第1部 第44章
何となくキャプテンの話がずっと気になってる様子のルシファに今日もキャプテンに会ってくるように勧めた。
「キャプテンに出した宿題の答えも聞きたいから、行ってこようかな。」
「あんなすごい人に宿題を出すって、一体ルシファは何者なの?」
奇想天外な人だとは思っていたが、更に呆れた。
「私なんかの話を聞いてくれるキャプテンがいい人なんだよ。君も会えばわかるさ。」
ルシファが出かけたのでゆっくりクリスタルを読もうと思ったが、その前にどうしてもしておきたいことがあった。
庭に出ると昨日の岩のところまで走った。
「元気? 君の事が気になって、会いたくなったんだ。」
膝まづいて岩を抱きしめた。
「?」
おかしい、いくら感じようとしても昨日のあのイメージがこない。
「まさか、本当にあの記憶が消えちゃったの?」
どう理解したらいいのだろう?
刻まれた記憶など消せるのだろうか?
クリスタルを読もうとしても集中できない。
どうやったら本当に記憶を消せたのかどうか確かめられるんだろう?
ギルはどうしても本当に記憶が消せるのかどうか確かめたかった。
ルシファはまたライブラリの水晶をいくつか持って帰ってきた。
「宿題はちゃんとやっといてもらえたの?」
早速お茶を作ってルシファに差し出した。
「そのことなんだが。」
何かすっきりしない顔だった。受け取ったカップをしばらく見つめていた。
「君に関することなのに、君より先にキャプテンに話したことを、初めに謝っておくよ。」
いつもギルは気にしないことまで謝る。
「君をヴィレッジに連れて行くのに、ちょっとしたことを試してみようかと思うんだ。」
ギルは首をかしげた。
「ジーンリッチがヴィレッジに入るにはワクチンを打たないといけないといったよね。」
ギルは頷いた。
「私は初め君をラボから出してジーンリッチになってもらうことしか頭になかったけど、君は半分はナチュラルの血が流れている。」
カップをゆらして、まわる液体を見つめた。
「もしかしたらナチュラルとして生きる選択肢もあるのかなと思ってね。」
僕がナチュラルとして・・・? 全く考えたこともなかった。
「もし君がナチュラルとして生きられるのに、何も試さずにジーンリッチになるのはいけないことなのかもしれないと思ったのさ。」
本当にルシファは自分が思う以上の事を考えてくれてるんだと改めて思った。
「ただ、それを試すにはリスクが高すぎる。」
ルシファがカップから視線をギルに向けた。
「ナチュラルとして生きるにはワクチンなしで自然の環境で生活できないといけない。ジーンリッチがワクチンを打たなかった場合、すぐにウィルスや感染症にかかって病気になる。」
ギルはうれしさを感じ始めていたのに釘をさされたようだった。
「もし、挑戦してみるなら感染した時のための万全の医療体制を整えなきゃならない。その計画に協力してくれるかどうか、キャプテンに宿題を出したんだ。」
「キャプテンの答えはどうだったの?」
「君の健康管理を兼ねた血液検査とそのデータの研究を承諾すれば協力してくれるという答えだった。」
視線をまたカップに戻した。
「研究材料にされるようで気分がよくないよね。でも君がナチュラルとして生きられるかもしれない可能性を何もしないでみすみす捨てるのもどうかと思ってね。」
ギルはクスっと笑った。
「本当にルシファって僕のこといろいろ考えてくれるんだね。当の本人は全く考えてみもしなかったのに。」
「もちろん、そんなリスクなんか犯したくないというのならこの話はなかったことにするよ。君に先に話して挑戦してみる気になっても、キャプテンが許可してくれなきゃ、ぬか喜びだからね。だからキャプテンに先に話しただけで、決定権は君にある。」
「僕の答えはわかるでしょ? 僕は何でもやってみたい。体験したいし、知りたいんだ。」
ルシファの表情がほっと緩んだ。
「じゃあ、正式にキャプテンに頼んでおくよ。でもアニバーサリー・ヴィレッジよりもジーンリッチの世界を見るほうが先だ。キャッシーが時間のあるときに一緒に街に行こう。」
ギルは右手にも左手にもプレゼントをもらったような気分になった。
「すごいよ、ジーンリッチの街にも行って、ナチュラルの世界も見に行けるなんて。僕、本当に何でもできるんだね。信じられないよ。」
自分は何もできないただのゴミにしか思えなかった今までの生活は一体なんだったのだろう。本当に突然真っ暗闇に光が差した。光は今まで見えなかったいろいろな世界を照らし出してくれる。光の天使の魔法は際限なく広がっていく。




