第1部 第55章
「弱いんじゃない!」
ギルは叫んだ。
「あなたはちゃんとわかってるわね。」
キャッシーが満足そうにいった。
「そうよ。あの犬は誰が見ても助からなかった。」
ただかわいそうだっておろおろして、獣医に連れ行こうとしていた。連れて行っても助からないのはわかっていた。そんな中途半端な優しさのせいで、犬は長い時間苦しむしかなかった。
「ルシファはね、例え自分の手を汚そうとも、悪魔と呼ばれようとも、相手のためになることなら躊躇わずに実行する。」
悪魔と呼ばれようとも・・・。
「軟弱な優しさじゃない。本当の強さのある優しさを持っているのよ。」
あの時の苦しみを思い出したようにキャッシーの目が少し潤んでいる。
「ただあの人、あんなふうにいつもクールでしょ? だから誤解されやすいのよね。冷たい人だって。」
「冷たい人?」
全く理解できないわけではなかったが、ギルのルシファのイメージはどこまでも優しい人だった。
「ルシファもまたそれに対して反論しないからね。誤解されやすいのよ。」
誤解されるなんて、そんな。ルシファがどんなに優しいかわからないなんて。
「でも、あなたといるとあの人本来の優しさが自然と出てるのよ。別に隠してたわけじゃないんだろうけど、今まで他人が見ることのなかったあの人の優しさがね。」
ギルは疑問が解けたかと思ったのに、新たなる疑問ができたような気がした。どうしてルシファの優しさがわからない人がいるんだろう? どうして自分にはそんなに優しくしてくれるんだろう? 同じ悪魔だから? お互い宙ぶらりんな存在だから?
「あの人と一緒にいてあげて。あの人の本当の優しさをもっと引き出してあげて。私はあなたとルシファが一緒にいるのを見るとほっとするの。2人共、一緒にいる時が1番自然体で幸せに見えるから。」
ヴィレッジには来週行くことになった。もちろんキャッシーも一緒に。
「キャプテンにもらったクリスタルのライブラリ、読んでおかなきゃ。」
ギルがクリスタルを読んでいる間、ルシファは何度かヴィレッジに行き、部屋では何かのデータを見ていた。
クリスタルの中に入っている情報はとても興味深く、人間の歴史や地球のいろんな所の環境や自然が見られた。
見れば見るほど世界は広い。博物館で体験した極寒の地から南の島の熱帯まで。自然は生きていて、人間も生きている。あの寒さとあの暑さ。同じ人間が生活できるとは思えなかった。ナチュラルとジーンリッチ以上に違うのではないのかと思うほど。
世界は一つの形しかないわけじゃない、さまざまなんだ。庭の花が赤くても黄色でもみんなそれぞれ自分色に咲いている。
自分はこれからどんな世界で生きていくのだろう。どんな可能性があるのだろう?あまりにもいろんな世界がありすぎて全く検討もつかない。
ヴィレッジに行ったらどんな世界が見られるんだろう?
不安はなかった。期待しかない。見知らぬ世界に恐怖しか感じなかった昔の自分は一体誰だったんだろう?




