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石の記憶  作者: 弥生 飛鳥
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第1部 第59章

「ギル、リスもいるわよ。」


 キャッシーの指差す方を見るとちょろちょろと何かが動いているが、あまりに早くて草陰にかくれたり、木の後ろに隠れたりでよく見えない。


「あ、見えた! かわいい。」


「君は動物が好きなんだね。」


 いつまでもリスの動きを見ているギルにアランが優しくいった。


「大好き。もっとじっくり見たいのに、すごく早く動くんだね。」


「じゃあ、明日はゆっくり見られる動物園にしようか?」


 計画作成はキャッシーが担当らしい。


「本当? うれしい。」


「今日、君に見せたい物はもう少し先だよ。」


 アランがどんどん歩き出した。ギルは慌てて走り出した。


「そのうち、アランの所へ行くといいわ。半野生のオオカミに会えるわよ。」


 追いついたキャッシーが息を弾ませながらいった。


「アランはヴィレッジにいない時は野生のオオカミの保護施設にいるの。」


「保護施設?」


「野生の傷ついたオオカミを保護して、怪我が治ったらまた野生に返すところだよ。」


 アランが振り向いていった。


 今頃気付いたが、アランの額には石がない。アランはナチュラルなんだ。


「オオカミだけじゃなく、他の動物も保護したりしてるよ。」


「行きたい!」


 鷹の羽を握り締めてルシファにいった。


「おいおい、私の仕事を増やさないでくれ。」


 アランに不平をいった。


「いいじゃないか、君もしばらく来てないだろ?君にもあそこでの現状をみてもらいたい。」


 アランの言葉に一瞬ルシファの顔が曇った。


「さあ、もうすぐだ。この木のトンネルを抜けると・・・。」


 行く手を阻むように茂った枝を潜り抜けると、突然視界が開けて目の前には大きな湖があった。


「すごい・・・。」


 目の前の湖は太陽の光を受けて輝いていた。


 湖の周りは青々とした草原。その周りを更に囲むように鬱蒼とした森の木々が茂っている。まるで草や木に守られているようだった。


 光る湖面を水鳥がのんびりと泳いでいる。


「シカがいるわよ。」


 キャッシーが小さい声でささやいた。


 ずっと向こうでシカが水を飲んでいた。シカは気付いたらしく顔を上げてこっちを見るとバネのように高く跳躍してあっという間に草むらに隠れて見えなくなってしまった。


「この湖の水はこの辺りの動物、植物の命を支えてるんだよ。そして水もみんなに助けられている。」


 ギルがよくわからずにアランの顔を見た。


「水はね、とっても大切なものなんだ。その水が昔、とっても汚された時代があった。」


「どうして汚れたの?」


「ジーンリッチが出来る以前に、人間は自分達の快適さのためにどんどん科学技術を発展させて、農薬や戦争で自然も水も毒だらけで破壊されていたんだ。」


 戦争の話はライブラリで少し見た。人が人を殺す。そのためにいろんな兵器が使われた。それは人間だけでなく自然も動物も殺した。


「1度破壊された自然はすぐには元に戻らない。長い時間をかけて少しずつ戻ってきた。」


「どうやったら戻ることができるの?」


「土の中の微生物が汚れた物を分解する。草や木も自分の体内に毒を取り込んで少しずつ分解する。でも水は自分では分解できない。草や微生物に世話になってきれいにしてもらうんだ。そうやって自然は持ちつ持たれつお互いが協力しあってるんだ。人間もこのサイクルの1部なのに、未だに自分の快適を求めて自然を省みない科学技術は続いてるよ。」


 キャッシーが前に話してくれた話を思い出した。病気になった人間を自分の命と引き換えに癒してくれるハーブたち。


「どうして、人間だけがそんな自分勝手なことばかりして、自然に迷惑かけるんだろう?」


 自分が人間なのが恥ずかしくなってくる。


「でも、ちゃんと人間は更生しようとしてるよ。少なくともこのヴィレッジにくる人たちはジーンリッチだのナチュラルだの、そんなの関係なく、みんな協力しようとしている。この森の自然のようにね。そういった意味ではこの森はヴィレッジの理想の姿なんだよ。」


 アランがこの湖を見せたかったわけが何となくだがわかったような気がした。



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