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石の記憶  作者: 弥生 飛鳥
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第1部 第54章

 昨日の疲れが残っているのだろうか、いろいろ知りたいことを必死に吸収しようとして飽和状態になってしまったのだろうか。少し疲れた様子を気にかけて、庭を一通り散策するとリビングに戻った。


「後でライブラリ貸してあげるから、ゆっくり勉強するといいわ。」


「ありがと。なんだかすごく楽しくて、何でもやってみたくて、焦り過ぎてるのかも。もう少しペースを落として楽しむことにしないと。」


「もっと体力つけなきゃ、私と遊べないわよ。」


 キャッシーが笑いながら目の前のソファに座った。


「僕ね、まだ信じられないんだ。」


 疲れて頭がふわふわしてる。


「僕、どうしてこんな優しい人たちと一緒にいられるのか、わからないんだ。」


「今までが異常すぎただけ。今が当たり前なの。何も不思議なことなんかないのよ。」


「でも、やっぱり不思議だよ。なんでルシファは僕をあそこから出してくれたんだろう?」


「私には何となくわかるわ。」 


ギルは朦朧とした頭が一気にはっきりとした。ルシファが自分でもわからないといっていたのにキャッシーは答えを知ってるの?


あまりの期待に満ちた視線にキャッシーは少したじろいた。


「私の勝手な考えよ。事実かどうかはわからないわよ。」


 責任は取れないと釘をさした上で話始めた。


「ナチュラルとジーンリッチのハーフのあなたと、男性でも女性でもない自分。『どちらでもない』っていう中間の存在としてどこか似たような感覚を持ったんじゃないかしら?」


「中間の存在」? 


「『人造人間』として『人間』とは違うっていう想いもあると思う。そんなことまるで表にださないけどね。」


 みんなと違う存在。


ルシファは一体どんな経験をして、どんな思いをしてきたのだろう。


「ルシファは強いね。」


 きっといろいろなことがあったのだろうに、自分の前ではいつでもあんなに優しくいてくれる。


「ええ、とても強い人よ。私が1番、『この人は本当に強い』って思ったときの話、してあげようか?」


 ギルは目を輝かせた。


「ヴィレッジでね、道路に轢かれた犬がいたのよ。」


 車に乗っていたキャッシーとルシファはすぐに車を降りて犬に近づいた。


 犬は瀕死の状態で、破裂した腹部から内臓が出ていた。誰が見ても助かる見込みはなかった。


 キャッシーはなんとか助けたい一身で1番近い獣医の検索をかけたが、なかなか見つからない。


 その間も犬は時々痙攣を起こし、必死に大きく息をしていた。


「キャッシー。もう無理だよ。」


 泣きながらどうすることもできないキャッシーにいうと、ルシファは犬の側にひざまずいて犬を優しくなで始めた。血で汚れるのも構わず左手でほつれた毛をすく様に撫で、右手は、犬の気道と頚動脈をゆっくりと圧迫した。


 キャッシーは何もいえずに立ち尽くしていた。


 犬の必死な荒い息が小さくゆっくりになっていく。そして、止まった。


 ルシファは手を離すと犬の見開かれた目のまぶたをそっと下ろしていった。


「私はこの犬が苦しむのを見たくなかった。自分の弱さで、この犬を殺した。」


 血にまみれた手で、はみ出している内臓をお腹に入れていた。


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