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石の記憶  作者: 弥生 飛鳥
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第1部 第5章


朝日が地平線から姿を現した。太陽は世界全てを自分の金色のベールで包んだ。


 ピンクの花も、緑の草も薄い金色のベールで包まれた。


 でもそれはほんのわずかな時間。太陽の金色のベールはマジシャンの使う布のように全てのものを包んで、魔法をかける。いや、命を吹きかけるのだろうか。


 太陽が地平線から離れて空を昇り始めると、全てが目を覚まし、そのもの本来の色になる。赤い花はその赤で咲き誇り、鏡のように金色に輝いていた湖は青く染まり。空気も動き始め、風が吹き、空には鳥が飛び交い、歌を歌い出す。


 この美しい風景、髪をかき上げる冷たい風。どこまでも続く緑の草原。

 母さんの大好きなこの風景。そしてその時の母さんはとっても満たされていて、自分を誇らしく思っていた。


 なのに、自分がその全てを壊したんだ!


「ギル! ギル!」


 誰かの呼ぶ声に夢の中から現実に戻ることができた。


「大丈夫? ひどくうなされてた。」


 心配そうに覗きこむルシファがいた。

気付くと息が荒い。汗を沢山かいているのに寒気がした。


「すごい汗だ。シャワーを浴びておいで。」


 荒い息で頭がクラクラした。


「立てる? 案内するよ。」


 思えば、この部屋から出たことがないだけでなく、ベッドから降りたこともなかった。


 ゆっくり足を下ろすと足首に痛みが走った。


「拘束具があるのに暴れたから。ちゃんとレントゲンは取って骨は大丈夫。ただ内出血やら擦過傷やらいろいろ傷ついてはいるけどね。」


 下ろされた足首に巻かれている包帯をルシファがほどいた。


「結構治ってる。これならシャワーで沁みないで済むと思うよ。」


 包帯の巻かれていた部分は青黒く変色している。


「手も出して。」


 両手首にも包帯が巻かれていた。包帯が取れると同じように黒く変色した皮膚があらわになった。


「触ると痛いだろうから、軽くシャワーを浴びるだけにした方がいい。」


 歩けるかどうか近くで見つめていたが、おぼつかない足取りでも歩けることがわかると部屋のドアを開けた。


 廊下に出ると豪邸というほど広くはないが、昔住んでいた家よりははるかに沢山の部屋があった。


「熱いシャワーを浴びると倒れるから気をつけてね。」


 シャワー室を開けると手に持っていたバスケットを下ろした。


「タオルはここにあるからね。悪いけど、しばらくは私の服でガマンしてくれ。」


 ルシファが出て行った後、鏡に映る自分の姿にどきりとした。


 鏡など何年ぶりだろう? 鏡に映る自分に唖然とした。


 やせこけた体。でも身長は記憶と全然違う。


 顔にかかる乱れた黒髪を上げた。


 あざだらけの顔。


 恐る恐る服を脱ぐと記憶のあざ以上のあざができている。


 そして、母に押し付けられた焼印の跡はあの頃のまま残っていた。


 


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