表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
石の記憶  作者: 弥生 飛鳥
65/171

第1部 第65章

 ギルのいる病室へ行くと、廊下にアランとキャッシーが立っていた。


 キャッシーは顔を覆って泣いていた。


「ギル・・・こんなに苦しい思いをしてたなんて・・・。」


 病室からはギルの叫び声がしている。


「2人とも、私の我侭ですまないことをしてしまった。」


「俺はこうなることも承知の上で協力したんだ。気にするな。」


 アランがルシファの肩に手を置いた。


「私が部屋に入ってギルといる。君たちは部屋に戻って大丈夫だよ。」


「私もここにいるわ。」


 キャッシーが泣きはらした顔をあげた。


「いや、2人は部屋に戻って・・・。」


 ルシファは2人に背を向けてドアに手をかけた。


「見られたくないんだ。」


 静かにいった。


 アランはルシファの覚悟が生半可ではないのがわかった。


「わかったよ。でも俺もギルが大好きだ。彼のあんなに喜んでる顔が見たい。元気になったらまた会わせてくれよ。独り占めは駄目だからな。」


 ルシファは振り向いて苦笑した。


 まだここにいたそうなキャッシーの背を押して、アランは歩き出した。


 2人の靴音が聞こえなくなると、ドアを開けた。


 ギルの叫びが大きくなった。


「ギル。すまない。今、自由にしてあげるよ。」


 恐怖で痙攣しているギルに言葉をかけると拘束具を外した。


 ギルの体の痙攣がひどくなり、自由になった手足をむちゃくちゃに振り回した。


 細いその体から想像もつかない力で弾き飛ばされ、壁に肩を打ちつけた。


「ギル! 落ち着くんだ。」


 振り回す手が壁に何度も当る。このままではギル自身の手が折れかねない。


 肩の痛みで力が入らないまま、振り回されるギルの腕を掴んでベッドに押し付けた。


 それでも抵抗しようともがくギルの見開かれた目は焦点が合っていない。完全に恐怖にのっとられて我を忘れている。


「母さんやめて! その子は何も悪くない! 悪いのは僕だけだ。刺すなら僕を刺して。その子はやめて!」


 ぬいぐるみの犬が切り裂かれているのを追体験しているのだろう。


 もう終わったのに。あの地獄の日々は終わったのに。まだギルを縛り付けるのか?


「ギル。終わったんだよ・・・。もう地獄は終わったんだよ。」


 ギルの腕を押さえながらルシファは呟いた。


 ギルの体の力が抜けた。それはルシファの声が聞こえたからではなく、ただ体が限界だっただけ。


 とにかく、荒い息のまま体の力は抜けたようなので、ルシファは手を離して、ベッドに腰掛けてギルの手を握った。


「私には君を救うことはできないのか?」


 あんなに笑えるようになったのに、外の世界にも出られたのに。それでも心の傷は残ったままでいつまでもこうして苦しむのだろうか?


 14年間の地獄の日々がそう簡単に癒せるわけがない。それはわかっている。


 でも、あんなに今朝はうれしそうに、心から笑って、新しい世界に飛び込んでいたのに・・・。


「ルシファの翼はきっと真っ白なんだろうね。」


 手渡した鷹の羽を握ってあんなに笑っていたのに。


「私に翼なんかないんだよ。・・・君を救える天使にはなれないんだ。」


 ギルの手を握り締めて、その手に自分の額を当てた。


 いつも疑問に思っていた。ルシフェルはどうして神に反逆したのだろう?


 全知全能の神に対して一体どんな異論があったのか。地獄に落とされてまでも神に対して拒絶したものは何だったのか。


 今でもその答えは出ない。


「私は地獄に落とされた悪魔でしかないんだ。」

 



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ