第1部 第70章
机に手を伸ばしてボタンを押した。
すぐに腰に手を当てて仁王立ちになったキャッシーのホログラムが現われた。
「一晩中殴りあいしていたっていうから心配してたのよ。」
誰もそんなこといってないというように、後ろでアランが首を振っていた。
「それなのになんなのその晴れやかで楽しそうな顔は。」
キャッシーは眉を吊り上げて2人をにらんだ。
「そんなに腫れてるかい?」
ルシファは自分の顔に手を当てた。
「本気で腹が立ってきたわ!」
ホログラムでなければ殴りかかってきそうなキャッシーに、思わずギルは止めに入りそうになった。
「とにかく元気でよかった。」
キャッシーを抑えるようにアランが身を乗り出した。
「心配かけてすまなかった。」
「その顔で謝られたら、返す言葉がないよ。」
屈強な見た目とは裏腹にアランは困ったようにいった。
「ギルの体力が戻ったら、というよりこの顔が治ったらまた行くよ。」
「治らないくらいに殴ってやりたいけど。」
アランの後ろからキャッシーがいった。アランは困ったように後ろのキャッシーを見た。
「すまなかったよ、キャッシー。」
「ごめんなさい。2人とも。」
ギルは申し訳なさそうに身を縮めて謝った。
「君が謝ることはないよ。今度はワクチンを打っておいで。まだまだ君に見せたい物が山ほどあるんだ。」
「行ってもいいの?」
ギルは身を縮めたまま期待に目を輝かせた。
「もちろんだよ。ルシファから聞いてない? 俺は君が大好きだ。ルシファに君を独り占めするなといったんだ。」
ギルはうれしさに泣きそうになった。あの地獄を再び体験して、少し心が弱くなっていた。自分はやはり光の世界には入れないかもしれないという思いがあった。
「悪かったねアラン。私は一晩中ギルのかわいい寝顔を見ていたよ。」
ルシファが意地悪そうにいった。
「その顔でよくいうわよ。一晩中殴り合いしてたくせに。」
キャッシーの機嫌は直らないらしい。




