが君をラボから出すといった時は何を狂ったことをする気だと思っていたよ。」


 ルシファは困ったように視線をそらした。


「いくら心理を学んだとはいえ、君の状態はあまりにひどすぎた。どうにかできるとはとても思えなかった。」


「私もどうにかしてあげられるなんて自信はなかった。でもどうしてもあそこから出してあげたくて、叔父さんにはご迷惑かけました。」


 ルシファが軽く頭を下げた。叔父はそんなルシファを優しく見ると、ギルに視線を移した。


「君はよく耐えたね。あの地獄から這い上がって、こんなに活き活きした目をしてる。」


「私もびっくりですよ。こんなに早く、しっかりと前に進んでくれている。彼はよくがんばりました。おかげで私はほとんど何もしてませんよ。」


「ルシファが、・・・ルシファが支えてくれたから、僕は今ここにいられる。全てルシファのおかげなんです。」


 ルシファがどれだけ必死に手を差し伸べてくれたか、いろいろ叔父に聞いてもらいたかった。しかし、何でも見透かすようなその目で何もかもお見通しのように説明など必要なかった。


「人が立ち直る時、必要なのは本人の意志とそれを支える環境だ。どちらが欠けても成果は出ない。君たちは両方ともクリアしたんだね。雰囲気でわかるよ。君たちは実にいいコンビだ。」


 デスクの上の電話が鳴った。叔父が電話に出ている間、ルシファは満足そうにギルを見た。


「すまない。来客らしい。」


「こちらこそ忙しいのにすいませんでした。」


 ルシファもソファを立った。


「最近患者が急増してね、入院病棟はパンク状態なんだよ。いつ落ち着くかわからないが、また今度ゆっくり話そう。」


 上着を羽織ながらそういうと、ギルの正面に立った。


「今度会うときは、君の額には石があるね。」


 叔父は満面に笑みを浮かべて手を差し出した。ギルはうれしさにその手を両手で握った。


「ルシファ、お父さんからは何か連絡はないかい?」


 部屋をでようとして振り向きざまにいった。


「いいえ、何も。」


「そうか。もしあったらよろしく伝えておいてくれ。」


 よほど急いで行かなければならないのか、片手を上げてすぐに部屋を出て行った。



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