第1部 第53章
「ここが私の自慢の庭よ。」
外に出ると、いろんな植物が茂っていた。
ルシファの庭は草原のようだが、ここは木が多い。いろんな高さの植物が茂っている。
足元を見ると、知ってる花があった。
「カモミールだ。」
「『苦難に耐える』っていう花言葉なのよ。この花のハーブティは頭痛や不眠に効くのよ。」
「カモミールってお薬になるの?」
「そうよ。草花はみんな人間のためにがんばってるの。」
キャッシーは昔のジーンリッチとナチュラルに分かれるよりも、もっともっと昔の人たちの言い伝えを話してくれた。
以前、人や動物、植物はみんな仲良く暮らしていた。
しかし、どんどん人間が傲慢になっていき、動物や植物をまるで自分の所有物のように扱い始め、動物を殺して食べるほど野蛮になった。
それに怒った神様は人間を懲らしめるために「病気」を与えた。
人間はあらゆる病気で苦しむことになった。
それを見た植物たちはあまりにひどい仕打ちに、自分たちの身をなげうって人間たちを癒すことにした。
「これが薬草の始まり。植物たちは自分が食べられることで人間を癒してくれるの。すごいと思わない? 自分のことしか考えてない人間より遥かに素晴らしい存在だわ。」
キャッシーは愛おしそうにカモミールの香りをかいだ。
「これはタンポポ。 この花よ。」
キャッシーは自分の着ているTシャツのウサギのくわえる黄色い花を指差した。
「着てくれたんだ。似合ってる。」
ギルはうれしくなった。
「ありがとう。お気に入りの服だわ。」
ウサギに微笑みかけると、その口にくわえた黄色い花を見た。
「タンポポは必要な栄養素を沢山持っていて、更には体内の要らない毒素を排出してくれる優れたハーブなのよ。」
「すごいんだね。いろんなこと知ってるキャッシーもすごいね。」
「ありがと。私ね、植物や自然がいろんな役割を必死にしているのに、わかってあげられないのがもどかしいの。だからいろいろ勉強して彼らのことを知るのがとても楽しいのよ。」
愛おしそうにタンポポを指でなぞった。
「僕も知りたいな。」
「私が今まで勉強するのに手に入れたライブラリを貸してあげるわ。」
「本当? ありがとう。」
「でもこうして直に接したほうがいろいろ勉強になるわよ。ほら、これがパプリカよ。」
「中身のないお野菜だね。」
緑色の葉の影からつるつると光った赤い実が見える。
「緑色のもある。」
「熟してないのよ。あと数日太陽の光を浴びれば赤くなるわ。」
太陽は魔法使いのようだと思った。
「ラズベリーはどこ?」
「こっちよ。ラズベリーがお気に入り?」
「だって、おいしいよ。キャッシーの額の石ってラズベリー色だね。」
キャッシーが指差した所には、ツルバラの枝かと思うほどのツルが無秩序に絡まりあっていた。
「これが・・・ラズベリーなの?」
近づいて絡まりあった枝をのぞくと、見覚えのある真っ赤な実が見えた。
確かにツルには棘がある。
隙間を探して手を入れてみた。何とか捕れる。棘に触らないように指先で捕るとほっとして隙間から手を引いた。
「痛っ。」
安心して気を緩めすぎた。棘があたって手の甲に赤い蚯蚓腫れができた。




