第1部 第69章
次に目を覚ますと、見慣れた風景が広がっていた。
「お目覚めかい?」
目の前に湯気の上がるカップが現れた。カモミールの甘くさわやかな香りがした。
「僕、帰ってきたんだね。」
見慣れたルシファの部屋を見渡した。
とても懐かしいように辺りを見渡し、カモミールの香りをかいだ。
ルシファはちょっと無理をしても早々に家に帰ってきてよかったと思った。
まだ病室から出るのは早すぎると止める看護師に
「目が覚めたときに、このラボみたいな部屋じゃかわいそう過ぎる。」といって急いで血液検査をしてもらい、半ば強引に家に帰ってきた。
ギルはお茶を飲むと、ふとそのカップを持つ自分の手の傷を見た。
熱で朦朧としていて記憶があやふやだったが、徐々に自分が暴れていたことを思い出した。
「ルシファ!」
慌ててルシファの方を見ると、ギルに背を向けて窓の外を見ていた。
「ルシファ、こっち向いて。」
ベッドから飛び降りるとルシファの後ろに立った。
「向きたくない気分なんだけど。」
振り向いてくれないルシファの腕を引くと、ルシファの体が痛みでびくりとした。その腕に行く筋もの引っかき傷があった。
「乱暴に扱わないでくれよ。」
しかたなさそうに振り向いたルシファの顔を見て息を飲んだ。
「・・・僕が、・・・僕がやったんだね。」
唇が切れて腫れている。左右の目の大きさも違う。こめかみには絆創膏が貼られている。
「ごめんなさい・・・。こんなに、酷い・・・。痛いでしょ?」
恐る恐るルシファの顔を両手で包んだ。
左目の頬骨の辺りが腫れあがって熱を帯びている。
ギルは泣き出しそうな顔でじっと顔の傷を見つめていた。
「君も同じようなものだよ。」
ルシファは笑って額を突付くと、ギルはあまりの痛みに額を押さえた。
「見てご覧。」
机に置いてある鏡をギルに向けた。
そこに写ってるのはルシファに負けず劣らず傷だらけの顔だった。特に額はどす黒く変色していた。
「いっただろ、君が苦しい時、私も苦しい。君がハッピーなら私もハッピーになれる。君が傷つけば、私も傷つくんだよ。」
ルシファは腫れあがった顔で微笑んだ。
「まるで鏡を見てるみたいだよ。」
「ルシファの方がひどいよ・・・。」
持っていた鏡をルシファに向けた。
「確かに、これは酷い顔だ。でも君だってその酷さは負けてないよ。」
また痛む額に指を当てようとするので慌てて避けた。
ルシファは楽しそうに笑ったので、つられてギルも笑い出した。
机の上から何かの音楽が鳴った。
「まずい、キャッシーからだ。彼女、絶対怒ってるよ。」




