第1部 第63章
動物園から診療所のまでの車の中は誰も何も話さなかった。
あんなにうれしそうにしていたギルが今はただ唇を噛み締めていた。3人とも何も声をかけられなかった。
診療所に着いた時には既に熱があるのは明白なほどギルの体は熱かった。
キャプテンには事前に不測の事態の時の話はしてある。詳しい説明もなくすぐに病室に通された。
「怖い・・・。ルシファ、怖いよ・・・」
病室のベッドに座らせられるとギルは震え出し、ルシファの腕を強く握った。
「大丈夫だよ、採血するだけだ。ちょっと痛いかもしれないけど、すぐ終わるよ。」
アランが安心させるようにいったがギルの顔からは血の気が引いていた。
ルシファにはギルの怯えが採血ではなく、この部屋だとわかった。ラボを髣髴とさせる白い壁、簡易なベッド、消毒の匂い。
あの、拘束され、殴られ、ののしられるだけの地獄の空間。
「ここはラボじゃない。」
ルシファの言葉になんとか落ち着こうとしたが、目の前に注射器が見えたとき、ギルの中で何かが壊れた。
突然叫び出すと暴れ出した。
「ギル! 大丈夫だ、落ち着くんだ!」
しかし、もう自分の叫びで何も聞こえなくなっていた。
暴れるギルを押さえようとしたルシファは突き飛ばされて、注射器を乗せたテーブルにこめかみを打ちつけた。
めまいに視界が暗くなり、体の感覚がおかしくなった。なんとか立ち上がろうと手に触れた壁に寄りかかってやっと立ち上がると、誰かに肩を支えられた。
「危険です。外へ出ましょう。」
危険?
何のことかわからずに振り向くと、ギルが数人の看護士に押さえつけられベッドに縛られる所だった。
「何をするんだ!」
「このままでは採血ができない。せめて採血するまでだ。」
「ギルは採血が怖いんじゃない! この部屋が、ラボが怖いんだ。」
ギルのところ行こうとするルシファを両側から看護士が抑えた。
「血液検査で感染ウイルスが判明して、治療方が決まるまでですよ。そんなに長い時間拘束するわけじゃない。それに今の状態では拘束しないと彼自身が大怪我をする。彼のためですよ。」
確かに今の状態でこの部屋で暴れたら、いろいろな所に体をぶつけて怪我をするだろう。我を忘れて恐怖に襲われてる今、力の加減もなく壁に頭をぶつけかねない。
だからといって、このままギルをまたあのラボと同じ状態にすることはどうしてもさせたくなかった。
看護士に導かれるまま部屋から出されたルシファは白くなるほど手を握り締めた。
「かわいそうだけど、仕方がないよ。」
一緒に部屋を出されたアランが力なくいった。
「キャプテンと話をしてくる。」
押し殺したように低い声で呟くとルシファは部屋を離れた。




